「勝手に本丸を抜け出したらビックリするわよ!鶴丸なんか目じゃないぐらいひやひやしたんだから…」
「ごめんなさい」
「心配させないで、小夜」
「…うん」
審神者はしゃがんで、小夜左文字のふっくらとした頬を手で包み込んでいた。遠巻きに小夜の兄達がはらはらと行く末を見守っている。審神者は彼らに事前に手を出すなと言っておいた。
「小夜はなにが欲しかったの?」
「欲しいものなんて、別に…」
「嘘。だったらどうしてなけなしのお小遣いを持って外に出たの…」
小夜が一人で万屋に出かけた。万屋には審神者の許可がなければ行くことができない。審神者の手が空かない時は刀剣男士のみで買い物に行ってもらうことがある。
しかし小夜のそれは、審神者には内密に行われようとしていた。…小夜がいない事に気づいた短刀達の悪気のない進言により、審神者は異変に気づき大慌てで 彼を迎えに行った。なんだかんだで弟が大切な小夜の兄達も勝手についてきた。刀剣男士、審神者達が行き交う通りで、審神者一行は小夜を見つけ、今に至る。 目当てのものを買うにいたっていない小夜は、そわそわしていた。
「これからは内緒で外に出ちゃだめよ。事前に私に言ってくれれば良いのよ」
「…うん、ごめんなさい」
「さ、今から欲しいものを買いにいきましょ?」
審神者が小夜の目線で、優しく微笑みかける。小夜はそれにぎくりと体を強張らせ、みるみるうちに視線を落とした。
「小夜?」
「…主、小夜は一人で買いたい物があったのでは…」
たまらず宗三が口を出した。傍らの長兄もゆっくりとした動作で頷く。
「そうなの?小夜」
小夜はこくこくと頷いた。審神者になって初めの頃から頑張ってくれている小夜。あわよくば欲しいものを買ってあげたかった審神者は、気は進まなかったが 「じゃあ、待ってるから買っておいで。あまり遠くに行っちゃだめよ」と小夜に声をかけた。小夜は頬を赤らませ、再度頷いた。うつむいたまま雑踏に紛れて いった。
「ねえ、一人で買いたい物…って、二人とも、分っているんじゃないの」
「大体は予想できるんですけど、何か、までは」
「そう」
審神者は付いてきた兄達の方を見る。宗三はふ、と笑ってみせた。江雪も穏やかに審神者を見つめる。二人とも何かを知っている余裕の笑みである。審神者はそれに苦笑いしてみせた。仲が良くて何よりだ。
しばらく待てば、うちの本丸の小夜が小走りでこちらに駆けてくるのが見えた。小夜は両手を合わせて、何かを大切そうに包んでいる。かがんでいる審神者の 前に立てば、小夜は後ろ手に持っている何かを隠した。目を瞬かせる審神者の首元に顔を近づける。非難めいた目線をちら、と審神者の後ろに立っている兄達に 向けると、視線をもどして、いつもより小さな声で囁いた。
「ほんとは、ちゃんとした所で贈りたかったけど、よかったら受け取って…」
そっと審神者の左手をとった小夜。小さな手で、あたたかな温度のなにかが、指にさしこまれる。小夜が一歩離れて、審神者は手のひらを掲げた。ぴったりはまったそれは。
「ゆ、指輪…!?えっ!ど、どうしたの、これ…」
審神者の薬指で輝くのは指輪だった。おもちゃのものではない質感。台座の中央にはささやかな鉱石がはまっている。小夜の給金の合計を考えれば買えなくもない代物だが…。
宗三、江雪までも目を見開いていた。戸惑う審神者の声に、通りかかる他の審神者たちが、通り抜けざまになんだなんだとこちらに目を向ける。そんな目線を気にする余裕もなく、審神者と兄達は小夜に詰め寄った。
「主につけてほしかったから。…あと、ゆいのう?したい」
色々な意味で崩れ落ちそうになる三人。持ち直し、さらに詰め寄る。
「結納の意味を分かっているのですか小夜!」
「乱が言ってた」
「成長したのですね。小夜」
「?…ありがとう」
「ええっと、小夜…。とりあえず、いいのかしら?なけなしのお小遣いだったでしょう?」
「別に、構わないよ」
貯蓄が好きな小夜が、こんな所でお金を使っていいのだろうか。というか結納。結納。その言葉を裏付けるように、左手の薬指にはまった指輪。ぴったりである。不安そうにこちらを見つめる小夜。それを見つめ返したら、自然と頭を撫でていた。
「…小夜が贈ってくれたのだから、大切にしないとね。…ありがとう」
「ゆいのうは?」
「えぇ、しましょうか。…これからよろしくね、小夜」
「…!!」
審神者の微笑みに、小夜が声もなく打ち震えたところで。宗三は未だに衝撃から立ち直れずに「ということは主が義妹に…?」とうろたえていた。江雪はというと、「これは燭台切に、赤飯の用意をしてもらわねばなりませんね」と落ち着いてきていた。
「さにわんらい」様よりお題をお借りしました。素敵なお題ありがとうございました!