例えばの話

「なにがしたいんだろうなあ」

やることがない、と私は休みを満喫できずにいる。やりたいこともない。完全に手詰まりだ。やる事がないならば、体を休めるだとか、何も考えずにゴロゴロする。…それさえもどうやっていたんだろう。小学生だった私に教えてもらいたい。

「燃え尽きちゃったんですか?」

症候群的な意味で言っているのか。畳の上、寝転んでいる私の上からかぶさる影。鯰尾が腰に手を当ててかがんでいる。

「燃え尽きては無いと思いたい。しかし幼馴染の鯰尾かって感じだね」
「俺は主のヒロインですか、あーでもそれもいいかも」
「なんで?…でも、セーラー服、普通に似合いそうだな」
「あ、そういう目で見るんだー」

一緒になって読んだ漫画の知識を共有できている事が嬉しい。
主ってばーと呟きながら、私を見下ろしていた鯰尾は隣へ移動すると、私と同じように仰向けで寝転んだ。

「まあまあ、そんなことより。なんでヒロインでもいいって?女の子になりたいの?」
「主人公たる主の隣の家に住んでてもいいなって。そうなれるなら性別は別に気にしないかな」
「そりゃあ有り難いね。鯰尾、色々世話焼いてくれそうだ」
「そりゃ焼きますよー?…そんな未来もあったらいいな」
「そうだね」

鯰尾藤四郎は、刀で付喪神でしかない。審神者たる私がいるから存在している。
…っていうかそもそも敵が過去を滅茶苦茶するから、私と鯰尾は出会えたのだろうか?不謹慎だが、そこには感謝しておきたい。普通に暮らしていたらこんな経験も出会いも無かった。

…だけども、戦が終われば私達はおそらく、永遠にお別れなんだと思う。政府が政府だから…。あっさり、私達人間とみんなの間に線を引いてしまうだろう。
だからこそ、そんな未来があったら!なんて願わざるを得ない。
輪廻転成に関してはまったくやる気なしの私だが、そう望んでくれる人がいるなら「やったるかあ〜」みたいな気持ちになる。(やれるかはさておき)

「人間として生きてもいいんだね」
「それだけ主の隣が心地いいってこと」
「鯰尾、たまにグッとくる言葉吐くね…あんた…」
「そういうの言葉にしてもらえるって、結構嬉しいもんですね」

そうか、同じ生き物じゃないとずっと一緒にはいられない…。私は鯰尾を置いて先に死ぬのか。重い現実を休日に知る。知ってたけど、頭で「ああ、そうなんだ」と認識してしまう日が来るとは。
お寺にあるような重厚感ある鐘が頭の中で響く。てっぺんから爪先まで震えるような感じがした。

「私を隠してくれたら、私は永遠になる?」
「神隠しですか?してほしいの?」

鯰尾が身を乗り出す気配を察知。まさか乗り気か。「いや、鯰尾を置いていくの、寂しいからなんとなく聞いてみた」と伝えておく。

「永遠になると思いますよ」

おもわず鯰尾の方を向いた。私を見ている。さっきからだろうか、体を私に向けていた。真っ直ぐな視線、笑ってはいない真剣な顔。ほんの少しだけ、怖い、と思ってしまった。

「現在進行中ですけどね。今だって、本丸ごと時空のはざまにいるじゃないですか。主の体は時が止まってる」

あ、そうなの。そうなんですよー。いつもの軽いノリ。そうか、ここにいる限りは死なないのか。素直に言葉を受け取ってみたが、あまり現実味は湧かなかった。日常は割と異質だったらしい。
鯰尾は「だからーー」と言葉を続けた。

「ここにずっと居たかったら付き合うし、隠して欲しかったら隠します。どれもやだったら会いにいきますね」
「…はあー、鯰尾は熱烈だね」
「えぇ、主しか見てませんから」

凝視されている私。…それって、今の状況的に?と思ってから、愛の告白かな?と言葉のあやに気付いてしまった(?)私は、素直に自惚れたくないので「私も鯰尾しか見てないぞ〜」と言っておいた。

「有難うございます」

微笑む鯰尾。いつも思うけど、きれいだな。
多分、どう転んでもずっと一緒に居てくれるんだろうな。それが私にも一番心地いいや。