一緒には行けない

「エミリオ」

 彼の名を呼ぶ女性の声に目を覚ました。その音は喜んでいるようにも悲しんでいるようにも聞こえる。起き上がった俺は、ぼやけた視界を声の方へ向ける。マリアンに瓜二つの女性が向こう岸に佇んでいた。深さの分からない水…。湖?それか川?が彼女への行く手を遮っている。海岸のように波立たないことから、海ではないだろう。
 というか、ここはどこだ。目を瞬かせながら辺りを窺う。霧がたちこめて、遠くを見渡せない。立ち上がりかけて、やっぱり座り込んだ俺の隣には、エミリオが背を丸めて眠っていた。二人して地面で眠っていた状況にツッコみたくなるのを抑えながら、彼の背をゆさぶる。

「おい、エミリオ。謎空間にいるぞ。起きろ」

 一人で打ちひしがれるのを恐れた俺は、早々にエミリオを起こす。うめき声を漏らしながらエミリオは上半身を起こす。もう一度、女性が「エミリオ」と声をあげた。
 エミリオも俺と同じように彼女に気付いた後、息をつめながら隣の俺にゆっくり視線を合わせた。

「なんだろうな、ここ」

 俯いて黙り込むエミリオ。返事がないのはいつものことだ。たまに返答があればよし、くらいに思っている。

「辺りを歩いてみよっかな。場所の手がかりがあるかも」
「……」
「いやそれより、あの人に聞いた方が早いか!マリアンじゃなさそうだけど、ここがどこか…」
「ナマエ」
「ん?」
「…何でもない」
「ええ?」

 よく分からないやり取りを終えて、エミリオは立ち上がる。そのまま岸辺へ向かって真っ直ぐに歩き出した。俺も慌てて立ち上がったが、エミリオは振り返ると「お前は来るな」と苦い顔で吐き捨てる。

「なんでだよ。てか濡れるぞ?おい、エミリオ…」

 足元が濡れるのも構わず、エミリオは進む。彼のふくらはぎが水に浸ったところで、やっとエミリオを追いかけようとした。
 だが、誰かに伸ばそうとした腕を、肩を掴まれる。後ろへ引っ張られ、足は前に進まない。水に浸かっていくエミリオの背中が遠くなっていく。

「なんで…、エミリオ!!」

 俺の叫びに呼応したのか、水の中を進みながらエミリオは静かに語る。

「罪を背負うのは僕だけでいい」
「嫌だ…」
「お前は何も悪くない。悪夢は終わった。自由なんだ」
「違う…!」

 彼の胴体も水に浸かったところで、雨が降ってきた。背後からは聞きなれた声が俺の名を必死に呼ぶ。でも、それはどれもエミリオのものではない。

「俺も一緒に、エミリオっ……!」

 目を覚ましたのは城の医務室だった。かつての仲間が何故か喜んでいる中、俺は探す。輪の中に入らず、遠くで微笑んでいるであろう彼の姿を。