「この本丸の皆様の関係性が垣間見れたような気持ちです」
「うん」
案内が終わって、再び居間に戻る際、鳴狐の肩に乗った狐が頷いた。
「審神者殿は、にぎやかな皆様をよくまとめてらっしゃる」
「うえ?そうかな…。ありがとう」
ナマエはふにゃりと表情を崩す。加州はそれを聞いて得意げに鼻を鳴らした。
「なんで加州さんがドヤ顔してるんですか」
「俺にとってはナマエ様は自慢の主なの!褒められて嬉しくない訳ないじゃん」
「む、そう言われればそうか…。鳴狐さんってば分かってるなあ!さすが粟田口!」
「刀派が関係あるのか…」
「ありますよー。山姥切さんも兄弟いるんでしょ?」
「ああ…」
にぎやかしいなあ、と目を細めていると、小夜がナマエの着物の袖を引っ張った。「どうしたの」と話しかけると、いつになく険しい顔をした小夜が口を開いた。
「あっちからなにか聞こえる」
小夜の言葉に、皆の会話がストップする。よく耳をすませば、無機質な音が繰り返されているのが分かった。
「私の部屋からの通信音かな…?何かお知らせでもあったのかも」
「一緒に行く」
「そんな、だいじょ…分かった。一緒にいこっか。みんなは居間にいて」
気を使わせたくないと申し出を断ろうとしたが、小夜の表情を見たナマエは彼の言葉に従うことにした。きっと大丈夫だろうけど、心配してくれる気持ちに甘えることに。
小夜が一緒なら安心だろうと、居間で待つことにした刀剣たち。加州は少しそわそわしている。
その内、とたとたと慌てた足音が居間に向かってくる。
殺気がないことから、手持ちの刀を構えることはないが、たまらず居間を飛び出す面々。その勢いに山姥切、鳴狐とお供の狐が驚いている。
「どうしたの、主!」
「みんな、鳴狐君の主さんがこっちに来るって…」
審神者、刀剣たちが鳴狐を注視した。狐の方も「鳴狐…」と彼を案じている。
鳴狐は固く目をつぶって、ゆっくりと開いた。
「会うよ」
**
先ほどの電子音は見知らぬ審神者からの連絡を知らせるものだった。スマホをとって恐る恐る「どちらさまでしょうか…」と応答すると、「すみません、そちらの本丸に、鳴狐はいらっしゃいませんか」年若い女性の声が聞こえた。内容もさることながら、焦ったような声を聴いた瞬間にナマエは「鳴狐の本来の主だ」と気付いた。鳴狐たちを形作る霊力が声から感じられたのだ。
鳴狐を保護し、手当した旨を伝えると、彼女はつめていた息をはきだし、「そうですか…。よかった…」と安堵したように聞こえた。絶対良い主だ、とナマエはここで確信した。
簡単にお互い自己紹介(彼女は後輩らしい)をしたところで、本題に入る。
「ナマエさんの本丸を訪ねてもよろしいでしょうか?彼を、迎えに行きたいんです」
「…あの、鳴狐君に聞いてみてもいいですか?」
「えぇ、もちろん。お願いします」
こちらで勝手に決めたらよくない。鳴狐の心の準備が出来ているか聞かないと。
相手の審神者の方も、それに同意したところで、ナマエは「あっ」と思い出す。
「…そうだ!それと、鳴狐君が助けた部隊の人たちはみんな無事ですか!?」
「はい、彼のおかげで、みな無事に帰還しました」
「そうなんですね!良かったあ…」
彼の頑張りは確かに報われた。これも伝えておかなければ。良かったを連呼するナマエ。
「ありがとうございます。心配して頂いていたんですね」
「いえ、そんな…。鳴狐君もみんな無事に帰れたか案じてました。だから本当に良かったなって…」
「鳴狐を助けてくれたのが、あなたたちで良かった」
真摯な言葉に、どう答えるべきか困るナマエ。「いや、そんな」と繰り返しているうちに、はっとした。「私も、鳴狐君の主があなたで良かったと思います」と伝えることができた。
ナマエを探してまで、鳴狐を迎えに来ようとしている優しい主。「あわよくば仲間に」なんてことを考えた時もあったが、きっと、戻っても大丈夫だろう。
**
「ということで、も一度連絡したよ。もうすぐ来るんじゃないかな」
居間に留まる一同。再度部屋で連絡したナマエが鳴狐の審神者が来ることを伝えに戻ってきた。
鳴狐には既に、審神者の人となりや、守った仲間はみな無事であったことを伝えている。狐が「鳴狐、良かったですね!!」と号泣しているのを、鳴狐は暖かな目で見つめていた。それを思い返しながら審神者は一人、唸る。
「いやあ、寂しくなるなあ…」
「あれっ?『あわよくば』は?」
加州がそのつぶやきを拾う。
「あの審神者さんなら鳴狐君も大丈夫だと思ったから。…でも、会ってみて鳴狐君がどうしたいか聞いてからの言葉だったね」
鯰尾たちに囲まれた鳴狐を見やる。「優しそうな主でよかったですね!」「別に緊張しなくていいんじゃない?」と声を掛け合って穏やかな雰囲気である。
玄関のチャイムらしき音(初めて聞いた)が鳴り、ナマエが立ち上がる。
「ごめんください」
ついに、きた!
鳴狐を手招きすると、玄関の方へ急ぎ足で向かう。刀剣たちがゾロゾロとみなついてきたのに、大丈夫かな、と思いながらも、まあいいか、となるナマエ。
玄関の扉を引くと、ナマエと同じ巫女装束を身に着けた審神者が立っていた。傍には蜂須賀虎徹。きらきらした鎧を身に着けている。真ん前の鳴狐を見つけ、嬉しそうに微笑む審神者。それを見て、目を細めるナマエ。
「改めて初めまして。えっと…ひとまず中でお話しましょう?」
「こちらこそ初めまして…。有難うございます。お言葉に甘えさせて頂きますね」