おうちデート

夏休みの課題を一緒に進めないかと湊から提案があった。遅れて意味を理解したナマエは、湊の言葉に勢いよく飛びつく。一生懸命、嬉しい気持ちを言葉にするナマエ。それを愛おし気に見つめる湊。
約束し終わって部屋に戻ったナマエは一人、余韻に浸るように息をついた。湊の部屋で二人で勉強する。湊と自分は付き合っている。…これって「おうちデート」というものではなかろうか。ゆかりの部屋で読んだファッション雑誌に書いてあったのを思い出す。一緒に出掛けたことはあるけども、彼の部屋を訪ねるのは初めてであった。二人きりの部屋、湊の香りのする部屋…。想像するだけで頬が火照る。気分が浮ついてきたところで、いや、まてよ、と頭を振る。これは、あくまで「勉強」だ!危ない、私だけがはっちゃける所だった…。自制を言い聞かせたところで、胸の高鳴りはすぐにはとれない。想像を膨らませては、首を振る、を繰り返すばかりだった。だが、とある思い付きは是非とも実行しようと、ある人物へ協力を仰ぐことにした。思い立ったら行動あるのみ。

約束の当日。勉強道具と紙袋をひっさげ、湊の部屋を訪れた。誰にも見つからないようにたどり着けたはず。ゆかりや順平に見つかれば、輝いた顔で色々問いただされるだろう。
ノックをしたら、柔らかな笑顔の湊が扉を開ける。

「いらっしゃい、どうぞ入って」
「お、おじゃましまーす」

湊に促され、部屋に入っただけで、鼓動がいつも以上に鳴り響く。所々青くて(ベッドやカーテン)、湊のイメージにピッタリの部屋だと心の中で何度も頷くナマエ。想像通り、湊の香りがする、気がする。部屋の中央に置かれたテーブルで勉強するのだろうか(座布団も置かれているし)、などと考えている間に、我に返る。慌てて紙袋を差し出す。

「湊君、良かったらこれ…!プリン作ってきたの」
「えっ、ナマエの手作り?嬉しいな、ありがとう」
「えへへ…休憩時間にでも一緒に食べよう!」

お土産に何か持っていきたい、からの、スイーツを作って喜んでもらいたい、という思いが合わさり、荒垣に助けを求めることにした。
めんどくさそうな顔をされたが、面倒見のいい彼に必死に頼み込めば、断れないことを知っている。荒垣なら他言しないだろうと、勉強会のこと、お土産をもっていきたいことを伝え、プリンを作ることを提案してもらった。メモしたレシピをもらい、1回試しで作るのにも付き合ってもらう。その際、彼のことを1回「おかあさん」と呼んでしまったのは内緒である。

「冷蔵庫にいれておくね」

プリンを小型の冷蔵庫にしまった後、そこに座ってと、やはり座布団を手で示された。

「お茶…、麦茶しかないけど大丈夫?」
「わ、ありがとう~!全然大丈夫」

湊が手ずから、麦茶をコップに注ぐ。してもらうだけでは申し訳ないと思い、ナマエも立ち上がって、湊から麦茶を受け取り、テーブルに持っていった。

そして、席へ座る二人。何の課題やる?私は数学進めるようかな。僕は古典。などと話しながらも、ナマエの胸のどきどきは収まらず。こんな状態で勉強に集中できるのかな!?と思いながら、課題に向き合うこと、30分。案外、慣れるものである。いつものように、湊の傍にいれて幸せだ、と穏やかな気持ちで彼と向き合える。それに、勉強に集中している顔が格好いい。普段授業じゃ見れない顔が、今目の前にある。まじまじ見ていたら、「なあに?」と笑顔を向けられてしまった。「ナンデモナイデス…」と縮こまるほかない。

湊に分からない問題に気軽にアドバイスをもらったり、こちらも湊にこうしたらいいんじゃない、と教えながら勉強を進める。お互いの得意教科を合わせて教え合うのは良いことだ。さらに2時間ほど時間がたった。

「そろそろ休憩にしない?」
「賛成!」
「ナマエのプリン食べたいな」

冷蔵庫を開け、課題をのけた後のテーブルへ紙袋をのせる。紙袋を開けるとカップに入ったプリンがあらわに。「おいしそう」と湊の声があがり、照れるナマエ。

このプリンのカップも「余ってるから持ってけ」と荒垣に言われて貰ったものを使用している。
さすがに「余ってるんですね」とは言えなかった。誰に作っているんだろう。

いただきます、とカップの蓋を開け、紙袋に一緒にいれてあったプラスチックスプーンでプリンを1口分すくう。

「うん、おいしい」
「教えてもらったからね、良かったあ」

さすがに全て自分の手柄にできない。正直にそう伝えると、即座に湊が口を開く。

「もしかして、荒垣さん?」
「そう、荒垣さん。1回試しで作るのにも付き添ってくれたし、レシピまで貰っちゃって。本当、荒垣さんサマサマだよ」
「…そっか、僕も料理作るの頑張ろうかな」
「えーなあに?湊君、荒垣さんに嫉妬してるの?」
「そりゃあね、僕もナマエと一緒にお菓子や料理作りたいもの」

意地の悪い事を聞いたかな、と思う間もなく、スマートな返答をされる。ナマエは思わず、そのクールさが良い、と胸を押さえたくなった。

「湊君…さらに惚れちゃう…!」
「ナマエってば」

くすくす柔らかな笑みを浮かべる湊。ああ、このひとと付き合えて本当に幸せ…。ぽわぽわとした気持ちが浮かび、ナマエも破顔してしまう。

話している間に、あっという間に空になったプリンカップ。もうちょっと休憩…もとい、湊の
部屋をじっくり見てみたい、という欲望が生じるナマエ。部屋の中が簡素な分、積まれている段ボールが凄い気になる。それ以外にはベッドに転がってみたい、とはさすがに言えない。座るのはまだアリかもしれないが、どうやって会話からそこに持っていくのか不明である。考えることをやめ、ひとまず段ボールへ目を向けることにした。

「結構段ボールあるよね。引っ越しから片付いてない…とかじゃなくて…あれ?時価ネットたなか?」

段ボールには、その名の通りのロゴが印字してある。立ち上がって、段ボールの傍に寄ることにした。

「そう、放送の度に買ってると思う」
「本当!?…そういえばその番組、品揃えが凄いって聞いたことある…」
「うん、タルタロスで使える武器や防具も売ってた」
「そうなの!?」
「その装備も買って、みんなに使ってもらったなあ」
「そうなんだ!?」

なんという衝撃告白。最近の通販って凄いな。その後、何気ない体を装い、ベッドへ移動する。座ってもよいのだろうか。邪な気持ちを抱えながら、湊の部屋について言葉にする。

「湊君の部屋って、青系統が多くて落ち着くね。湊君らしい感じで好きだなあ」
「ありがとう、ナマエの部屋もふわふわ、やわらかそうなイメージがする。…今度行ってみたいな、なんて。だめかな?」
「もちろん!是非どうぞ!!」
「食い気味だね、ふふ」

今度は自分の部屋に来てもらえる!外でも、店の中でもない、二人きりの空間っていい!ナマエは早速次のおうちデートのプランを画策しはじめるのであった。

「ねえ、ナマエ」

湊が座布団から立ち上がり、ベッドに座った。そして、空いた横のスペースをぽんぽん叩いて見せる。胸が高鳴りはじめるナマエ。

「お、お邪魔します…」
「今日ずっと、向かいあって座ってたから。隣に座るのもいいよね」

私の彼氏の微笑みは天使でしょうか、と顔がとろけそうになるナマエ。隣に座ることで、ベッドなんかより、湊との距離が近い事で彼の香りがすることに気づいた。顔が近いのに、未だに慣れない。顔が真っ赤になっているだろう。なんだかいい雰囲気だ。

「ナマエ」
「湊君…」
「湊さん、お邪魔します」

この空間にいる者でない声に、思わず顔を離す二人。アイギスがドアの前に仁王立ちしていた。

「ナマエさんだったのですね、安心したであります」
「えっ!?アイちゃん!?どうして!?」
「湊さんの部屋から2人分の生体反応を感知したので、もしもの場合に備えて入らせて頂きました」

アイギスの言う「もしも」は湊が襲われていたり、危険な目にあっていることを指しているのだろうが、そうは思いながらもナマエは、あらぬ妄想が浮かび、さらに顔を赤くさせた。そして顔を手で覆った。とても、いたたまれない。

「…ナマエさんの生体反応のパターンは記憶しましたので、今後は気を付けるであります。失礼しました」

頭を下げて、そっと出ていったアイギスは、ご丁寧に外側から鍵をかけてくれた。そういうテクニックもあるのか。

「…勉強、しよっか」
「そうだね…」

二人は顔を赤くさせながら、またテーブルに戻っていった。