出会い

 懇意にしている夫妻に会いに行く。両親が楽しそうに話してくれたことを理は今でも覚えている。なんでも、学生時代の友人だそう。夫妻には理と同じ年の娘もいるそうで、良かったら一緒に遊んでもらいなさい、と理の母親は穏やかに微笑んでいる。その子に会ったら何をして遊ぶか、密かに楽しみにしていた。

 家族3人で車に乗っての旅行。大橋を超え、長時間揺られていたらいつの間にか、理は車内で眠っていた。

 起きたのは、見知らぬ家の中。目を瞬かせていると、顔を覗き込んできた女の子と目が合う。「あっ、起きたよー!」と女の子は自分の両親に知らせるように声をあげた。知らない家の家族になったみたいだ、と理は目をこすりながら起き上がった。
 両親と談笑していた夫妻が理に自己紹介し、女の子も促されて自分の名前を喋る。理が喋る間もなく、「理くんだよね?一緒に遊ぼう、何したい?」とナマエが言葉を続ける。

「家の中の探検がしたい!」
「オッケー!いこっか」

 友達の家に行くと必ず、物珍しさから色んな部屋を巡っていた。大人達が咎める気配がないので、ナマエに続いて、遠慮なく家を駆けまわることにした。本当に遠慮なく、浴室やトイレ、寝室まで探検する。

「次は私の部屋だよ」

 そういえば、とハッとする。女の子の家に、部屋に遊びに行ったことがない。ドアを開けて部屋に招かれると、少し緊張しながら床に座る。そんな理の気も知らず、占いの本があるんだよー、とナマエは可愛らしい表紙の本を取り出す。「理くんの誕生日は?」と聞くので、答えると「だったら私の方がお姉ちゃんだね」と言いだした。ナマエも自分の誕生日と星座を教えてくれた。確かに理よりも早く生まれている。自分で聞いておいて占いの本を放り投げるくらい、実に嬉しそうだ。
 「お姉ちゃん」と理がナマエの言葉を繰り返すと、ナマエはぱっと目を輝かせる。「わあ…!これからお姉ちゃんって呼んでいいんだよ!」と胸を張るので、「やだ」と拒否しておく。「えッ!なんで!」とショックをうける女の子。

「名前呼びの方がいい」

 放り投げられた本を広げて、なんとなく自分の星座の項目を眺める。ナマエの言っていた星座と相性がいい、という表記を見て、そっと本を閉じた。その間にナマエは吹っ切れたのか、学習机から画用紙とクレヨンを取り出していいる。
「あれ?理くん、なんか顔赤くない?」
「…そ、そんなことない」

**

 お絵描き大会、かくれんぼが終わると親たちに名前を呼ばれ、理は目線を下に向ける。
 別れが近づくと、帰るのが惜しいと思った。「また会えるよ~」なんて柔らかな笑顔で言うナマエを見て、気持ちがさらに沈んでいくのを感じた。
「ん、でも…、帰りたくない」
「なんでそんなに悲しそうなの?大丈夫だよ」

 ナマエは理の両手をむんずとつかんで、首を傾げる。彼女なりの励まし方なのだろう。手を繋がれた、その暖かな感触に、きまって理は何も言えなくなる。
 何回かお互いの家を訪ねることがあっても、理はいつも別れ際、行かないで欲しい、帰りたくないと、駄々をこねる。ナマエは「そうだねえ、でもまた会えるよ」とふにゃふにゃ笑うのみ。その無邪気な表情に、内心腹を立てながらも、彼女の言葉を信じていた。

〜〜〜

無配にて掲載