もう一つのさようなら

ある日突然、彼女が変わったように思える。

「理、推薦の話蹴って今の高校を一緒に通おう、母さんと父さんは私が説得するから。お願い」

前の日は「私も一緒にそっち行こうかな…」と悩んでたのに、何が彼女を動かしたのか。それを追求する強い気持ちはなく、俺はナマエと一緒に入れたらいいので頷いておいた。なんだかナマエから求められたような気がして、少しだけ嬉しい。

俺が部屋にいるときに両親と口論していたが、ナマエは「気にしないでいい」と言っていた。あの人たちが泣きついてきても、脅してきても私が守るからね、と笑っていた。

高校に入ってから、彼女は俺との接し方を探っているなと感じていた。おそらくもう高校生なのだから俺を自立させて、離したほうがいいと思っている。でも彼女の生来の性格からなかなか俺を見放さすことが出来ない。

彼女は、迷いのない穏やかな目を向けるようになった。よく一緒にいるようになった。

結局、月光館学園の話は無かったことになり、いつもの日常に戻った。
変わったのはナマエだけで、女友達よりも俺を優先するようになった。

嬉しいと思いながらも戸惑いを感じる。どうして、俺なんかと一緒にいる事を選んだのだろう。

「珍しいね、質問するなんて。…うーん、理と一緒にいる事を決めたのに、理由はあんまり無いかな。…ま、気にしないでお姉ちゃんに甘えてなさい!」

腕を広げるナマエ。身じろぎしていると、ナマエの方から抱きしめられた。夢を見てるんじゃ無いかと思った。

「なんで…」
「こういうスキンシップ、好きじゃない?」
「分からない、でも心臓に悪い…」
「あはは、理らしい」

彼女の体温、心臓の音。全てが心地良い。二人きりの時にそうするようになれば、そういう行為はエスカレートするようになった。
不安で確認しても「いいよ」と彼女は俺を見つめている。
これからに希望なんてなかったのに。何か出来るんじゃないかと思うようになったいた。進路もちゃんと考えようと思った。ナマエと二人なら、なにも心配いらないーー。

「理」

隣のナマエはいつもと違う笑みを見せていた。まるで、寂しそう?違和感を感じた。

希望を持って進んだ。お互いに同じ、より良い大学を目指して勉強した。バイトもしながら貯めたお金で二人で暮らそうって。

「月が落ちるんだよ。誰も助からない」

月が落ちていた。刹那の夢から覚めたようなそんな心地で地球に落ちてくる月を見ていた。きらきらしていて楽しかった夢。
隣にいたナマエは、まるでそうなる事を知っていたように空を見上げる。

誰かが叫んでいる。悲鳴を上げている。ナマエの声でそんなものはすぐに搔き消えた。

「理、ありがとう。これまで頑張ってきたよね」

一緒に勉強頑張ったね〜バイトも割と楽しかったし、と言葉を続ける。

「いつかこんな終わりになるって分かってたけど。もしかしたらって、思ったんだけどね」

ナマエは俺を見つめる。

「私ね、理と一緒だから平気、全然怖くないよ。…理は?」

握られた手。優しい感触に浸りながら目を瞑る。

「俺も怖くない。一緒にいてくれてありがとう、ナマエ」

世界は終わるようだ。でも、これで良かったのかもしれない。