七年後のおはなし

 駅チカの高校、かつ帰宅部を選んだのは、早いとこ帰ってゲームがしたかったからだ。帰りは通勤・通学ラッシュが嘘のように人がまばらである恩恵を受け、入学する少し前に発売したメガテンシリーズの最新作をやり込むのだ。
 地下鉄への階段を降りる際、小学生ほどの子だろうか、制服を着た男児と女児が手を繋いで階段をおりていく。同じ乗り場で同じ電車に乗った彼らは、向かいの席に行儀よく座った。「渋谷ってやっぱり人、混み混みだねえ」と息を着く女児に、「そうだね。ポートアイランドより人が多い…」と男児が憂鬱そうに肩を落とす。ポートアイランドとは、港区の人工島か?そこから、渋谷に通っているのだろうか。
 それに、たしかポートアイランドには小中高一貫校があると聞いたことがある。制服を着て、いかにも私立の小学生!に見える彼らはそこに入学しなかったのか。

「大丈夫だよ。私が人混みから理を守るから」

 ぐいぐい手を引っ張るからさ、と付け足す女児の言葉が終わるや否や、むっとしてみせる男児。

「…そこは俺に格好つかせてよ」
「ええ?じゃあなに?私のこと守ってくれるの?」
「あぁ」
「わ、嬉しいなあ」

 向かいの俺はスマホを操作しながらも、会話を聞いて、愕然とした。こ、こいつら…恋人なの!?小学生にしてリア充!?俺より進んでる!?と己が情けなくなった。

「…ねえ、理」
「ん?」
「大きくなったら巌戸台、ちょっと見てみたくない?」
「うーん…そうは思うけど…」
「えー!?みんなに会いたいじゃん」
「それは…そうだけど…戸惑わないかな」

 なんだか会話の内容が不可解になってきた。巌戸台も港区だったよな?じゃあそこから引っ越して渋谷の小学校に通っているのだろうか。
 そんでもって、引っ越す前の幼稚園の友達に会いたい…ってことかな?スマホ画面に表示されたSNSに集中できなくなってきた。

「でもゆかりちゃんはモデル兼女優だからねえ」
「巌戸台じゃなくて、もっと都会の方にいるんじゃないか?」

 んん??ゆかりちゃん??モデル兼女優??もしかして岳羽ゆかりのことか??モデル時代に出演したフェザーマンから本格的に女優業に進出し、今では女性の支持が厚い、岳羽ゆかりのことを言っているのか??
 そんなまさか…。いや、俺が知らないだけで、モデルもこなす子役の話なのだろう。

「でも美鶴先輩は巌戸台に残っていそう」
「そうかもしれないね、桐条グループを継いだみたいだし。…アイギスも一緒にいるかもしれないね」
「アイギスちゃん…会いたいなあ」

 桐条美鶴!?あの大企業、桐条グループの総帥!?この子らの言ってることのスケールが大きすぎて、二人のの空想の話でも聞いているみたいだ。

 なんか…作り話だとしても面白くないか?そう思った俺は、SNSに投稿する文章を打ち始める。

「ボクシングを極めてるのかなって思ったら真田先輩の話は聞かないし、天田君も今だと高校2年生くらいだよね。あ、じゃあ天田君には会えそう!きっとコロちゃんとも一緒だよ」
「月光館学園にエスカレーター式でいるなら、そうだろうね。山岸はどうだろう…」
「個人的な印象だとIT系の企業に就職してそう。それかお料理教室のお姉さんだったりして」
「それもあるかもね」
「私たち、風花ちゃんのお料理修行を一緒に手伝ったもんね〜」
「うん。…順平はどうだろう、あんまり想像がつかないな」
「たしかに…でもなんやかんやで、チドリさんと幸せにやってたらいいよね!」
「そうだね」

 よし、まとめ終わった、軽い気持ちでSNSに投稿する。顔をあげると、いつの間にか小学生らは駅に降りたのか、前の席から居なくなっていた。

『電車で乗り合わせた小学生たちが港区にいた頃の友達だって岳羽ゆかりや大企業の総帥の名前を喋っててワロタww』

 ちょっとでもバズったら儲けもん、と思っていたが、リア友のフォロワーからは「何じゃそら」「イミフ」とのリプが送られるだけで、何もバズりはしなかった…。ま、そりゃそうか。

 深夜、寝っ転がりながらゲームをしていると、スマホに通知が入る。当たり前のようにとスマホの画面を見ると、怪しいアカウントからダイレクトメッセージが届いていた。
 『君が話題にしていた小学生たちのことについて教えて欲しい。君の住所は東京都の…だろう』と何故か住所が特定されていた。一気に冷や汗が出る。俺、そんな悪いことしたのか?

『脅すつもりは無い、ただ、その小学生らの情報を教えて欲しいだけだ。服装や特徴など、なんでもいい』

 肝が冷えきった俺は即座に小学生二人の特徴と、着ていた制服、もしかしたら渋谷区の小学生かもしれないと返事をする。

 『恩に着る。君の情報は晒すつもりはない、安心してくれ』とだけ残され、やり取りは終了した。
 …え、なにこれ、あの子らのこと教えてよかったのかな…。あの子らに、危害加えるとかじゃないよな…とビビった俺は、眠れないまま明日を迎えた。学校に着くと、即、部活に入ることにした。
 「ゲーオタのお前がどしたん?」と友達にからかわれるも、理由を話せない。
 帰宅部のまま、同じ時間帯の電車にあの子たちが乗ってこなくなったら怖い、なんて言えないよ…。

――――

 まさかそちらから会いに来てくれるとは思わなかった。手を繋いで、下校しようと門をくぐろうとした時、「リーダー!結城!」と声をあげられ、驚くまもなく冷たい体に抱きしめられていた。

「お二人とも、…また、この世界にきてくれたんですねっ…!」
「アイギス…」
「あ、アイちゃん…」

 泣きながら私たちを抱きしめるスーツ姿のアイギスちゃん、腕組みして頷くこちらもスーツ姿の美鶴先輩。勿論、美鶴先輩は大人になって、でもアイギスは変わらない姿で…。何故私たちがここにいると判明したのか、よく分からなかったけど、私も涙が滲み、二人して大泣きすることになった。子供に戻ってから涙腺が緩むこと緩むこと。(勿論、美鶴先輩は涙が滲むくらいで、理は黙ったままで泣きはしなかった)
 クラスメイトの子らが私たちがわんわん泣いているせいか、先生を呼んできたけど、美鶴先輩が対応してくれて、ことなきを得た。(手帳みたいなものを見せていた)

 カフェでゆっくり話すことになり、「甘いものでも頼むか?」と先輩に気遣われる。子供に戻ったことで舌も子供仕様になってしまった。理と共に頷く。
 お母さんにはキッズスマホで帰宅が遅くなることを伝える。隣の家の理も同じようにスマホを操作している。以前はケータイをポチポチしていたのに、やはり時の流れを感じる。目の前の二人を目にして、改めてそう思った。

 先程から涙ぐむアイギスちゃんが傍から離れないので、真ん中がアイギスちゃんで3人でソファ席に座り、向かいに美鶴先輩が座る謎の構図となる。

 小ぶりのパフェを食べていると、二人に微笑ましく見つめられる。なんだか、恥ずかしい。でも美味しいから仕方ない。

 食べながらでいいから聞いて欲しい、と先輩はこれまでのはなしをしてくれた。高校生の私と理が亡くなってからのみんなのはなし。私たちの葬式の後、ひと騒動あったこと。みんな分寮から出て(今は一般の生徒が使用しているらしい) 、3年生組だった美鶴先輩たちは大学へ、受験の歳を迎えかつての2年組、ゆかりちゃんと風花ちゃん、アイギスちゃんが順平君の勉強をみていたこと。アイギスちゃんは現在、先輩とともに働いていること。天田くんも成長し、とてもモテモテになっているそうで、コロちゃん共に過ごしていること。真田先輩は武者修行(?)の日々、純平君はバイトをしながら少年野球のコーチをしており、風花ちゃんは、時折美鶴先輩たちのお仕事を手伝ってくれるそう。ゆかりちゃんは言わずもがな、私たちの知っている通りの活躍で世間を賑わせている。

 私たちも、あの約束の日からすぐ、隣同士の家に生まれた。ご近所同士仲良くなったお母さんたちが、二人とも頭がいいからと(高校の記憶は持っているから、そうなるよなあ)一緒に私立の小学校へ通わせてくれたことを伝える。

「そうか…。二人とも、元気そうで良かった」
「私も、美鶴先輩やアイギスちゃんと会えて嬉しいです。まさか、また同じ時代を生きられるなんて思ってもなかったので…」
「綾時のおかげかもしれないねって、二人で話したことがあります」

 彼が二度目の生を与えてくれたのかもしれないな、と美鶴先輩が頷く。
 その内、彼女は腕時計を目にし、随分話し込んでしまったと困ったような顔をする。親御さんたちが心配するだろう、とこの場はお開きになる流れに。

「もう少し大きくなったら巌戸台まで来てくれると嬉しい」
「私は…、たまに会いに来てもいいですか?」
「休みが取れたらな」

 美鶴先輩の鋭い言葉に、肩を落とすアイギスちゃん。

「…で、ですよね、はい…。でも、お二人にお会い出来て良かった…」

 なんだか、とても仕事が忙しそう…。アイギスちゃんはしょんぼりしながらも、私たちを交互に見て、微笑んだ。

「時間は沢山ありますからね」

 地下鉄に乗り、家まで送ってくれた後、彼女らは去っていった。(アイギスちゃんはとても、とても名残惜しそうに)私たちはすぐに家に帰らず、道路の脇に座り込んで話をする。

「なんだか、夢みたいだったね…」
「先輩やアイギスに会えるなんてね」
「この調子でみんなにも会いたいね!」
「そうだな」
「うん!うん…でも…」
「でも?」
「明日…かっこいいお姉さんたちと何があったの!?ってクラスで話題になりそうだね」
「…うん」

 理は遠い目をして地面を見つめた。

「あっ!!めんどくさそう!!」

 私は理の様子を見て笑った。
 二度目の奇跡が果たされた世界のおはなし。