葬儀屋である往生堂はあまり繁盛することがない(よいことだ)。そのため客卿である鍾離先生は比較的のんびりした生活を送っている。
例えば、散歩中に小鳥を眺めたり、花を愛でながら過ごしたり…。私とパイモンが璃月を訪れた際に見かける先生はもっぱらそんな感じである。
私たちは璃月に寄ると、まず鍾離先生に挨拶に行く。往生堂をのぞいたり、散歩しているであろう町中を探して、先生を見つける。私は彼と話をするのが好きなのだ。彼の長年培った知識の一部を聞くのが好きだし、道すがら、一緒に花や鳥を愛でるのも心地いい時間だと思っている。こう考えると、親しみやすいおじいちゃんのような存在なのかもしれない。
パイモンにも「ナマエは本当に鍾離のことが好きだな」と言われるくらい、鍾離先生を慕っていた。
ただ、お昼時に訪ねて食事に連れて行ってもらう時は、3回に2回は私が全員分支払いをする。鍾離先生が財布を持っている時はレアである。
そんな感じでも、彼と一緒にいると居心地がいいし、まあいいか、と思っている。
「男に貢ぐのはやめておきなさい」
「ち、違います!?」
私の最近の話を聞いて、眉間にしわをよせるリサさん。席からとびあがって否定したけれど、貢いでいる状態なのかもしれない。よろよろと椅子に座り込んだ。
「リサの話も一理あると思うぞ?まあ、オイラは美味しいものが食べられればそれでいいんだけどな!」
モンドのカフェにて、リサさんのお茶会にお呼ばれした私たちは、スイーツとともに紅茶を楽しんでいたのだが…。
「お姉さんはナマエが心配なのよ。…もしあなたのモラがなくなったら、その男にポイっと捨てられないかしらって…」
「それは大丈夫です」
リサさんの言葉に即座に首を振った。リサさんは「あら」と驚きながら頬に手を添える。
「ぞっこんなのね」
「恋とは違うと思いますけども、そんなこと、彼は絶対しません!恋じゃないですけどね!」
「すごい否定してるな…」
私が鍾離先生の恋人になるだなんて、想像できない。彼には霓裳花が似合う品のある女性こそ相応しい。それこそ、凝光さんやリサさんみたいな…。
私は先生の恋を応援する役割でありたいなあと夢をみる。二人を祝福できるような、二人が幸せなのが嬉しい、みたいな。想像してにやけていると、リサさんが紅茶を嗜みながら一言。
「その男性、仕事はされているんでしょう?なら、あなたが彼の収入を管理してあげたらどうかしら」
「!」
「そうしたら、金銭面をあなたがサポートできる、財布を忘れるなんてことがなくなるんじゃないかしら?」
「たしかに、いいな!鍾離なら是非頼むって言ってくれるんじゃないか?」
グッドアイデア、とテーブルに身を乗り出す私。不敵な笑みを浮かべるリサさんに気付かず、お茶会を終えた私たちは璃月へジャンプするのだった。
**
ノリノリで璃月につくと、丁度骨董品を眺めていた先生を見つけることが出来た。
「鍾離先生!こんにちは」
「ああ、ナマエか、今日も会えて嬉しい」
「私もです。…今見てらっしゃるものってどんな骨董品なんですか?」
「おい、ナマエ!本題はどうした!」
「そうだった!」
パイモンから注意を受け、思い出す。「本題?」と興味深そうに私たちを眺める先生に、先程リサさんが言っていたことをそのまま伝える。最初は相槌を打っていた先生だが、どんどん反応が鈍くなり、ついには何かを考えるように黙り込んでしまった。
そんな先生から少し距離をとり、私たちは小声で会議を始めた。
「反応が良くないね…」
「オイラたちのこと、そこまで信用していない…ってことか?」
「っ!それもあるかも…。そうか、そうかも…」
二人で肩を落としながら、先生の元に戻り、返答を待つことに。
「…すまない。そうしたい、ということは、俺と共に在りたいということか?」
「えっ?」
想定外の返答内容に、首を傾げる。先生、いつものポーカーフェイスながら、心なしか、頬がほんのり赤い。
「仕事は不定期に舞い込む。俺の金銭面をサポートしたいというなら、いつも傍にいる必要があるだろう」
「た、たしかに、旅してる場合じゃないですね…」
「それに往生堂に就職するか、鍾離と一緒の家に住む必要もあるな」
回りくどい告白をしたことになる。そう受け取られても仕方ない。穴があったら入りたい。しかし、手のひらで顔を覆うことしかできない。
「お前がそういう意図で言ったつもりはないと分かっているさ。気持ちだけ受け取っておく」
「すみません……」
「だが、俺は断るとは言っていないぞ」
「すみま……はい?」
先生の言葉に耳を疑った。手のひらを顔から離すと、頭を撫でられた。鍾離先生は優しい笑みを浮かべている。
「お前がその気になったら、待っているよ」
「……っ!?……!?」
それは、金銭管理してくれるのが嬉しいからなのか、一緒にいてもいいということなのか判断できなかったが、私が先生を意識しだすきっかけになった出来事である。