刀剣女士2

気がついたら「写し」である自分が人間のように存在していた。ただ刀として事実を見てきただけなのに、そこに突然思考が加わった。よく分からないけど、ちゃんとした刀じゃなかったのが苦しい。
山姥切ちゃんは、そう途切れ途切れに呟いていた。突然具現化され、人間のような思考を持った刀剣女士。彼女達はそれぞれどんな刀時代を過ごしていたかで、性格も違うらしい。

「山姥切ちゃん、ごめん。勝手に呼び出しちゃって…」
「別にそれはいい。あんたが謝る必要はない」

あらぬ方を向き、布をぎゅうっと握り締める山姥切ちゃん。私はこんのすけを膝に乗せ、持ってきたクッキーを食べながら彼女の向かいに座っている。山姥切ちゃんにもクッキーどう?と言っておいた。おずおずと一枚手に取り、両手で食べていた。「甘い…」と呟いていた。
ちゃぶ台にはまたもや持ってきたインスタントコーヒーに牛乳を入れた、カフェオレが出してある。マグカップはお気に入りのキャクターが入ったものだ。やっ ぱり彼女は黙ってそれらを眺めるだけしかしなかったので、私が「飲みなよー」と勧めると両手を使って飲んでいた。あざとい。だが、似合う。

「そのコンプレックスを払拭させてあげたいのは、やまやまなんだけどね…。私には山姥切ちゃんの過去を変えてあげることはできない」
「それをやったら歴史改変ですよ」

こんのすけのちゃちゃいれがうるさい。こんのすけを睨みつけてから、山姥切ちゃんに向き直る。弱弱しい視線で私を見返す彼女が居た。

「言葉のあやだってば!……だからね、これからが大事なんだよ、きっと。これから、出来るだけ苦しまずに楽しく生きてこうよ」
「楽しく生きる…?」
「そう!ずっと苦しんで生きるより、楽な方がいいじゃんね。…って戦に駆り出す私が言っても、あれか。ごめん」

今度は私が愕然とした。審神者って、かなり、わるいやつ。「あ、う」と山姥切ちゃんは、私にかける言葉を探している。

「……そうだ、山姥切ちゃんが望むなら戦とか出なくていいからね?」
「何を仰っているのですか」
「いいじゃん、減るものじゃないし」
「減りますね。貴方の給料が」
「ぐわあああ!」

 刀剣女士を顕現させ、遡行軍と戦わせることが審神者の使命というかお仕事だった。女の子を戦わせるのかあ…と罪悪感で胸がつまる。人道的にいいのかこれ、と揉める私とこんのすけを眺めていた当の彼女が口を開いた。

「…私は大丈夫だから。戦に出るんだろう?…私を使えばいい」

 山姥切ちゃんの言葉に固まった。この言葉に甘えて戦に出してしまっていいのだろうか?いまだうずまく根本的な疑問のせいで何も言えなかった。そんな私の様子を見た彼女は再びぽそりと「ほ、本当に大丈夫だから」と声を出す。

「……ッ無理しちゃだめだからね。ケガしたらすぐ帰ってきてね絶対!!!」

 なんて最低なやつだ、と自己嫌悪しながら彼女の言葉にすがることにした。もとよりそうするしか選択肢はない。…いくら戦わせなきゃいけないのか?と言葉にしても、聞く耳をもたないやつらしかいないのだ。
 幸い就任前に「使役するもの」は完全に破壊された場合以外は修復できると聞いていた。

「あ、あぁ…」
「お願いね…」

 目を丸くしながら頷く彼女にそうやってお願いすることしかできないなんて。歯がゆいし、やっぱり後ろめたい気持ちにさいなまれている。

「軽傷程度で帰られたら困りますけどね」
「こんのすけ黙っててお願い」

 この野郎…と水を差すこんのすけに目を向けて、彼女に再び向き直った際、精悍な顔つきになっていた彼女に思わず胸が高鳴る。

「山姥切ちゃん…?」
「戦支度はできている。いつでも出陣できる」
「う、うん…。…あっ!仲間も連れてこうよ!資源で仲間も作れるって…」

 ナイスアイデアとばかりに刀を鍛えるであろう、支給されている資源に飛びつこうものなら、こんのすけに突進され阻まれた。

「地味に痛い!な、なんなの!?」
「此度の出陣は彼女一人でも勝てます」
「…ええ…?ほんとに…?」
「彼女の誇りを守るため、ここは一人で」

 なんか怪しいな…。さっきまで毒舌だったヤツが必死に止めようとするなんて…。敵の分析で冷静になった私はとりあえずこんのすけを片手で捕まえた。

「な、なにをなさる!?」
「山姥切ちゃん~。ちょっと出陣は待機しよっか。仲間を作れないか調べるね」
「い、いいのか?」
「審神者殿!!それはいけません!!」
「うるさい!山姥切ちゃんにケガさせられないって言ってるでしょうが!!」

 喚くこんのすけを捕らえたまま屋敷を歩くことにする。山姥切ちゃんは私の後を心配そうについてくる。さながらひな鳥のようでかわいい。屋敷を歩くことで手入れするような部屋が二つ、鍛刀場、お祈りするような場所などにたどり着く。

「鍛刀場でとりあえず鍛刀しよっか」
「審神者殿!!流れを無視するんじゃありません!」
「仲間を作るのを阻止する流れって何なの…」