刀剣女学院

鶴丸さんに連れてこられた場所は学校の奥にある温室だった。近づいてはいけないよ、と囁かれたことのある所だが、いいのだろうか。一応聞いてはみたが、「君はそういう事を気にするやつか?」と歩みを進めながら笑われただけだった。鶴丸さんの真っ白な手を振り解く理由もなかったので、なされるままに、温室の扉を開け進んでいく鶴丸さんの後ろ姿を見つめていた。
手入れを怠ったら枯れてしまいそうな繊細そうな花々が植えられた鉢植えが置かれている中、白いテーブル、それを囲むように配置された4つのチェア、…そこに座った異彩を放っている人物に自然と目が惹かれた。

「鶴、…その子が紹介したいと言っていた子か?」

三日月様、一期様、女子生徒達にそう呼ばれている人が目の前にいる。大体遠巻きで見ることしかなかったうちの有名人。
黒髪の美人さんの方が三日月様で、青い髪の美人さんの方が一期様。
何故見るからに彼女達がお菓子とお茶を嗜んでいる所へ、鶴丸さんは私を連れてきたのだろうか…。
鶴丸さんは一期先輩の隣に座ると、「ナマエは三日月の隣に座るといい」と言ってくる。呼び捨てなぐらい仲がいいんだな…と思いながら、とりあえず言われたから、失礼しますと恐る恐る三日月先輩の隣に座ってみた。

「なに、緊張しなくてもいい」
「はあ」

微笑みかけてくれる三日月先輩に曖昧な返事をすると、机にあったティーポットからお茶を注いでくれた一期先輩にお礼を言う。
いい香りのする紅茶に手を伸ばして、ふうふう息を吹いた後少しばかり飲んでみる。…高級な味がする、というチープな感想が浮かんだ。

「…あの、鶴丸さん、どうして私をここに」
「話していなかったんですか?」
「あぁ、その方が驚きがあるかと思ったんだが…、案外驚いてないみたいだな」
「…いや、結構ビックリしてるよ?」
「顔に出ないタイプか」

ちぇーと口を尖らせながら、足を揺らす鶴丸さん。テーブルのスコーンを一つ、つまんで口に入れた。

「…君をここに呼んだのは、他でもない。このお茶会に参加して欲しかったからだ」
「お茶会」
「あぁ、俺たちは不定期にこの温室に集まっていてな、茶や菓子をつまんだりしているのだ」

財閥令嬢二人と、大企業のご息女、…見るからにロイヤルな方々の会合であろうに、私も参加していいのだろうか。
「そうなんですね」と口にしながらも、うーんと唸りたい気分。

「…もう一回いい?そのお茶会に、なんで私?」
「ナマエはなんでだと思う?」

逆に問いかけられる。鶴丸さん、こういう切り返し結構好きだよね…。切実に、今はやらないで欲しかったと思いながら、思案する。

「えー…なんでだろ…。…想像つかないんだけど」
「がんばれ~ナマエ~」

何この状況。上級生のお二人が見守る中でうんうん悩んでいる私…。
そんな中、三日月先輩が「鶴が認めた友人だからではないか?」と一期先輩に話しかけた。それを聞いた一期先輩と私は鶴丸さんの方へ顔を向けた。
…鶴丸さんは見るからに深刻そうに片手で顔を覆っている。

「え、まさかそれ?」

しばしの沈黙の後、「…そうだよ、悪いか」とむくれた返事。

「…えーっと、…なんだか、照れるね!愛されてるんだね私」
「…まあ、ちゃんと真正面から接してくれてるの、お前だけだしな」
「え?そうなの?」
「そうなの!…ま、それ以外もあるけど、今はいいや」
「なにそれ凄い気になる事言ったな…」

それ以外ってなにさ、と問い詰めても鶴丸さんは何だろな~とはぐらかすばかり。仕方ないと息をつくと、上品に笑う声が耳を通っていく。

「仲がいいのだな、鶴と…ナマエ、だったか?」
「はい」
「おう、そりゃあな」

三日月先輩に揃って返事をする私達。
鶴丸さんと知り合ったのは入学式だった。高校からこの学校に入った私。同じように途中から入学したのかな?と思って、物静かそうな鶴丸さんに声をかけたのがきっかけ。今の彼女はあの時の見る影もない感じだが、教室ではおとなしそうな感じに戻ってしまう。曰く、猫かぶっているのだそう。