凪ちゃんと樺根君の話

※「黒曜編序章」のつづき?

 黒曜中学の生徒会長暴行事件の調査をしている時の話だ。私は黒曜町内の公園で事件のことをまとめていた。なにかにたどり着きそうな時ほど、闇に撒かれるように、真相がどんどん遠のいていく。この事件は加担した不良の他に首謀者がいる。私はそれが六道骸だと見ていた。転校してきた生徒で、彼が現れてから生徒会長の様子がおかしくなっていたそうだ。私達の通っていた空手教室を辞めた少年。正義感から封じたであろう暴力に溺れ始める。…並盛も人の事を言えないことをしているだけに、事件に興味は尽きない。どうやってあの不良たちを制圧した。…そこまでの力を持ちながら、不良たちに返り討ちにされた。反乱されることを考え至らなかったのか…?
 ノートに今までの記録をまとめる。毎日のように中学を尋ねて、生徒を懐柔して聞き出した内容。先生や生徒などの人物記録。不良と六道骸、日辻との関係。

「にゃあ」

ベンチの下の方から聞こえた猫の声。ノートから視線を外し声の方を見る。可愛らしい黒猫がたたずんでいた。餌をねだっているのだろうか。あいにく持ち合わせは無く、物怖じしない黒猫を撫でるだけに至った。

「ごめんよ、猫缶でもあればいいんだけど、何も持ってないんだ」
「ふにゃ〜」

 それでも人なつこい猫は私を輝いた目で見上げる。…近くにスーパーやコンビニでもあるだろうか。土地勘がない為、それも分からず。どしたものか。猫をただ愛でるだけじゃ駄目?耳の後ろを指で撫でると、猫は目を細める。
 人が寄ってくる気配に顔を上げると、長髪の少女が「あ…」と声を漏らしながら猫缶を手にしていた。それを見るに、彼女はこの子のリピーターなのだなあとのんびりと思った。

「この子、いつもこの公園にいるの?」
「う、うん。…大体はここにいるけど、たまに町をうろついてる」
「へえ〜散歩してるんだね。この子の名前は?」
「…くろ、ちゃん」
「まさにだね。あーかわいいねーくろちゃん」

 少女が差し出した猫缶にむさぼりつくくろちゃん。頑張って、必死に食べる様子に愛おしさを感じた。一生懸命生きている。一緒にしゃがみ込んで、くろちゃんの様子をまじまじと見つめている。

「あなたは…見慣れない制服だね」
「あ、私?並盛からちょこちょこ遊びに来てるんだ。並中の三年生」
「先輩…」
「あ、全然かしこまらないでいいよ。君は?近くの私立中学の子?」

 少女を見るに、普通のセーラー服だ。あの黒曜中独特の制服ではない。

「…うん」
「そうなんだ、うん、私立っていいじゃん。割と黒曜中の生徒って不良が多いみたいだから」
「…」

 くろちゃんが食事を終えたようだ。満足とばかりに手を舐めて、己の顔にこすり付けている。缶もからっぽ。良かったねとぺろぺろ中に頭を撫でる。私にとっての良い反応は無く、ぺろぺろは続いていく。動じない、大物だな。

「これからはここに通おうかな」
「え…」
「猫ちゃんいるし!今度私も猫缶持って来るね」
「そう…」
「あ、勿論あなたの餌やりは続けて大丈夫だからね!私はおまけ程度で」

 表情があまり変わらない子だ。それにおとなしい。でもくろちゃんを前にすると、ほっと息をついたような、穏やかな顔になる。猫セラピーである。

「もし良かったら名前、教えてもらっていい?私はナマエ」
「…凪」
「凪ちゃんか、よろしくね。猫友だね」
「ねことも?」

口をついて出た謎の言葉に凪ちゃんが首を担げる。その内座って私達を観察するようになったくろちゃん。人懐こいから大丈夫だろうと抱き上げてみると、案の定おとなしく抱かれてくれた。ふわふわとあたたかい。元はだれかの飼い猫だったのかな。

「この子がね、私達をつないでくれたんだなあって。だから猫友」
「…友達」
「うん。もしかして嫌だった…?」
「ううん」
「そう、よかった」

 嫌じゃない旨がすぐに返ってきて、私は胸をなでおろした。

✳︎✳︎

黒曜中の屋上。やはり樺根君が昼飯の菓子パンを食べていた。チョココロネだ。私をみると嬉しそうに微笑んでくれる。

「屋上飯、すっかりくせになっちゃったなあ。ここは風が気持ちいいね」
「えぇ、そうですね」
「うん、調査の疲れがよくとれる」
「お疲れ様です。…なにか進展はありました?」
「んー?特には」
「そうですか…」

日陰になる入口側に私も座り込むと、コンビニおにぎりを口にした。そうそう、と頬張りながら話題をあげる。

「樺根君、猫がいる公園を知ってるかい?」
「え?」
「割と黒曜中から離れてるから知らないか。私立中学の近くのさんかく公園なんだけど」
「初耳です。野良猫がいるんですね」

やっぱり友達があんまりいないのか。それに、土地勘が無い。もしかしてここが地元じゃない。中学からの転校生?など樺根君に対する情報が頭の中に入ってくる。

「どんな猫なんですか?」
「あぁ、黒猫でね、結構人懐こいんだ。ご飯をあげにくるリピーターの子もいたよ」
「その猫、人気なんですね」
「近所の方のアイドルにもなってるみたい」

 あの後の帰り際、近所のおばあちゃんが「みーちゃん」と呼んでいた。くろちゃんはすぐにおばあちゃんの元へ飛んでいった。勝手ながらも薄情者!と思ってしまった。(ご飯をあげたのは凪ちゃんだし、私は何もしていない)「おやつにちゅるちゅるをあげようねえ」と声をかけながら共に去っていく。「あの人が飼い主さん」と呟くと「違うみたい」と凪ちゃんに返答された。「庭で可愛がってるみたいだけど、家に犬がいるから、飼ってるわけじゃないんだって」そういう事もあるか。「誰か飼い主が見つかればいいんだろうね」と思ったことを口に出していた。凪ちゃんは猫がいた所をじっと見つめる。凪ちゃんの家でも飼えないのかもしれない。「でも、誰か拾っちゃうと私達のアイドルがとられちゃうって事にもなるね」と言えば、しっかりと頷いてくれた。

「リピーターの子が優しい子でね、猫缶をいつも彼に寄付してるんだよ。だから私も貢献しないとなーって思って、今日買ってあるんだ、猫缶」

カバンから樺根君の目の前に猫缶を差し出す。ねこまっしぐら缶。可愛らしい猫のキャラがパッケージに印刷されている。これも決め手であるし、一番人気なのもあり、この缶にした。

「樺根君も放課後猫を見に行かない?」
「大丈夫です。じゃあナマエさんについていきますね」
「うん!」