各地の本丸で、刀剣男士の猫化現象が相次いでいるらしい。
背丈は幼子くらい。姿はデフォルメされた感じで、猫耳が生えている。普通の耳もある。
我が本丸もそれは例外ではなく……。
「みんなネコチャンみたいになって、ちっちゃくなっちゃった!」
頭を抱えた。出陣のノルマを果たせとのお達しが政府からきたばかりだというのに、この現象。間が悪すぎる。
審神者はどうにか出陣させずにまったり猫士たちと戯れる方法を考える。だが、そんなもの見つからない。
その内、迷い猫で、長谷部が世話をしている猫が彼らと交流し始めた。
長谷部が猫(ニャーちゃん)のためにしゃがみこむと、ニャーちゃんは背を伸ばして長谷部の鼻に己の鼻をあわせる。俗にいう鼻チューをした。しっとりとした感触であろう。長谷部はニャーちゃんを抱き上げるも、幼子がまるまるとした赤ん坊を抱っこしている図に見える。審神者はその姿をおさめようと、タブレット端末で写真を撮る。長谷部はドヤ顔である。
「短刀を戦わせるーってなった時もそんな感じだったよね」
安定がシャッターを連写する審神者をじと目で見つめる。安定の目線にやっとタブレットから顔をあげると、先ほどのような情けない表情になる。現実に戻されたといわんばかりである。
「ちっちゃいかわいい子を戦わせるなんて、良心が痛むんだってば!ううっ家で保護すべき…」
「俺が…かわいい?ふ、ふうん…」
加州はもじもじ、しっぽをいじりはじめた。普段ならスルー対象なのに、かわいくて身悶えする審神者。再びタブレットを構えた。
加州はこの姿のままでも悪くないな、と思い始めてきた。判断が早い。
「こんのすけが言うには、今まで通りの力で戦えるらしいが…」
「イヤッ!わかんないじゃん!」
山姥切の言葉にもぷるぷる震えて首を振る審神者。
「……じゃあ一応、最初の頃の戦場で試してみる?」
「駄目そうだったら逃げればよさそうですね!」
「そうだね、じゃあ6人編成で―…」
刀剣の中で意見がまとまっていく。やはり審神者、おいてけぼり。
「うわーん!ちょっとでも怪我したら帰ってくるんだよ!?」
「大将はやっぱり心配症だな」
「薬研さあん…」
「心配するな、敵の首を獲って帰ってくるからな」
背丈が審神者の膝上くらいしかない刀剣猫士。薬研は審神者を労わる様に、彼女の腕をぽんぽん叩いてやる。
「言動とお顔のギャップ~~」
「えっと、僕も薬研君も出陣組に入るから、残った子らで主を見守ってあげてね…」
光忠がぎゃおおんと喚きながら薬研を抱きしめる審神者におずおず声をかける。そして、「薬研君もそろそろ出陣しなきゃだから離してあげてね」とすごい力で二人を引きはがした。
刀剣としての力は残っているのだ。涙目の審神者は、残った堀川に珍しく慰められながら、出陣組の「加州清光、鯰尾藤四郎、山姥切国広、大和守安定、燭台切光忠、薬研藤四郎」を見送ったのであった。
「ささ、我らはゆるりと戦果を待とうではありませんか!」
「うん…」
鳴狐のお付きの狐の声に、項垂れるように頷く審神者。鳴狐が審神者を案じるよう、そっと傍に寄り添う。彼も猫耳がついているが、お付きの狐はいつものサイズ。鳴狐が小さくなった分、彼の頭の上をずしりと占領している。
長谷部はニャーちゃんとワンちゃん(戦場で見つけたわんこ)に追い回されている。持ち前の機動力で対等に渡り合っている。確実に彼らと遊んでいる。
「あ、主…」
「長谷部は二匹の相手をしたげて…」
「はっ!…あの、気を落とさぬよう…」
「ん、ありがと…」
このやりとりの間に、広い本丸の廊下を3周くらいしている。駆け回る長谷部たちをよそに、残った二人に促され、居間に移動する。
「主ってば、元気出さないと。出迎えの時みんなも気遣っちゃいますよ」
「分かってるってば…」
座布団に座るも、やはり浮かない顔をしている審神者に、堀川が「お茶を汲んできますね」と台所へ向かった。
「主様は心配性ですねえ」
「でも、それが、主の……優しいところだと、思う」
はっと審神者は隣の鳴狐を見やる。彼が仮面をもごもごさせながら喋っている。
「でも、無事に帰ってくるって…みんなを…信じてあげてほしい」
普段しゃべらない分、その言葉が胸に染み入る。審神者はお付きの狐ごと鳴狐をぎゅうと抱きしめた。
「鳴狐君ありがとう…。そうだね、みんなを信じて待つよ」
「完全に鳴狐を童だと思ってらっしゃいますね…」
普段の姿ならとれないスキンシップも猫化するととれる不思議。鳴狐君はおとなしく私の胸の中に収まってくれている。
頭を撫でたりしていると、ふと、と彼の尻尾のもふもふ加減の違いに気づく。
「鳴狐君の尻尾はなんか太いね」
長毛種の猫のようにふわふわで、ふさふさである。
「なんと!まるで狐のようです!お揃いですね、鳴狐!」
「お揃い…。ん」
審神者がほわほわ空間が広がる気配を察知。タブレットを構えたところで堀川が3人と1匹分(浅い皿にお茶を入れている)のお茶をお盆に乗せて戻ってきた。
「ふふ、なんだか大丈夫そうになったね」
審神者らのやりとりを見て、堀川は微笑みながら、ちゃぶ台にお茶を置いていくのだった。
ちなみに、戦場へ向かった6人だが、最初の戦場なので上々の戦果を持って帰ってくることになる。
端末で無事を確認した審神者は「お昼ごはん、焼き魚も入れてみたから早く帰ってきてね!」とみなに伝える。もしかしたら、猫化したのだから、みんながっついて食べてくれるかもしれない。現に、昼ご飯の支度をしているうちに鳴狐と堀川、長谷部は待ち切れなそうに魚を見つめだしている。「総大将の首はいるか?」という薬研の言葉には、「捨ててきなさい!」と叫ぶのであった。