カービィと会社員の日常1

 ノートパソコンに向かうナマエの腕に、餅のような感触。「ねえねえ」といった具合にぽてぽて軽く叩かれた。ネコチャンがテレワーク中のご主人に甘える動画の、アレだ。既視感を覚えながらナマエは咳払いをすると、カービィと向き合う。カービィはナマエが自分に注目したからか、ぱっと顔を明るくさせた。

「ポヨ〜!」

 コタツ机の上に立つカービィ。カービィの相手をしていたワドルディが机の下で慌てている。ナマエも、カービィがノートパソコンの横に居るのに若干ヒヤヒヤ。カービィは絵本を抱えていた。

「カービィ、今仕事しててね…ごめんね。教育的なテレビを見てていいのよ?」
「ポヨ〜!!」

 ずいと絵本をナマエの眼前に突き出すカービィ。教育的なテレビをしばらく眺めていたものの、興味が逸れたのか、お気に入りの絵本を読んで欲しくなったようだ。「デデデ大王の大冒険」デデデ大王本人著である。

「ほら、テレビ見てみて!体操してるよ!カービィちゃんも踊ろ!ガガガ、ガガガガオガイガー」
「ポヨォ!パヤパヤパ〜」

 テレビの体操を真似して、座りながら踊ってみせると、カービィもノリノリで踊り始めた。しめしめ、と思い、仕事を再開するも、暫くすると、動きを止め、こちらを潤んだ目で見つめ出す。絵本を両手に持ったままだ。

 音読かあ、とナマエは唸る。こればかりはヘルパーのワドルディに頼めない。カービィと共に家に住み込んでいるワドルディは「わにゃ…」と困った様子で、ナマエを見上げている。

「ワドちゃん、ありがとう。他の人に頼んでみるね」

 ワドルディのつるっとした頭を撫でた後、ナマエは少し考え、机に置いてあったスマホを手に取る。連絡先一覧の「メタナイト」を選択し、電話をかけると、2・3コール後に『メタナイトだが』と声が聞こえた。

「すみません、メタナイトさん」
『君か。どうしたんだ?』
「カービィちゃんのお守りをお願いできますか?今本を読んで欲しいみたいで」
『うむ…すまない、今日は都合が悪く…』

 今日はオフのはず。いつもならすぐ隣の部屋から駆けつけてくれるメタナイトだが、今回は珍しく歯切れが悪い。ナマエは用事があるなら無理に頼めない、と伝えて電話を切ろうとした。

『フォンダンショコラをお待ちのお客様〜』
『ハッ!…おぉ、私だ』
 スマホを口から遠くに離したようだが、辛うじて聞こえてしまった。
「メタナイトさん、スイーツ食べに行ってるんですね」
『……さらばだ』
「ちょ!メタナイトさん!」

 電話を切られてしまった。甘いもの好きをどうにか隠そうとしているようだが、カフェのメニューから全国的に知られていると思うの。ナマエはふう、と息をつく。

「息抜きするのは別に良いんだけど、バレバレだよなあ…」
「ポヨォ…」
「あぁ、ごめんね!」

 カービィがしょげだしたので、「絵本読もっか」と仕事を一旦中止することを決意した。絵本を読み終えるまで休憩とする。
 ノートパソコンを閉じ、カービィとワドルディが両脇に座る中、「デデデ大王の大冒険」とタイトル名から本の音読を始めた。

 味のある挿絵を眺めながら、ナマエは思い返す。
 カービィがこちらに来てすぐ、心配でたまらず、在宅での勤務に切り替えた。これならカービィ一人残して寂しい思いをさせないし、彼のためにお昼ご飯を作れる、アクシデントにも対応できる…と思った。
 だが、在宅も在宅で仕事中にカービィと遊ぶ訳にもいかない。カービィと共に地球を訪ねてきたプププランドの住民たちにヘルパーを頼む始末。(おもにワドルディ)

 そもそもどうしてカービィがナマエの家にいるのかというと、デデデ大王が治めるプププランドが財政的に破綻したからである。
 住民たちはデデデ大王に泣きつかれ、色々と縁のある地球を訪れ…、有り体に言えば出稼ぎに来たということだ。
 カービィは、地球に来て早速空腹で行き倒れ、それをナマエが保護したのが共同生活の始まり。
 なんやかんやでカービィを放って置けないプププランドの住民たちはナマエに協力することになった。

 絵本を読み終えると、カービィは座りながら、うとうと船を漕いでいた。準備よく、ワドルディが畳んであったカービィ用の布団を敷いてくれている。もう一組敷いていることから、ワドルディも寝ることにしたようだ。

「ありがとう、ワドちゃん」

 カービィをそっと抱き上げると、布団の方に移動。ナマエはカービィを慎重にマットに下ろすと布団をかけてやった。
 ワドルディもその隣のマットに寝転がるので、同じように布団をかける。

「二人ともおやすみ」

 ナマエは目を瞑る二人の微笑ましい様子に頷くと、机に向かい、仕事を再開させるのだった。