そのあとのおはなし

 デュナミス家にはたくさんの子どもたちがいる。
 気難しいやつの世話をしていた経験が役に立っているのか、子供の相手は自分でも上手い方だと思った。仲良くしてくれる、一緒に遊べる。とりわけ、子供たちの輪を外れた子にとても懐かれた。根気よく声をかける。その子も楽しく過ごしてほしいから。スタンやルーティ以外にもみせてくれる控えめな笑顔を見ると、良かった、という気持ちと共に、気難しかったやつのことが頭によぎる。
 俺が殺してしまった子どものこと。野良猫のように周りの人間全てを警戒していた。でも、懐くととことんだった年相応の少年。

「どしたの?ナマエさん」
「あ、ううん何でもない。…ロニ、カイルの面倒みてるのか、偉いな〜」
「へへ、ここでは一番お兄ちゃんだからな〜…あ、行っちゃった」

 カイルを背負って通りかかったロニと話しだしたら、その子はすぐに俺から離れて孤児院へ駆けて行った。慣れてる大人相手じゃないと側に居たがらないようだ。まだここに来て日が浅いのもあるからかもしれない。
砂遊びのあとをそのままに立ち上がる。ロニにおぶられながら自分の指をしゃぶるちいさなカイル。砂まみれの手で触れられないので笑みを向けるだけ。
 ちょっとぼーっとしていた。最近、ルーティがカイルの兄弟を身ごもったからかもしれない。男の子かな、女の子かな。今度は誰に似るんだろう。…ルーティ似の黒髪の男の子だったら。

 リオン・マグナスがルーティの弟だと知ったのは、彼女らがハーメンツで連行された辺り。
 そっと伝えてくれたリオンは、あれが姉なのかもしれん…とかなり苦い顔だった。離れ離れの兄弟がいたのか、と重い事実にその後割と落ち込んでいた。リオンの側にいたからには、寂しい思いはさせまいと努力したつもりだった。そういう存在がいるのを当たり前のように受け止められている彼が、酷く健気だった。
 よく見れば彼女の、彼の黒髪も紫がかった暗い色の瞳も同じものだった。何度も見返して、ルーティにあたしに見とれるくらいならガルドちょうだいと強請られるくらい。リオンには交互に見るな!と怒られた。

 だからこそか、最初の子がスタンに似た明るい金髪の子で良かったと思っている。

 リオンの存在は裏切り者として強く民衆の間に刻まれている。セインガルドで客員剣士をしていた彼。彼が城の見張りの兵を殺め、手配した飛行竜、神の眼は彼の父、ヒューゴ…いや、ミクトランに渡り、外殻が形作られた。それが破壊された際に地上への被害も相次いだ。どれ程の死者が出ただろうか。リオン・マグナスやヒューゴ、オベロン社を憎む事で災害の悲しみを消化しきれず、その責任は、そもそも彼らを重用したセインガルドにも寄せられた。レンズの回収も相まって、ダリルシェイドはかつての勢いを無くしていった。

 裏切り者リオンが実の弟であったルーティは世間の負の感情に呑まれている部分があった。そのせいで自分がスタンと幸せになる事にすら戸惑っていた時もあった。みんなで励まし合い、今ではすっかり元気な姿に戻って、子供達の面倒を見ている。

 笑顔を作って彼女を励ます中でもそうだが、今でも俺は殺してしまったリオンに対してどう向き合うのか、整理できていなかった。

 海底洞窟では、実の兄弟のルーティすら本気で殺そうとしていた。最初は自分勝手な行動に対する怒りしかなかった。リオンを止めるために、手が出ていた。みんなが本気の攻撃を躊躇う中で、俺だけが致命傷を与える事が出来てしまった。崩れ落ちる体、それを皮切りに濁流が押し寄せていく洞窟。リオンを引っ張ろうとしたけれど、「ナマエ、もういいんだ」と憑き物でも取れたような清々しい表情を見せるリオン。俺が与えた傷は深い。もう助からないと判断した。だから置いていった。
 あの後よく考えてみれば、悪いのはミクトランだし、リオンはまだ子供だった。もっと彼のこと案じていれば、何かできたかもしれない。もう少し粘り強く交渉すれば、リオンと分かり合えたかもしれない。
 後悔ばかり胸に積み重なっていく。

 さっき駆けていったあの子のように、俺が探しにきてくれるのを待っていたのかもしれない。

「そういやさ、次に生まれてくる子の名前ってどうするの?」
「まだ決まってないみたいだけど。ナマエさんいい案でもあんの?」
「…ジューダス」
「へー、かっこいいな、…お、カイルも反応してら」

 カイルは嬉しそうな声を上げた。
 翌年、ルーティは黒髪の男の子を出産した。