自分に優しく。頭が熱くなっている事に気付いて、息を吐いた。体の力を抜く。もうちょっと、楽な考え方をしてもいいのだろうか。期待しすぎても仕方ない。悩んでいても仕方ない。…安定君に向き合ってみよう。加州君の言っていた事を信じたい。頬を挟むように勢いよく叩くと、加州君が目を丸くした。あ、結構痛かった。
「あ、主!?」
「ごめん、驚かせた。…気を取り直そうと思って、安定君とちゃんと話してみる」
「主…」
「時間かかるかもしれないけど、…応援してくれる?」
「……当たり前じゃん」
涙目の加州君は微笑んでくれた。それだけで言ったかいがあったものだ。ただ、すぐさま私のほっぺたを心配してくれたのに、こちらも笑ってしまった。
「ちょっと赤くなってるよ、もー、自分に優しくってっ言ったとこじゃんか」
私の頬を触れる加州君。彩られた指がこちらに向けられるだけで、胸が変な風に高鳴ってしまう。冷たい手のひらが心地よいけど、これ以上触られると、さらに頰が熱くなってしまう気がした。
「あはは、ごめん……ありがとう」
加州君の顔をちらりと伺うと、彼も彼で赤くなっていた。なんだ、加州君も照れてるじゃないか。言わないけど。
「さて、戻ったら鳴狐君に本丸の案内でもしようかな」
立ち上がると、加州君も正座を崩して、私に続く。鳴狐という言葉に呼応するように、破顔していた表情を正し、私に声をかける。
「…主は、あいつの事どうしようとしてるの」
「彼を形作る霊力を追えば、元の審神者のもとに返せるとは思うんだけど、…戻ったら気まずいんじゃないかなあって勝手に想像しちゃって」
「そう…だね。同じ刀派の刀がいるならフォローしてもらえそうだけど、心配…かも」
障子を開け、廊下に出る。
加州君が私と同じようなことを考えてくれて嬉しい。…向こうの審神者は鳴狐君が生きていることに気づいているはず。ただ、それを刀剣にどう伝えているのか。拾ったばかりの刀…審神者との面識がない…。考えていくうちに得意のマイナス思考がフル活動して落ち込みそうになっていく…。
「だから、しばらく休んでもらってから、元の審神者のもとに戻るか、…あわよくば私たちの仲間になってくれないか聞いてみようと思ってるの」
「あわよくばって」
加州君が吹き出した。加州君の方へ振り返って、言い訳する。
「だって鳴狐君もおつきの狐さんもいい子だもん…!」
「あはは、そだね。ま、鳴狐の気持ちを聞いてから、あわよくば仲間になってもらおーじゃん」
「うう…」
✳︎✳︎
戻って、みんなに朝食の片付けをしてもらったことに感謝を伝えたところで、手持ち無沙汰で不服そうな布団の鳴狐君に話しかける。
「鳴狐君、そろそろ動いても大丈夫そう?」
目を合わせると、心なしか彼の瞳がキラキラして見えた。黙って頷く鳴狐君。激しく頷きながら「鳴狐めはもうバリバリに元気でございます!!」とおつきの狐さん。
「じゃあうちの本丸の案内をするね。休むって言ってもどこに何があるか分かんないと不安でしょう。ついてきてくれる?」
二回頷いた鳴狐君に笑いかける。
「俺も行くー」「じゃあ僕もついてく」など、なんやかんやでみんなぞろぞろと本丸案内に同行することに。居間、台所、みんなの部屋、私の部屋、渡り廊下から見える畑や武道場を案内する。案内の合間に加州君や鯰尾君がこの本丸での思い出を語る。
「出陣がない日は3時に、主の時代のおやつを食べられる」
居間を通りかかった際、小夜君がぽつりと言葉をもらす。狐さんが「三食おやつ付きですと!」と仰々しく驚いてみせた。「そうなるね」と返事をしつつ、みんなに質問をしてみる。
「みんな、今まで食べたおやつで何が一番好き?」
「柿のゼリー」
「ソフトクリームです!!」
「俺は主の手作りスイーツならなんでも大好物!安定はどうなんだよ」
加州君の言葉に目線を落とす安定君。それを見て、瞬時に「うう、ごめんよ、あんまり無かったかな…。言いにくいかな…」と浮かんできた思考。こういうことがあるたびに、かき消していかねばならない。
「…フォンダンショコラかな」
「嬉しい。そうなんだ。…理由もあったら聞いていい?なかったらなかったでいいよ」
手作りお菓子!良かった!嬉しい!心の中でガッツポーズ。出来るだけ興奮せず、嬉しい気持ちを伝えた。欲張って何が良かったかも聞いてみる。逃げ道ももちろん用意しておく。
「んー、切ったら、…ドバーッて出るから」
「な、何がですか!?」
不穏な回答を頂いてしまった!狐さんが顔を青くさせている。でもうまく会話できた気がする。良かった。ありがとう、加州君。目線に気づいた加州君は私にウィンクしてみせた。
✳︎✳︎
「畑仕事ってすごく楽しいんですよ!毎日種まきと収穫をしてるんですけど、とれた野菜に愛着湧いて、食べる時も「あ、これ今日のトマトだー」って実感できるのがいいですよね」
「刀が畑仕事」
渡り廊下ではあれが芋畑、隣が人参畑と説明していた加州君に鯰尾君が話を被せてきた。
俺が説明してんのに!と憤慨する加州君をフォローしつつも、鳴狐君の短い驚きに耳聡く反応する。
「うん、そうなの。みんな最初は驚いてた。みんなが通る道だね…」
「ですね!!あ、それと畑仕事の合間に泥団子作るのも好きだし、来たる肥料に今から心躍ってます!」
「肥料」
「ああ…昔は馬糞を肥料にしたら美味しい野菜になったんだよね?鯰尾君はそれを取り入れようとしてて…。私は断固拒否してるんだけどね…多数決で負けそう…」
馬糞使いたい!派の鯰尾君に同調した、馬糞別にいいんじゃない?派も多い。小夜君と安定君も馬糞別にいいんじゃない?派である。私と加州君はノー馬糞派だ。
「山姥切君はどう思う?馬糞を使わなくてもいいよね?野菜、十分美味しかったでしょ?」
「な…」
「えー!山姥切さんも馬糞で遊びましょうよ!」
「おい!本音が出たな!」
急に話を振られて戸惑う山姥切君。鯰尾君が本性を出してきたのに加州君がツッコミをいれる。
「馬が来るのは、楽しみ、だと思う」
「だね。馬に乗って戦うと爽快感がありそう」
小夜君と安定君は馬がくるの楽しみトーク。うっ、待ってて…!戦いを進めていったら功績として馬が贈られるはず。……馬糞を使用させない為にみんなに戦わせるのを回避して馬ゲットも阻止…という案も浮かんだが、絶対にそうはいかないので泣く泣く廃案。