俺が寂雷先生の婿にされるお話

『一二三、俺はもうダメかもしれない。
よってこのメッセージを残しておく。

俺は寂雷先生の婿にされた。』

「なんじゃこら」

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一二三side

ここ何日か家に帰ってこない腐れ縁の幼馴染。鬼電しても連絡がないもんだから失踪願いでも出すべきかと独歩に相談していた。
独歩はあからさまに目線を外しながら
「会社には出社してるし、多分あいつなら大丈夫だろ」と適当に会話を切り上げようとする。ナマエがいなくなっても前向きな独歩。怪しい。
独歩はナマエを俺っち以上に面倒みてたし、懐いてた。会社で会ってるならどこに行ってるか死にそうな顔でナマエに問い詰めると思う。そんで、俺にもどこにいるかくらい教えてくれると思う、(ご飯用意してるしね)普通は。
絶対なんか知ってるやつじゃんそれ。

俺は帰ってこなくなったナマエの部屋を掃除しながら、何か手がかりでも無いかと残されたものを物色していく。

閉じられたクローゼットの取っ手にかけられたブランド物のジャケットを見て、悪い予感が浮かぶ。
失踪する前、ナマエはやけに高そうなものを毎週のように新調していた。ジャケット、コートに靴に時計。失踪する直前に聞いた事がよみがえる。

「ナマエちん最近羽振りいいじゃん、どうしたん?」
「ん、いやこれは…貰った」
「は?誰に!?…女?」
「…えーと、俺のファン?がいて、それで」
「貢がれてるって事?ヤバすぎね?それ…」
「わ、分からん。断りきれず貰ってしまってる…」

心底困った顔をしながらも笑っていた。ホストでもない相手にここまで出来るって…。(俺っちはホストだから貢がれてるからね!)

「マジで困ったらケーサツにかけ込めよ?…てか先に俺に相談してよー!」
「ごめん、でもそこまで深刻に困ってるわけじゃないからなあ。…今は」

即、犯罪臭がする、と独歩に相談しようものなら。

「…ナマエが取引先の人に気に入られた。…い、一応犯罪では無いから大丈夫だ」
「一応て!どっかの脂ぎったエロ親父じゃないよね?それとも女?」
「どっちでもないから大丈夫だ…」
「じゃあオヤジじゃ無い男かよ…!」
「おやじ…う、うーん。…とにかく、心配しなくていい、と思う、多分」
「歯切れ悪っ!怖っ!!」

という事があった。
同じ会社だからどこの誰が相手か知ってると思うけど。
もしかしてこの貢ぎヤローがナマエを囲ってるかもしれない。独歩も片棒担ぎやがって。
主に独歩への文句をブツブツ呟きながらベッドの下、棚の中、額縁の裏を探るも、特にヒントになるような物は何もない。てかベッドの下に何も無いとか健全すぎる…。(俺っちも健全です。独歩はなんかあったけど見れてない)
今度はクローゼットの中を探る。靴や時計の箱、ショッパーが乱雑に積まれている。整頓していると、閉じられたノートパソコンが隅に置かれているのを見つけた。俺、ナイス。立ち上げてみようかな。

電源ボタンを押すと、パソコンが起動した後に、すぐパスワードを入力する画面になった。

「パスワード…」

自分の誕生日かな、と安直にナマエの誕生日四桁を入力するも、弾かれてしまった。

「じゃあ…俺かな…」

『123』と入力した。画面が変わった。まさかの正解。てか俺の事めっちゃ好きなの?!やだナマエ可愛いな!好き!感激していると、あれよあれよという内に…。

『このビデオを見ているという事は、お前は一二三だな…』

自室で撮ったのか、ナマエの自撮り動画が始まり、冒頭に戻る。

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ナマエside

初めて会った時はでかくてキレーな先生だと思った。独歩が担当していた取引先の先生に、何故かオレも会う事になっていた。何でも独歩がスマホの写真を見せた時にたまたま写っていた俺に興味を持ったらしい。どういう事でしょうか。

「どういう事でしょうか」
「率直に聞きすぎじゃないか…!?」
「だって独歩に聞いても『興味があるらしい』って濁すだけだったじゃんか」

カウンセリングのごとく椅子に座り、こめかみに手をやっている先生と対峙する。

「そうだよ。君に興味があってね。麻天狼の二人の友人なら会っておかないとって」
「僕も何回も言ったんですけどね…!すみません…」

マジか。マジでそんな理由なのか。建前に聞こえたけれど、マジか。

「独歩君、一二三君と親しいという事は、君はどこまで変人なんだろうなと個人的に、ね」
「あれ?俺達貶されてる…?(小声)」

独歩が頭を抱え出す。俺も多分貶されたと思う。だが彼はつよくてすごい取引先、ぐっと我慢!個人的な興味で友人を呼び出す先生!つよい!

「えーと…俺も二人と同じように小学校からの幼馴染なんですよ。ただの腐れ縁でここまでズルズルきてるだけで…」

しゃべっている俺以外の声は聞こえない、静かな執務室。椅子に座って対峙するこの大きな人の綺麗さも相まって威圧感が半端ない。顎とこめかみに手を添えている先生を前に、独歩と一二三との馴れ初めを語る。
そして三秒で終わった…。それ以外に語る事ある?
隣の独歩は電話の逆探知を指示するが如く話を伸ばせと何かをつまんで伸ばすようなジェスチャーをしている。いや、もう話す事ない。そこに先生が助け舟。

「二人と仲良くなったきっかけがあるなら、知りたいな」
「そうですね…。入学してすぐから二人の仲が凄いよかったのは覚えてます。完全に一二三のテンションに独歩が巻き込まれてた形だったんでしょうけど、クラスのやつらや俺も一緒に巻き込まれてワイワイやってた気がします。それが小中高、大学、…今も続いてますね」
「あの頃から一二三君は人気者だったんだね」
「ええ、でもたまに一二三が調子に乗りすぎて独歩を連れてやんちゃしてたなあ」
「へえ、やんちゃかい。例えばどんな?」
「そうですね、『これやってみたら面白くね!?』みたいなノリで独歩を道連れにするパターンでしょうか。例えば…二人で学校帰り自転車でどこまでいけるか試して、区域外にいって親御さんに捜索願出されてましたし、他にも近所の池で釣りしてヌシを釣り上げるまで帰らないチャレンジとかしてましたね〜」

自転車のくだりはシンジュクを超えるくらいチャリで移動したらしい。翌日「心配かけてめんご〜」と悪びれていない一二三と目を赤く腫らした独歩が登校してきたような。
ヌシ釣りも一二三によると「水面から見てヤベーのがヒットしたんだけど、魚の勢いが強すぎて独歩ちんと一緒に池に落ちたオチだったわーマジ笑えるっしょ」という結末だったらしい。

「今もそんな感じな気がする…」という独歩のつぶやきは置いておく。

「でも一二三に悪気がないのはみんな知ってるので、大変な事にならないよう、ストッパーにならねば、と意気込んだのがきっかけなのかな。二人の中に入って行ったんですが、結局二人のペースに巻き込まれてたような気がします。騒動が止められた事ってあったかな…。まあそんなことより、独歩はどうよ?俺と仲良くなったきっかけとか覚えてる?」

チャリや釣りの案件以外の騒動に今でも、俺も傍観者でなくその一員として巻き込まれている。でも、思い返すと笑える事が多いかな。

俺をここに連れてきた独歩にも少しは協力してもらわないと、と話を振った。

「俺に振るのか…。ナマエの言っていた事で大体話は済んだと思います」
「早い!」
「本当に、…ナマエはお人好しが過ぎるから、俺たちに深く関わらずにいればこんなに振り回されずに済んだのに、とたまに思います」

どうしてそうなった。マイナス思考に磨きがかかっている。

「えぇー!酷いこと言うなぁ。俺の選択は正しかったと思うよ?普通に今も楽しくやってるしな。悪い事だと思わなくていいのに〜」
「…すまん」

しゅんと肩をすぼめる独歩。ぽんぽん叩いておく。悲観的なやつだから、都度、訂正していかないと。

「ふふ、…そういえば、三人で一緒に暮らしているって聞いたけれど、ルームシェアってどんな感じなのかな」
「そこまで聞いてるんですか?」

独歩を見る、そっと目を背ける独歩。こやつか。

「まあまあ、楽しそうだと思ってね。ここも独歩君と一二三君が住んでいた所に君も加わったと聞いたよ」

そう、成人男性(アラサー)が三人で暮らしているのだ。世間的にどうなのかと思うかもしれないが、一回この条件下(家賃負担減、家事当番制、立地条件良し)で住んでみたら快適だから!ということを熱弁したい。
幸いにも先生は偏見を持っている方では無かったから良しとする。

「…ええ、独歩と一二三がシェアで住みだしたとこに転がり込んでしまって結構経っているんです。住み心地がよくて、他に住む所を見つけようと思いながらズルズル居座ってますね。厚意に甘えてしまってて」

同居を決める前、独歩からのルームシェアしてるから遊びに来いという知らせにのこのこ釣られた俺は、二人からいかに便利で快適な暮らしをしているかをプレゼンされた。(資料なども用意された。プロジェクターも用意してプレゼンされた)駅近、スーパー、病院なども近く、住み心地も良さそうな綺麗な部屋…。ちょうど一部屋空いてるからお前も暮らしてもいいんだぞの言葉に甘えてしまった。それから何年経ってるのかはあえて数えまい。

「そうなんだ、楽しそうだね。三人いればなんとやら、という風に家事も分担できそうだ」

先生は微笑ましそうに目を細めた。理解のある人で良かった。いい仲間(取引先)を持ったな…独歩よ。
そんな先生に対して俺も頷きながら微笑み返す。

「そう、家事も分担してやってますね。一二三と俺と時々独歩で。ただ、一二三が結構メインになってますね…。イケメンで料理もうまい。そのくせホストの財力をふんだんに使ったマンションの一部屋なので、一二三様様ですよ本当」

一二三を褒めすぎたので、独歩のフォローもしておく。「あ、独歩もお仕事頑張ってえらいからね!」と付け足しておくと「めっちゃ今付け足したな」と言われてしまった。すまんかった。
独歩の配属されている営業部署の地獄具合は半端ない。他の部署でも話題である。俺は別の部署だから独歩の愚痴を聞くことしかできない…。毎日仕事行ってるだけ偉すぎる。俺だったら一週間で辞表叩きつけてると思う。
なんやかんやで独歩は我慢強く、大事なことなので2回言うが、偉いのである。

「彼らととても親しいんだね」
「そうですね。なんだかんだいって、二人とも世話焼いてくれますし…」
「というと?」

先程から寂雷先生は穏やかな表情で話を聞いてくれるが、それでいて、何か聞き出そうとしているような圧を感じ始めた。だが断る術もない(大手の取引先)戸惑いながら例を挙げようと日々を思い返す。

「ええ〜、多分頼りないからなんでしょうけど、一二三は結構俺のやる事や体調を把握してくれて、「昨日言ってた資料って用意できたん?」とか…「調子悪そうだったから体に良さそうなもん作っといたぜー」とか「今日は寒いらしいからマフラー発掘しといたから着けてけば〜」って世話焼かれてますね。一二三は俺のお母さんでしょうか?」
「そうだね、ナマエ君の母親的な役割になる事で、彼の庇護欲が満たされているのかもしれない」
「冗談で聞いたのにマジレスされてしまった…」

先生は真剣だ。俺が冗談を言ったのが悪いように思えるのは何故だろう。独歩は独歩で深く頷いている。そういや先生に仕事の相談に乗ってもらっているらしく(取引先とは)先生に絶大な信頼を置いているのは見て取れた。
俺を連れてきたのも「先生がこう仰ってたから、来て欲しい」と酷い表現ながら、いつもは淀んでいる目をきらきらと澄ませて目で訴えるものだから、仕方ないなあと部署を超えて連れられることになったのだ。

「独歩君も一二三君によくお世話をされているんだってね?」
「まあ…はい、でもナマエの方があいつにとって…」
「うん?」

俯き出す独歩。独歩の小さなつぶやきに暗い感情しか見つけられなかった。

「なんか気にしてんのか?お前のが一二三と仲良いだろ」
「…いや、何でもない」
「俺は凄い気になるけどね!でも、ま、独歩がそう言うなら仕方ない…」

変なこと考えすぎてないといいけど、と肩をすくめる。あまり聞いて欲しくなさそうなので深追いするのをやめておいた。
助けを求めるように先生の方を見る。先生は俺たちを見て、微笑むだけ。