※いじめ被害者の夢主(そんなに傷ついてはいない系)
目障りな群れを咬み殺して、なんとなしに保健室に寄った。保険医は僕を見て「あーナマエちゃんとの逢引きね、ごゆっくり~」とサボる口実が出来たとばかりに口笛を吹きながら保健室を出ていった。
「雲雀さん?来て下さったんですか?」
「まあね、暇してたから」
「お怪我は……もちろんないですよね」
「当たり前だろ。毎度確認しなくたっていいのに」
いつものベッドのカーテンを開くと、ベッドに教科書を広げた少女が僕を見て、へにゃりと笑った。ベッドの傍に置かれた椅子に座ると、「分からない所はないかい」と尋ねてみた。彼女は「大丈夫です、ありがとうございます」とにこにこする。
彼女は「保健室登校」をしている。なんでも、いじめられて教室に行くのが面倒だからと、こうして保健室まで登校をし、教科書や配られたプリントで勉強をしているのだという。
学校の風紀を乱した加害者は制裁を加えたけれど、彼女はもう教室に行く気がないらしい。
「かわいそうな目で見てくるんですよね」
いつの日か彼女は真顔でそう言った。彼女はいじめを注意して、いじめられるようになった。それでも「クラスに戻っても腫物扱いでした」とのこと。何回かクラスに戻ってみたらしいが、居心地が悪かったから保健室に戻ったそうだ。
保険医とたまに雑談しながら過ごす保健室がいたく気に入ったそう。別に、教室に行けと教師のように小言を言うつもりはない。好きでそうしているなら、そうすればいい。
「雲雀さんって、わたしのことただの「いじめ被害者」とは見ないじゃないですか。だから勝手にありがたいなーって思ってます」
その言葉に、そう、としか答えることができなかった。「いじめられた」と聞いていたから、ただの弱い草食動物かと思っていたが、「不快な気持ちを回避するために保健室でもいいから登校して勉強してテストでいい点とれば、高校の選択肢が拡がるんじゃないかな」と最善の道を考える頭は持っている。
「雲雀さんはどうして保健室に寄ってくれるんですか?」
「……君と同じ考えかな」
「それって……居心地がいいからですか?」
「そうかも」
「静かだし、あんまり人もいないですし。ですよね、分かります」
彼女の言葉に納得したような、そうじゃないような。
「僕も質問をしていいかい」
「どうぞ」
「僕が怖いと思わないのか」
彼女は雲雀さんでもそういうこと聞くんですね?と目を瞬かせた。自分でも不思議なことに、意味のない問いかけをしたと思っている。
「雲雀さんに暴力を振るわれたことはないですし……、一番恐ろしい…というか気味が悪いのは他人の醜悪さだと思っているので、今のところ特には」
「今のところ、ね」
その言葉にトンファーを取り出した。
「じゃあ、僕が君を殴ったらどうなる?」
彼女は首を傾げた。
「あなたはあなたの信念のもとに動いているでしょう。私を殴る理由、ありますか?」
何を試しているんです?とナマエは僕を真摯に見つめる。その問いへの答えは自分でも分からなかった。僕は息をついてトンファーをしまう。
「物怖じしないんだね」
「そりゃあ色々ありましたから……」
肩をすくめる彼女は唐突に「あ」と声をあげた。
「雲雀さん、そういやここ分かんなかったんだ。教えてください」
会話している合間に問題を解いていたのか、身を乗り出して僕の方へ問題が書かれたプリントを見えるように差し出す。
彼女のペースに戻された。まあいいか……と僕はきまぐれに解き方を教えてやることにした。