前向きにいこう

 理と一緒の夕食時に、丁度ラウンジにいたゆかりちゃんと順平君にお守りを渡した。

「私達兄弟からです。これからも命大事に頑張ろう!ってことで長鳴神社からお守りを買ってきました」

 あんがとなの言葉とともに、順平君は「心願成就…かっけーな」と言っていた。同感である。…なんだかいつも通りそうで安心した。ゆかりちゃんも「ありがと!なんか、こういうお揃いのお守りがあると気合い入るよね」と言ってくれた。早速部屋に戻ったら弓を収納するケースにつけるね、との言葉にこちらがありがとうと言いたくなる。

 それきり、会話が止まってしまった。
 みんな、やっぱり昨日の事を気にしている。気まずい雰囲気だ。
 順平君と話をするっていっても、今の状況だと難しい……。それに、何を言えばいいんだろう、うまく何か言える気がしない…。まあなんとかなるだろう、と楽観視していた頭がくらくらしそう。
 あまりに無策である、私って何なの……。焦りだす私、そんな私をぼーっと見つめる理。こ、この弟は…、と理不尽な怒りが湧いてくる。いかん、落ち着け。
 順平君と理(+まとめ役:私)が昨日の気持ちをぶつけあって、和解!とぼんやり考えていたけど、こうしてゆかりちゃんを目にすると、一緒に戦う仲間である彼女にも話を見届けてほしい、と思った。でも順平君が傷つくような深刻な話にしたくない…。できれば前向きに話し合いたい…。こうしたら良かったよね!みたいに。……誰が悪いとかじゃなくて。その時した事はやり直せないから、次に何かあったときはもっとこうしたい、と振り返るみたいな…。

「あのさ、……みんなで改善点を挙げていこう!?」
「は?」
「え?」
「アッ……、ごめんね、突然…。あのですね…」

 思い付きで、昨日の改善点を振り返ろうと提案をする。

「戦う前の心構え、とか、戦いの中でここをこうしたら良かった、って前向きな話をしたいなあって思って。……戦いって、やり直しがきかないじゃない?これからも外に出てくるシャドウがいるかもしれない。タルタロスの中だって危険だし。それでも、……誰も酷い怪我をしないで、敵を倒さなくちゃいけない。だから、戦いの中で、今できるかぎりの最善を尽くしたいよね。なので、その為の意見交換をしたいです……」
「なんで最後敬語なんだよ」
「そうだよね…。なんか、緊張しちゃって…あはは…」

 周りが静かな中、一通りしゃべるのって凄い緊張する。

「でも、そうだね。ん、やろっか意見交換」

 二人とも固い表情にさせてしまったが、頷いてくれた。理もこくりと頷く。良かったと、その時点で息をついてしまう。命がかかった戦いだと、みんな自覚できているからこそ、応じてくれたのだろう。

 昨日の戦いを振り返り、場面場面でこうしたらよかった、を伝えあう。ゆかりちゃんは、モノレールに閉じ込められた時を振り返って、「ピンチの時こそ冷静に…って絶対難しいけど、心がけたいよね」順平君は「みんなを頼って進んだ方が良かった」と振り返る。「そうだよね、協力しあうのは大事だよ。みんな仲間なんだから」と付け足しておく。
 次は理にどうしたらよかったかの意見を聞いた。

「……特になし」
「理も考えてよ。私は……、そうだな。最初から全力で戦うんじゃないくて、気力を最低限温存しておきたいよね。敵がどれくらいいるか分からない時とか、特に」

 モノレール内では、タルタロスで出てくるようなシャドウも進路を塞いできた。そしての、最後の大型シャドウである。ペルソナが喚べるように気力を十分保持しながら大型シャドウ戦に進みたい。
 案を出しあい、白熱する議論。全て出し尽くした時、私は手応えを感じて震えた。

「完璧じゃん…。次、もしも何かあった時、絶対頑張れるやつだよ!これ!」
「大げさじゃない?ま、でもなんだか自信ついてきたよ。ありがとね、ナマエ」
「ゆかりちゃんも付き合ってくれてありがと!順平君もありがとね!」

 順平君にも笑みを向けると、彼は「あぁ…」と頷くも、帽子を深く被り直す。…話し合い、よくなかった、かな。どうしよう。
 慌てて、理に向き直り、びしっと指をさす。

「理はもうちょっと考えてくるように」
「ん、…考えとく」

 理とやりとりしている間も順平君が気になり、彼をチラチラと盗み見てしまう。

「昨日は、悪かった」
「へ?」

 突如帽子を脱ぎ、頭を下げた順平君。いきなりのことで、ゆかりちゃん共々驚いてしまった。

「正直、理に嫉妬してた。羨ましかったんだよな。複数ペルソナ使えて、やる気ねえのにリーダーで…俺のがもっとやれるのにって思ってた」

 真剣な告白を遮ることは出来ない。私たちに出来ることは、黙って順平君の思いを聞くのみ。

「ムシャクシャして、「理に頼らず、一人でやれる」って突っ走ったのに、あの理が、理なりに俺を頼ってくれたり、モノレール止めるのにも、すげえ頑張ったじゃん?…リーダーとか、才能があるとか、そん時、全部吹き飛んだ気がした。俺も俺の力で全力を尽くすしかないんだなって、思った…」

 聞いてて、私が泣きそうになってきた。順平君と仲良くしてたのに、気付けなくてごめん、とか。一人でずっと考えてたんだろうな、自分なりにけりをつけてくれたんだと思ったら。涙が…。

「そっか…。そだね、私も、私なりに…ってナマエ泣いてる!?」
「や、やめて、私を見ないでえ…ずび…」
「これ、そんな泣くとこか!?しかも、俺じゃなくてナマエて…」
「ずず…そこに触れないでえ…」

 理が無言でティッシュを差し出す。ティッシュを2枚取り出すと顔に当て、鼻を思い切りかんだ。

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 やっとおさまった頃には、いつも通りのみんなに戻っていた。他愛のない話をしていて、思わず笑みを浮かべ…。

「結城君は、勉強してた?」
「まあ、それなりに」
「マジかよ!?裏切り者!」
「裏切ってない」

 机に突っ伏した。

「そうかあ、もう来週から中間試験…」

 落ち込み出した私に順平君が同情の目を向ける。いや、勉強はしてたよ。してた。してたけど…、こんな大騒動があった後に、大丈夫かなあと不安。素直にそう言えば「あれ?俺の思ってたのと違う」と今度は順平君が机に突っ伏した。「そうだよな、困った体でも、絶対みんな勉強してるもんな…」と深刻な声色に、恐る恐る「まさか、テスト勉強してない…?」と尋ねれば、顔をあげないまま順平君は、親指を上に突き上げていた。

「マジ!?今まで勉強してないとか…あんた…」
「でもまだ一週間あるし、なんとかなる…かも?」
 私の希望的観測に、順平君が乗ってきた。
「テストのヤマを…教えてくれ…」
「は?知らないって。てか、知ってても教えたくないってば」

 相変わらずゆかりちゃんは順平君に手厳しい。いつも通り。平和って、いいなあ。我慢できず、笑ってしまうと、「笑い事じゃねえー!」と泣きそうな順平君の叫びが寮内をこだましたのだった。