ウェンティと飲むということ

そばにいるということ」の続き

「はあ…」

 一人酒を嗜む鍾離の席に、酒瓶がどんと置かれる。酒瓶を置いた人物は緑色の衣装を身に纏う少年、ウェンティであった。

「じいさんがため息だなんて珍しいね。空からタコでも降ってくるんじゃないの?」
「やめろ、想像しただけで肌が粟立つ」
「えへへ。隣、失礼するね」

 鍾離の返事を待たずに隣の席に座るウェンティ。あからさまに嫌な顔をした鍾離。モンドの吟遊詩人が璃月にわざわざ、このタイミングで訪ねてきたのに苛立ちを隠せない。

「……どうしてここに」
「ん〜?あのね、ナマエがねぇ」
「何故ナマエの名を出す」

 憂いの原因である人物の名が出て、鍾離は顔をしかめる。ウェンティは酒を杯に注ぎながら楽しそうに言葉を紡ぐ。

「慌てないで、まず話を聞いてよ。ナマエが最近上の空でね。決まっていつも璃月から戻ったら、歩いていて噴水に突っ込むぐらいには何か物思いに耽っているみたいなんだ」

 噴水に突っ込むお茶目なナマエを想像する鍾離。いや、それより璃月から戻ったら、という言葉に声をあげる。

「俺に原因があるといいたいみたいだな」
「そうだよ!」

 ウェンティは笑顔で頷いた。心当たりはあった。鍾離は顔を曇らせる。

「じいさん、あの子に何かしたんでしょ。返答次第じゃ許さないよ。……ナマエはボクらの大切な仲間なんだから」

 ウェンティが続けて呟いた言葉に嘘偽りはない。鍾離は全てを話すことに決めた。息をつくと、ナマエが自分を支えたいと申し出てくれたこと、ナマエにさりげなく自分の気持ちを伝えたことをウェンティに打ち明けた。

「あれ以来、ナマエとは会えていない。璃月に来ても俺に会う決心がつかないんだろう。……困らせただろうか」
「やっぱりコイバナだったあ〜。あの頑固ジジイだったモラクスが…ごめん、これはまた後にしとくよ」

 自分を睨む鍾離を見て、ウェンティは肩をすくめた。また後に昔のことを蒸し返されるのか、と鍾離はため息をつきたくなる。

「これで今までの心地よい関係が壊れるならば、それまでだったのだ、と割り切るべきなのだろうが、……あの子を手放したくない」
「うんうん、そうだよね、割り切れないよね~。それにナマエってばいい子だもんね」

 ウェンティが鍾離の杯の酒を追加する。しゃくではあるが、内情を話してみるとこみあげるものがある。つがれた酒を喉を鳴らしながら飲んでいく。息をついて杯を置くと、「いい飲みっぷりだねえ」とさらに酒を追加された。

「……俺を酔わせて、何が狙いだ」
「そんな、狙いだなんてないよ。原因もはっきりしたんだし、今はただ、旧友と飲みたいだけさ」
「バルバトス…」
「さ!飲んで不安な気持ちをすっきりさせよう!ナマエもじいさんのこと慕ってるんだから大丈夫だって!」

 こう言いながらも、ウェンティはナマエへの想いについて全部喋ってもらい、あわよくば詩のネタにしようとは思っている。
 だが、鍾離はそれに気付かない。ナマエがなかなか訪ねに来ない傷心の中、バルバトスの優しい言葉に絆され、注がれた酒を素直に飲むことにした。

**

 ウェンティがたくさん酒を飲ませた甲斐あって、鍾離の顔は真っ赤になっていた。無表情ではあるが、酔っぱらっているのだろう。うわごとのように、こんなことを言っている。

「ナマエと夫婦の契を交わしたい…」
「でた、契約。それで離れないよう縛り上げちゃおうってことでしょ?……案外束縛しそうだよね~、じいさんって」
「そんなことはない。ナマエの前では、博識で頼り甲斐のある、ただ金銭面で少し抜けている男でありたい」
「自覚はあるんだね」

 元神の一般人から、「ナマエがかわいい」「嫁にほしい」「金銭管理してほしい」という欲にまみれた言葉を聞き、ウェンティはうんうん、と良い笑顔で頷いた。
 そして、聞き出すネタがなくなったところで、どうせ財布を忘れているであろう鍾離に支払いの全てを任せて去っていった。
 ウェンティも鍾離に酒を注ぐ傍ら、自分も飲んでいた。面白い話も聞けて、大好きな酒も無銭で飲め、満足そうである。
 店員が「そろそろ閉店だよ~」と鍾離の元にやってくる。

「鍾離先生、支払いはいつもの所だね?」
「…あぁ、往生堂で頼む」

 鍾離は領収書を手に千鳥足で帰宅するのだった。