すごい!さすが坊ちゃん!さすがリオン君、と二人で声をあげ続ける。リオン君が「分かったから、もうしゃべるな…」と呆れている。じゃあ、黙ってスケッチを堪能することにしよう、と頷きあう私とシャルティエさん。
「お前、歴史書を読むんじゃなかったのか」
「そうだった…!」
とどめの一言。シャルティエさんと共に悲痛な声をあげてしまった。だが、全てのスケッチを堪能したはず。名残惜しいが、シャルティエさんに確認をとり、スケッチブックを鞄にしまった。それを見届け、息をつくリオン君。やっと終わったか、という言葉つき。
机の上に置いてキープしていた「世界の歴史」を手に取る。図鑑よりは分厚くないけれど、重厚感のあるカバー、なにより初めに読む本である為、改めて緊張してしまう。
「リオン君は、これからどうするの?」
「暫くここで本を読む。…読んだことのない戦術書があった」
「それは良かったね!…あ、分からない所があったら聞いていい?」
「その為の本じゃないのか。…まあ、いいが」
戦闘技術や戦術書についてまとめた本棚へ向かったリオン君。私も手元の歴史書を読もうとしたところで、入口の扉が開いたのに、思わず目線を扉へ向けてしまった。整理後初めてのお客さん!門番の兵士の甲冑を外したような姿の男性が入ってきた。まず私と目が合う。軽く会釈をすると、彼も頭を下げてくれた。そして、本棚のリオン君へ目を向けると、Uターン…いやいや、ちょっと待って!
「どうして帰っちゃうんですか!」
思わず声が出てしまった。口をぽかんと開いた彼の前に移動し、行く手を立ちふさぐ。兵士さんはバツが悪そうに頭をかくと、「邪魔しては悪いかなと思いまして」と小声で正直に答えてくれた。リオン君の、ということだろうか。当の本人は我関せずと戦術書を数冊重ねて、手近な机に運んでいく。二人の間に何があったのか分からないけれど、気まずい中、ここに居させるのは申し訳ないし、扉から退こうとした。ただ、どうして資料室に来たのか気になったので、最後に聞いてみることにした。
「食堂で司書さんとお会いした時、資料室を片付けてもらったと聞いて、どんな感じになったのか見に来たんです」
「司書さんとお知り合いなんですね。……ちなみに資料室を片付けたの、リオン君だって知ってますか?」
「え?リオン様が?……えええ!?」
驚かれてしまった。「大声で騒ぐな!」とリオン君がキレる。「す、すみません!」と謝る兵士さん。もしかしなくても、リオン君は彼の上司なのだろう。凄いな。
「兵士さん…。びっくりしてるでしょうが、素直じゃないだけで、優しい所もあるんですよ」
「そうなんですね…」
「おい、何を話している」
言葉ではそう言っても、半信半疑といった顔の兵士さん。さらにリオン君優しいアピールをしようとするも、ご本人がこちらに来てしまった。兵士さんの背筋がぴんと伸びる。
「リオン君が資料室を片付けてくれたことを話してたんだよ」
「お前の手伝いだけだろ」
「手伝いでも、本棚に本を運んでくれたし分類もしてくれたでしょ?それに分類の目印だって一緒に作ってくれた。もう大体は片付けてくれたってことでしょう」
根負けしたのか、リオン君は「まぁな……」と力なく頷いた。兵士さんが私たちのやり取りをまじまじ見つめている。
「って本人も言ってるでしょう!ほら、リオン君て優しいんですよ!」
『すごい…!坊ちゃんの事を理解してもらいたいって気持ち、すごい分かるよ…!』
「お前たち…」
私もシャルティエさんの気持ちがすごい分かってきた。みんな誤解している。リオン君は厳しいだけじゃないんだ!私やシャルティエさんの言葉を聞き、深いため息をつくリオン君。兵士さんはリオン君に向き直る。
「あの……、リオン様!資料室を整頓して頂きありがとうございます」
「…あぁ」
二人のやりとりを固唾をのんで見守る私たち。
「私もリオン様を見習って剣術の訓練だけでなく座学にも精進したいと思います」
「ってことは、たまに寄ってくれるんですか?」
たまらず声をかけてしまった。それに爽やかな笑みを浮かべて頷く兵士さん。肩のあたりで握りこぶしを作る。ガッツポーズ。
「わあ、是非是非!剣術についての本はこちらになってます」
「ありがとうございます」
剣術、武術に関する本棚を案内する際、司書さんと目線を交わし、笑い合う。
「そうだ!リオン君、もし剣術指南書で知ってる本があったらオススメの本ってある?」
「あぁ、そういえば整理している時見かけたな…」
「お、言ってみるもんだ。どれどれ?」
元の席に戻ろうとするリオン君を呼び止め、棚を見てもらうことにした。何冊かちょっとした解説つきでピックアップしてもらった所で、兵士さんに選んでもらう。彼の笑顔がいくばくか解れてきている。深々と頭を下げた兵士さんのお礼を涼しい顔で聞き流すリオン君。そしてそれを見つめ、うんうんと何度も頷く私。兵士さんは私たちを交互に見ると、口を開いた。
「あの、お二人はご友人なのですか?」
そう聞かれて、リオン君を見る。いかにもめんどくさそうな表情だ。私が恐る恐る答えてみる。
「おそらく友達です…?」
「……それでいいんじゃないか」
諦めたように、ぶっきらぼうに言葉を返されるも、私たちは友達のようだ。や、やったー!顔がにやけるのを隠し切れない。
「それを聞いてどうするつもりだ、ウイル」
「え?…いえ、ちょっと気になって…あの、リオン様」
「何だ」
「今、自分の名前を呼んでいただきましたか?」
「……」
返事をしないまま席へ戻り、机に肘をついて本を読み始めた。興奮したまま「照れ隠しだなあー」と呟く私。
『部下の名前を覚えているなんてポイントアップじゃないですか、ぼっちゃあん』
シャルティエさんの言葉に、ウイルさんの表情を窺ってみる。リオン君をじっと見つめて、なんだか嬉しそう。頑張るといいことあるなあ、と思いながら私も弾む足で自分の席に戻ることにした。