カビさんぽ
平日こもってばかりの生活なので運動不足必至。休みは息抜きに外に出るようにしている。
居間に座りこんで、散歩用のアイテムをリュックに詰め込んでいると、カービィもウェットシートをとってきてくれた。公園で遊んだ後、手を拭く為なんかに毎回持っていっている。「ありがとう」の後の嬉しそうにうわずった「ポヨオ!」を聞くと、自然と顔が緩む。
スマホ、休みたい時に座れるような敷物シート、カービィがさしだした「玉子ぼおろ」も、熟慮した結果、リュックに詰めた。
そこにインターホンのチャイム音が響く。誰もいない玄関を写すカメラを見て、「ワドちゃんだ!」と玄関のドアを開けにいく。冷えた廊下を進み、ドアを開くと、下の方には「わにゃ」と予想通りのお方。ちょんと佇みおじぎをする姿、相変わらず愛らしい。
「バイトの後に夕食づくりに来てくれたんだねえ。ありがとう、ワドちゃん」
ワドちゃんはうちに住み込みでヘルパーする傍ら、何でも屋さんとして外貨を稼いでいる。
月初めにワドちゃんからスケジュール表をもらい、彼の予定を確認するのだが、行く場所が日ごとで違うのに最初、驚いた。(デデデ大王の部下のポピーさんが地球での仕事を斡旋しているらしい)ワドちゃんが働くお店は、事前にワドちゃんが働きに来ることを宣伝し、ワドちゃん目当てのお客さんで大盛況になるのだとか。有名キャラの1日署長ならぬ、1日アルバイト。今度カービィと一緒に見に行きたいものだ。
ちなみに働くお店は全て料理屋さん。ワドちゃん的にはまかないを食べさせてもらえればお給料は十分らしいので、デデデ大王の元にお給料が全て振り込まれる仕組みになっていた。凄まじくブラックでは?メタナイトさんから情報を入手した私はデデデ大王に鬼電をして大王側のマージンを下げるよう苦情…交渉したお話はまた次回にしておく。
「これからカービィと散歩にいくけど、ワドちゃんもどう?」
ふるふる首を振るのに合わせ、つけていたポンポン付きの帽子も揺れる。まあ、帰ってきて早々また寒い外に出るのも嫌だよなあ、と誘っておいて、断られたのに納得。
「オッケー、ゆっくり休んでて。帰ってきてしばらくしたら一緒に夕飯作ろうね」
ワドちゃんは私の言葉に「わにゃあ」と目を細めて頷いた。まだ身支度が済んでいないので、ワドちゃんと一緒に部屋に戻る。カービィの「ハアイ」に「わにゃ」と返すと、帽子、マフラー、手袋を子ども用のコートスタンドにかけ、すぐこたつに入っていった。ぱちりとこたつの電源もつける。あの丸っこい手でどう電源をつけるのかは分からないが、食事をする際のワドちゃんの咀嚼方法も原理が分からないので何も言わないでおく。
ワドちゃんとは別の、黄色地に緑色のチェックが入ったマフラーをコートハンガーからとる。しゃがんでカービィに結ぶと、その次は丸っこい手専用の手袋を装着させ、子ども用のクマ耳付き帽子をかぶってもらい、カービィの身支度が完成。
私もコートとさっと羽織り、リュックを背負った後、マフラーを首に結び、準備完了。
「ワドちゃんいってくるねー、お留守番よろしくね」
こたつに置いていたみかんを手に、こたつ布団をかぶったままワドちゃんは手を振ってくれた。
玄関をカービィと共にくぐり、外に出ると、ひんやりした空気が肌をさし、ほう、と息をついた。昼寝をしすぎた結果が午後4時の散歩である。アパートの階段を降りると、表には魔法使いの帽子をつけた、ほうきで掃除をするブルームハッターの姿。レレレのおじさん感をかもしだしている。初めてお会いしたときはカービィが吸い込んだらクリーンカービィになっちゃうやつだ…、とドキドキしていたが、カービィがコピー能力を見せてくれたのは今のところコックカービィくらいか。
ご丁寧に、会釈をしてくれたので私達も頭を下げる。今日も枯れた落ち葉を掃除してくれている。
「今日もお疲れ様です。散歩に行ってきますね」
「パヤ~」
彼に見送られながらも、歩き出す。
いつもの散歩コースは、アパートを少し歩いて、川を見下ろしながら短い橋を渡るところから始まる。カービィも橋の欄干越しに川を見つめている。たまに水鳥が泳いでいるのだが、今日は存在感のあるサギが静かに川の中をたたずんでいた。川辺には最近花開いたのか、水仙も揺れている。
「水仙きれいだねえ」
「ポヨ?」
「ああ、あのお花のことだよ」
「パヤァ、…ポヨオ!」
カービィに合わせてしゃがみ込んで川を見渡す。カービィは欄干にもっちりした顔をぎゅっとつけて、見ていてとても可愛い感じになっている。
サギを指さすカービィに頷いた。
「ねー、あの鳥大きいよね。…川の中に魚でもいるのかな」
「パヨ!?ポヨー!」
「まってまって!飛び込んだら寒いよ!?」
私の言葉に魚目当てに川へ飛び込もうとしたのか。橋の手すりまで飛び上がったカービィ。させるか、とカービィを抱きしめる私の図。
「冷蔵庫に魚はあるからね!そうだ、今日は焼き魚にしよう!そうしよう!」
「パヤァ~!」
「喜んでくれて良かった!でも手すりでジャンプはやめてー!」
カービィとの散歩はなかなかに刺激的である。
ちょっとの間、目を離したせいで、カービィの気の向くまま、風の吹くまま、どこかへ消えたこともあった。まさか誘拐でもされていないか、と泣きそうになりながら辺りを探しても見つからない。メタナイトさんに電話して、捜索のヘルプを頼んですぐ、「急いで部屋を出たら、君の部屋の前でカービィがぐうぐう眠っていたんだが」と電話がかかってきた。その時、ドッと大こけしたのは内緒である。
今では、いなくなったらすぐに「カービィ!」って呼ぶから、「ここだよ~」って返事をしてね、と教えて、なんとかなってはいる。
橋を渡って、さらに歩き続けると、お家で育てているのだろう、お庭と道路の境に咲いた真っ赤な椿を眺める。道路に何個か、花全体が落ちているのを見つけて、見てみてと言わんばかりに「パヤパヤ」と手を動かすカービィ。
「珍しいよね、花びらが落ちるんじゃなくって丸ごと落ちちゃうのって」
「ポヨ!パヨポヨ!」
「持って帰る?うーん、まあ落ちてるからセーフだしいいか…?」
こんなこともあるから、いつもリュックにポリ袋も用意しておく。辺りを窺いながらも、一緒に一番きれいな椿を拾って袋に入れた。カービィは袋を大切そうに抱えている。
「ワドちゃんへのおみやげかな?」
「ポォ~ヨォ~!」
「そっかそっか。きれいだねって言ってくれるといいねえ」
お花丸ごととなると、花瓶じゃ無理だし、どう飾るか…。帰ってから考えようか。
住宅街を抜けると、通いなれた公園が。グラウンドは広いし、遊具もなかなかに充実している。
カービィは近所のお子さんにまじって遊ぶプロである。「カービィだ!」と子どもの方から寄ってきてくれる。
低学年の子らだと一緒にシーソーにブランコをしたり、鬼ごっこで遊んでいたが、5、6年生の子らになるとゲームを持って来てくれて、一緒にスマブラをしている。カオスである。
ちなみにカービィは強いのか?と小学生らに聞くと、「めちゃくちゃ弱いよ!」とバッサリ言われていた。
私もなんやかんやで彼の保護者(?)として小学生らと顔なじみになっている。
今日は誰かいるかなあと公園を見渡すも、寒いし、もう4時なので、遊んでいる子はいない模様。
「ポヨオ…」
椿が入った袋の縛り口をぎゅうと握っている。残念そうである。
「じゃあベンチでぼおろでも食べる?」
「パヤア!!」
一瞬で元気になるカービィ。袋を預かり、リュックの一番上に置くと、ウェットティッシュ、玉子ぼおろを取り出した。手を拭いてもらってから、ぼおろの袋を破って差し出す。
吸い込めば一瞬、されどちょこちょこ食べると美味しさに浸れるし満足感が得られるよ、とカービィの食育を行い、吸い込み食いを改めてもらった。
ぼおろを2、3粒手にとって、もぐもぐと食べるのを見て、うんうん、と頷く私。
カービィを眺めながら、これからの予定を思い浮かべる。あったかなお家に戻ったら、椿を飾って、ワドちゃんにもみてもらって、…みんなでゴロゴロした後は、ワドちゃんと夕食作り。焼き魚作るって言ったから、鯖を焼こう。味はついてたやつだったっけ…。
眺めすぎたせいか、カービィがちらちらとこちらを気にしている。
「ああ、じーっと見すぎちゃった。ごめ…」
「ポヨヨ?」
カービィはそっと、ぼおろを3粒差し出してくれた。あ、食べたそうにみえたのね。
「ありがとう!…じゃあいただきます」
ぼおろの素朴な甘さがじんわりと口の中で溶けていく。
「おいしい。カービィは優しいねえ。ありがとう」
「パヤア」
二人で顔を見合わせて、笑った。穏やかな、お休みの日の話。