どこのギャルゲーだ。布を被り、刀を持った陰気そうな彼女を呼び出した私は愕然とした。
審神者というものは何かを使役するものだと聞いていた。
だけど、まさか、女の子だとは思わなかった。
真っ先に浮かんだのは女の子を率いて戦わせるのか、ということ。絶対ケガをさせられない。傷つけられるのが怖い。
いや、そんなことより、…男の審神者もいるのだ。もしかしたら使役しているからといってギャルゲーどころでなく、どこぞの酷いエロゲ的展開を繰り広げている者もいるのでは…?ああ!神様なのに!なんて事…!!
目の前でうろたえている彼女、山姥切国広のことより、それらの事が気になり傍らに控えていたこんのすけに問いかける。
「あのさぁ…女の子じゃんか」
「ええ、女性の姿をとっています」
「彼女に戦えっていうの?ちょっと、それ、どうなの」
「大丈夫です。彼女たちは付喪神、傷ついても刀さえ折れなければ直せます。…審神者様は男性の姿、動物の姿をとっていれば戦ってもいいような口ぶりですね」
こんのすけの冷淡な言葉に「ちょっと!」と口に出したというのに、彼は私の事をお構いなく遮るように言葉を続けた。的確に論点をついてくるものだった。これには言い訳じみたものしか口から出てこない。
「そんなことは…」
「では、これで抗議を終えられますか?」
「うう…。…じゃあさ、彼女達、戦う以外の事を不当に強いられてないの?」
「…あぁ、そこまで考え至るとは」
察したこんのすけは白い目で私を見つめる。なんだこれは、これでは私が変態のような口ぶりだ。
「なんとなく浮かんだだけ!こんな事出来るなんて、ゲームみたいだったからぁ!…で、どうなのよ?」
「私のような式神は常に審神者の傍におります。…分かりますよね?そのような事を政府が許すとでも?」
「あーあー!はいはい、すみません!分かったよ。頑張ればいいんでしょ」
もう口論で勝てる気がしない。かなり辛辣で口達者なキツネから目を背けると、目の前で顔を青くしてつっ立っている山姥切ちゃんに向き直る。
「え、ええと…山姥切ちゃん?ごめん、早速置いてけぼりにして…というか大丈夫?顔青いよ?」
「…私が、写し、だからか…。あぁ、そうだな」
「え?うつし?」
山姥切ちゃん、そっぽを向く。…うつしとは?まったく知識ゼロのまま着いていった私は、彼女が苦しんでいる原因が分からない。お助け役と自ら名乗っていたこんのすけに早速聞くことにした。
「うつしって何なの?こんのすけ」
「写し、とは、ある刀を模して作られた刀です。贋作ではありません」
「う、うん…?なるほど、で、贋作は偽物ってことだっけ…」
じゃあ、彼女は自分が「写し」の刀だから、こんなに卑屈そうなのか…?刀界隈でも格差社会などがあるんだろうか。
「私は偽者なんかじゃ…っ」
考えを巡らしている間に、呟いていた言葉に反応したのか。彼女は長い前髪からギリギリ見える目を苦しげにゆがめた。またしてもこんのすけに助けを求める。
「地雷を踏んだんだろうか、こんのすけ助けて」
「彼女は元からコンプレックスを少々拗らせている刀剣女士です。貴方がどう接するかで、彼女の気の持ちようも変わっていくと思われます」
「うう、そうなのか。またしても的確に心を突き刺していくスタイルゥ…」
今度の突き刺し方は正しさをつきつけるものでなく、全部私の責任になる放任ときた。もう少し協力してほしい。きつねを睨みつけるも、その表情は変わらない。
「ね、山姥切ちゃん」
苦しげに仁王立ちしている彼女の顔を伺おうと、首を傾げた。…びくり、と震えられた。いけない事をしているような気分だが、臆せず。下から覗いた布の中で、綺麗な目は潤んでいた。ああ、泣き出してしまいそうだ。
「ごめんね、悲しい気持ちにさせちゃって」
「…別に、あんたは……私が」
「…ね、色々とつらくなったら、全部話してよ。話せば楽になるかもよ?」
「…っなんで、会ってすぐなのにそんな事言うんだ」
よく分からない、といったような顔である。「めんどくさいだけだろ、私なんて」と見事なセリフをはいてくれたが、可愛い女の子だから普通に似合う。人間社会の格差を垣間見た。
「だって、女の子同士じゃない。いくら主従関係とはいえ、仲良くなりたいし」
女の子同士が仲良くなるのに理由がいるかい?そんな感じだ。
山姥切ちゃんは、「女の子…」と呟く。前は刀だったかもしれないが、今君、女の子だし?エンジョイしようよ!ということで「ねえ、早速居間でお茶しよう よ」と布を引っ張る。よほどこのぼろい布が重要なのか、「布を引っ張らないでくれ」とお互い本気で引っ張り合うことになった。
布を引っ張るのをやめると、普通についてきてくれた。鍛刀はいいんですか、と隣にいたこんのすけが聞いてくるが、二の次である。