僕の気持ち

今の主は臆病で、優しい子だ。

 幕末の戦場に出る僕達に彼女は小さな声でこう言った。頼りない笑顔。「無理はしないでね」手を白くなるまで握りしめている。それが何を意味しているのか、深くは考えなかった。清光は大丈夫だよ、なんて笑って気軽に彼女に言葉をかけていた。何も気にしていないような顔。清光は沖田君のことを「あの人」と呼ぶ。沖田君のことをあまり話にしたがらない。沖田君のことを忘れてしまいたいのかもしれない。清光とは同じように彼を慕ってきたつもりだった。裏切られたような気持ちになった。

 戦うのは好きだった。沖田君のように戦える。沖田君の分まで戦える。そう思えば、ずっと刀を交えていたかった。刀だからこそ楽しいと感じるのかもしれない。だが、やっている事は「沖田君が病死する歴史」を守っているということ。
 歴史修正はいけない事だと頭に染みついていた。彼女に呼び出された時に植え付けられた意識なのだろう。今までの歴史を守る事、僕たちのしている事は正しいこと。沖田君を救うのは、いけないこと。でも、僕は――。矛盾してる。このまま戦っていていいのかな。でも、誰にも話すつもりはない。弱い自分をさらけ出す気はない。それに、誰も答えをくれない。

 人の姿って面倒くさい。なんで悩んでしまうんだろう。だからといって刀のままだったらよかった、なんて思わない。振るう者がいなければ、何もできない。人の姿をとったからこそ、こうして一人で戦えるのだ。
 清光に連れられたまま、屋敷に戻ってきた。気が付いたら、主が転んでいた。それはもう豪快に。顔を地面につけている。なんで?呆然としている間に、三人が主に駆け寄る。心配している彼らは、彼女の様子を窺えるように、皆一様にしゃがみこんでいる。僕は、彼女の心配ができていない。突っ立ったままだった。僕は、おかしいのだろうか。

 彼女は初陣を祝してご馳走を用意してくれていた。彼女が何故、こんなに泣きそうなのに笑っているのか、わからない。
 「ありがとうね」と、来てすぐの僕にも微笑んだ。ころころ変わる表情から目が逸らせない。よく分からない。どうしてこの子は、いちいち悲しそうにしたり、笑ったり、泣いたりするんだろう。まだ来て間もない僕たち「刀」に、そんなに情をかけられるんだろう。

 僕はこの子に何もしてあげていない。まだ一回近侍をしただけ。清光や鯰尾と話す時のように彼女を笑わせていない。うまく会話もできないし、短刀のように可愛がられる子供の姿でもない。どうしてこの子は僕を気に掛けるんだろう。
 それに、僕は彼女を心から慕うことが出来ていない事に気づく。頼りになる主だと尊敬ができない。やっぱり僕の一番は沖田君だった。これって、変なのかな。主の刀なのに、主を一番に想えない。主のことが分からない。全然、知らない。

 どうしてあの子は審神者になったの。清光にそう問いかけようとして、口をつぐんだ。誤解をされそうだと思った。僕の気持ちはこれからも変わらないだろうに。