初戦結果

戦果は上々。戦う事を我慢していた憂さ晴らしのおかげでもある。敵の審神者が呼び出した付喪神と初めて対峙したが、俺達の敵ではない。
戦闘中は皆好きなように戦った。中でも小夜がかなり不穏な言葉を戦中に吐いていた。…色々と苦労したのだろう。帰ったら主と過ごす時間を譲ってもいいな、と思った。
そして、相変わらず大和守安定は戦闘中は性格が変わっていた。安定の安定である。あの人の時からあんな感じで煩かった。

戦に出る前、俺と安定だけこっそり主に呼び止められた。説明されていた戦う時代の事についてだろう、と安定と目配せしていた。移動する時代は幕末。俺達が刀として振るわれていた時だった。

「…無理はしないでね」

暫く黙った後、それだけ、言葉をかけてくれた。主は眉をひそめて、視線を落としていた。俺は「大丈夫だよ」と返事が出来たが、安定は頷いただけだったのが印象的だった。

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「いやあ、初戦闘で敵大将も倒してきたし、主、何かくれそうですよね!」
「ご褒美…ってこと?もらえるのかな…。うわあ…なんか、ワクワクしてきた」
「でしょう!?」

足元に転がった付喪神の残骸を目にしながら、鯰尾が嬉しそうに声をあげる。確かに帰ったら、優しい主のことだ、何かしてくれるかもしれない。主からさらに愛されてしまう…!?胸の音が高鳴るのを感じる。主に気に入られる事を考えるとこうなるんだ、って最近分かってきた。

「小夜も主が何かくれるってなったら、お願いでも考えとけば?お前のことなら喜んで ナマエ様、聞いてくれそうじゃん」
「…別に、僕は…」

殺気にまみれていた小夜のことがさっきから気になっていたから、小夜に話を振ってみた。先程よりかは落ち着いてきたようで、ぎらぎらしていた目は、いつものほの暗い目に戻っていた。息を整えながら首を振られた。

「殊勝だねえ…。お前は?」
「え…?僕かい?」

ぼうっとむこうを見つめていた大和守安定は目を丸く開いた。何か別の事でも考えていたのだろう。

「僕が、何?」
「もしも帰って主から何かもらえるってなったらどうするかってこと!本当話聞いてないのな」
「あぁそう。……別になにも思い浮かばないけど」
「そ」

そう言った大和守安定は無表情だった。この時代のこの場所で何を考えていたのか。手に取るように分かってしまう。それが無性に居心地を悪くさせた。

「さ、帰るか」
「あれ?すまほで報告しないんですか?」

鯰尾が胸の辺りを見つめる。懐には主から預かった通信機器?が入っている。主の声が耳元で聞こえるのが、結構ヤバイ。俺を案じてくれる声、それだけで今回誉を毎回取れた気がする。部隊長万歳。

「え~、これ以上ここに留まるより、さっさと帰って主の顔が見たいし」
「主に随一報告するようにって…」

小夜が眉だけ下げる。あまり表情は変わっていない。

「帰りは生で喜んでる顔が見たいじゃん」
「さぷらいずってやつですね。分かります」
「まぁそんな感じ。じゃ、帰るぞ。おい、安定」

またぼうっとし出した大和守安定の裾をひっぱる。出現させた時空の渦の中へ入った。
…あの人にまだ未練があるとか。俺達は愛されてなんぼじゃないのか。

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すでに門からでも漂ってくる料理の匂いに、俺達がんばったんだなあという実感が湧くし、愛されている感じがした。なんだか照れくさい。主はいつもの笑顔で「いってらっしゃい」くらいしか言ってくれなかったけど、なんだかんだで俺達を案じてくれているのだ、きっと。

「今日の夕餉はなんでしょうね!」
「おいコラ!俺が一番に報告すんの…って」

帰還していの一番に鯰尾が駆け出した。俺が隊長なのだから、俺が主に一番に報告するべきだと思っていた。慌てて鯰尾の襟首を掴んだところ、玄関が突然開いた。
主が息を切らして玄関に立っていた。それを見るに、ここまで走ってきてくれたのだろうか。焦ったような表情はすぐに仕舞われ、顔の表情が緩んだ。俺達を心配してくれていたのだ。
主は草履を慌てて履くと、俺達の所まで走ってくる――が、途中で躓き、盛大に倒れこんだ。

「あ、主!?ちょ、大丈夫!?」
「わあ、主様すごいコケっぷりですね!」

慌てて皆が主の元へ駆け寄り、しゃがみこむ。主はぷるぷる震えながら、顔をあげた。

「…よかったあ、みんな、…帰ってきてくれたんだね」

主は泣いていた。鼻血をたらしながら、顔を赤くさせて泣いていた。そんなに痛かったのか。まだ人の感情に疎かった俺達はそう思い込むことにした。
だって、俺達が帰ってきたことを喜んで泣いてくれてるのかって自惚れた事考えてしまったら、主がケガをして痛そうなのに、嬉しくなって、笑ってしまいそうで。

「ちょ、鼻血!」
「あーこれくらい、大丈夫。それより、みんなはケガはない?」
「みんな無傷だよ」
「そうかあ、良かった!あ、料理丁度出来上がったからさ」
「主鼻血流しながら話続けないで!」

女の子なんだから!…俺の叫びが届いたのは、一人一人にねぎらいの言葉をかけた後だった。
…風呂も沸かしてくれていたみたいだったので、主がてぃっしゅで鼻に栓をしたのを確認してから入った。広い風呂だったから四人まとめて入ってね、と言われた。

「これからもっと楽しい毎日になりそうですね!」
「これから、ねえ。そうかもしれないね」

鯰尾だけやたら楽しそうだった。湯船につかっている安定はそれに時折相槌をうつ。俺も相槌を適当にしながら、二人のやり取りを眺めていた。

「畑耕して、主様とお茶してー戦して、褒めてもらって!」
「それを繰り返すんだろうね。うん、楽しそう」

安定は穏やかに言葉を発する。どことなく上の空のように見える。

「ですよね!…っていうか安定さんてなんで戦ではああなんですか?」
「え?気持ちを切り替える為だけど。だめ?」
「駄目ではないですけど、びっくりしちゃいましたよ」
「はたから見ると大人しそうだから、最初は誰だってそう思うよな」

横から口を挟んだ。鯰尾は俺の方を向くと言葉に首をかしげた。

「お二人って元から知り合いなんですか?」
「一応」
「へえ~いいなあ!俺も確か兄弟がいっぱいいたんですよ。…骨喰とか、いち兄とか。会いたいなあ。知り合いがいるって、心強い気がしません?」
「いや、別に」
「特に、ねえ?」

仲がいいなら、そうなんだろうが、生憎俺達はそういうものではない。喧嘩してばっかだし。あの頃を思い出していると、扉を開ける音に我に返る。
黙々と体と髪を洗っていた小夜が「風呂、あがるね」と出て行った。

「…俺達もあがりますか」
「うん、そうだね」

鯰尾の言葉に、腰をあげた。安定はやっぱりぼんやりしていた。

**

「興奮してありがとうって言い忘れてた。本当にありがとうね」

なんだか美味しそうな食事が広がっている。丸く肉を焼いたやつとか(ハンバーグ)どろどろになってるやつとか(シチュー)畑で育てた野菜が綺麗に盛り付け てある。焼き魚まで。…肉や魚はどこで調達しているのだろう。そういう疑問が浮かんだが、主の言葉で消し飛んでしまった。
主はふにゃふにゃといつもの笑みを浮かべている。だが、次に言葉を発する時、彼女はいつもの笑い方でない笑い方をした。

「加州君、鯰尾君、小夜君、安定君。いてくれて、ありがとう…ね!」

泣きそうだった。幸せそうだった。時間が止まったように感じる。与えられた体が妙に高鳴る。俺、ここにいてよかった、とぽつりと思った。このひとにもっとそういう風に笑って欲しいと思った。

「えーと、そうだ、早速乾杯でもします?」

みんな、手にお茶もってーという声に慌ててコップを持った。

「…今日の初戦の勝利を祝って、乾杯!」

小気味いい音が部屋に広がった。