加州の幸せを願う

短刀達は部屋の中で遊んでいるようだし、第一部隊、第二部隊が出払って、本丸は比較的静かだった。まさに絶好の仕事日和、さあ仕事やるぞ!と机に向かお うとした所、自室を訪ねてきた大和守安定に呼び出された。果し合いか?と身構える程に彼は真剣な表情だった。「ちょっと話があるんだけど」と言われ、私は お茶菓子を取り出した。今日の私のおやつにする筈だった団子。屈している審神者であった。「まあ座っていなよ」と言いながら、安定がいいと言っているのに 二人分お茶を用意した。団子を安定に差し出す。
安定は不服そうな顔で団子を手に持ちながら、忠告をしてくれた。私は加州を甘やかしすぎているらしい。
度々「あいつを甘やかしすぎないでよ」と他の刀剣男士達との立ち話の途中で忠告らしきものを受ける事はあった。だが、こうして改まった場所、二人きりで本気の忠告を受けると言葉の重みが違う。どうやら本気で私を説得したいみたいだ。
他の刀剣男士との対応を比べたら、あれは酷いよと言うではないか。とりあえず「あれ」とやらを思い返してみる。昨日は加州と和泉守と山姥切とで一緒にゲー ムをした。それから乱を加えて三人でネイルを塗りあいっこした。おしゃべりしながら仕事を一緒にこなした。いつものように短刀達を加えておやつを一緒に食 べた。第一部隊の出陣がない日だったから夜まで一緒にいた。寝るときはさすがに部屋に戻っていく加州、いい子。
…まあ、結構な時間を加州と過ごしているような気はしないでもない。それらを踏まえて、近侍にしてるし、多少は贔屓してるかもね、と言えば、多少?と苦い顔で首を傾げられた。私も首を傾げた。
「もしかして安定さん、嫉妬してらっしゃる?」と聞いてみれば、僕は別に嫉妬してない、と言われた。でも、そのせいで不機嫌にもみえる。
むっとした表情で団子をぱくりと食べた安定。なんとなく桜吹雪が背後に見えた。審神者しか見えないものだ。どうやら団子はお気に召してくれたようだ。おもわず笑みを洩らすと、怪訝そうに目を細められたので、「失礼」と口を掌で覆った。
「…とにかく、あいつは甘やかすとつけあがるタイプだから」
「そうなの?やっぱり仲がいいだけあって、色々知ってる感じね」
「腐れ縁なだけだよ」
安定が指摘するのは、毎日のように加州が「俺、かわいい?」と聞いてくるのに「加州は世界一可愛いよ。自慢の近侍だよ」と私も毎日のように返している点、それとやはり長時間加州とべったり過ごしているのはいかがなものか、という点についてだった。
ずっと続けさせられるよ、それ。安定は団子を食べながら、どこか遠くを見つめている。
「一緒に居るのは、好きで一緒にいるだけだから大丈夫」
「だからって、何もない時はずっと君の部屋に居るだろ」
「まあね。でも他の子も私の部屋に自由に入れるようにしているからさ。加州は私だけにべったり、という訳じゃないんだよ」
思い返した内容を安定に伝える。四人対戦ゲーム大会では、自分から自爆する事の多い加州と、顕現してまだ間もない和泉守が頭を抱えていたり、意外とじっく り攻めていくタイプでセンスのある山姥切を倒そうと二人で結託していた。(漁夫の利で私が勝った)その時ばかりは山姥切はいろんな表情を顔に出していて、 見ててニヤニヤする。(気付かれると「やめろ」といいながら布をぐいっとおろして顔を隠される)ゲームが終わったら二人とも山姥切に気軽に話しかけていた。これを機に加州は和泉守とも再び仲良くなってくれればいいし、人と関わるのに億劫な山姥切も和泉守との接点ができて気軽に話すようになれば良い。
ネイルタイムでは、乱がよく訪ねてくる。太郎姐さんも出陣さえなければ顔を出す。私がマニキュアを取り寄せて、UVライトをあてる道具も用意したおかげで、ネイルに本格的に目覚め出している私達。軽くお茶をしながら一方が誰かの爪をデコってあげるのだ。安定に手のひらを差し出す。指先はかわいく飾られていた。家事もするので、パーツはのせられないけど、それでもみんなでアイデアを出し、工夫しながらネイルサロンを楽しんでいる。
意外にも小さい子には世話焼きな加州は、短刀達の相手がうまい。(沖田総司の影響かもしれないが)薬研や厚の代わりにお兄ちゃん的な存在になっている。(薬研や厚はおやつはいいと言ってその間は自由に過ごしているみたいだ。でも、なんとなくおやつを食べたそうな厚にはこっそりおやつを与えている)昨日のおやつはドーナツだった。ドーナツを美味しそうに頬張る今剣に、「ちゃんと身だしなみには気をつけろよ」と食べ終わった後口の周りを拭いてあげていた。虎にドーナツを取られ(たまにこういうことがある)泣きそうになった五虎退に自分のドーナツをあげていたり、おやつの後は短刀と一緒に外に遊びにいっていた。加州さん、加州、と慕われているんだな、これが。
その後も障子を開けたまま仕事をしていると、歌仙が部屋の前の縁側に座ってきたり、時々話しかけてきたりする。蜂須賀も偉そうに部屋にやってきては、話し相手を求めてくる。加州はそれに対して面倒そうにしながらもちゃんと対応してくれる。ほんと、いい子。
親馬鹿のように全て語れば「分かったから…それは分かったから」と安定がげんなりしていた。
「私以外の誰かとだって交流してるってお話だよ。大事だよ?これ」
「…そうだろうね」
「まだ何か、加州のことで気がかりでもあるの?」
黙りこんだ安定。かつての加州を思い出しているのだろうか。私は安定が何か喋り出すのをじっくり待ちながら、やはり思い返さずにはいられなかった。最初の刀剣を選んだ日の事、誰でもいいから愛してほしかったあの子のこと。こちらが悲痛な気持ちになるほど、彼は私を慕った。可愛がって、と懇願していた。
「あいつは…この先も、ずっと満たされそうにない気がしてた。でも、…変われるの?僕達、刀剣でも」
「うん、変われるよ。…加州に可愛い?って聞かれてた度に私が言ってたこと、知ってる?」
首を振る安定。彼はこの本丸に顕現してまだ日が浅い。ようやく仕事内容を覚えて、戦での手ごたえを感じ始めた頃だった。
加州は当初から、変わってきている。俺、やっぱり可愛いでしょ、と言い方を変えてみたり、ケガをしてもすぐに手当てしてほしいと言ってくる。彼は自分に自信をつけた。だから、変わろうとする努力できるようになったのだ。
「君の全部をひっくるめて愛しく感じるよ、ってね。…勿論安定のことも大好きだからね!」
「君、そんなこと言ってたの…?知らなかった…」
「ふふん」
「恥ずかしいやつなんだね、君って…」
「自覚はある」
白い目をされた。…ま、まぁ、とにかく!君の知っていた加州が知らぬ間に成長してるのは結構ショックだろう。だけど、また一緒に仲良くやっていこうよ。私の部屋にも改まった話をしにくるだけじゃなくて、気軽に遊びに来るんだよ。そう言って、よしよし、と頭を撫でてあげると、部屋に桜吹雪が舞った。畳におちては消えていく花びら。安定は黙って頷いていた。

あ、帰ってきたと呟いていた。第一部隊が帰還したようだ。その隊長である加州も帰ってきたことになる。加州はすぐ、私の執務室に走ってくる。今日も、また。庭をまわってきた加州は、縁側に乗りあがる。
「主~~!!今帰ったよ!!って浮気!?よりにもよってそいつと!?」
開けっ放しの部屋を見て、非難めいた声をあげた。少し汚れた格好だが、私に一番に顔を見せてくれる加州、いい子。
「加州おかえり。ああ、安定とお話してたんだよ。それより、みんな無傷かな?」
「うん、そりゃ勿論!…で、何話したの?」
「安定がね、加州を案じ」
「んな訳ないから!!…僕、もう戻るね。…秘密にしてよ!」
「分かった分かった」
加州を一瞥することなく、どすどすと部屋に戻っていった安定。それを見送った私は縁側に座った加州の横に腰を下ろした。
「なんだか分かったような、分からないような…。でもまあ秘密なら仕方ない、か」
加州がふう、と息をつきながら言葉をもらした。
「自分の知らない秘密ってだけで泣きそうになる程不安になってた加州が、こんなにも成長しちゃって…」
「最初の頃の話はやめてくんない?…まさか、そういう話、してた?」
「……あー…」
嘘はつけない性質なので、言葉を濁しておいた。それを見た加州は信じられない!といったように怒る。本気では怒っていないだろうけど。
「してたのかよ…!ひどい!主!俺との淡い思い出を話すとかぁ!」
「悪かった」
この通りよ、と頭を下げると、「別にいいけどさ…」とむくれた顔で私を横目で睨む。
「じゃあ、『君の全部をひっくるめて愛しく感じるよ』エピソードも言った?」
ちゃんと覚えられていた。ちょっと恥ずかしさを感じつつも、嬉しい。だが、その結構恥ずかしいエピソードも、はい…。
「…お、おう」
「信じらんない!」
「ごめんよぉ加州。ついな、加州が立派になっちゃったから色々自慢してしまって…。ほら、あれだよ、親馬鹿だよねえ、私ってば、……ごめんね、加州!」
目を瞑って手を合わせれば、ため息をつかれた。恐る恐る目を開けてみれば、呆れたような顔をした加州が私と向き合って、じっと顔を見つめていた。
「主って、俺の親のつもりだよね」
「ああ…ごめん、親は嫌か」
「うん、やだ」
「せめて友達だよね」
さすがに同じ年ぐらいの女に親と言われるのは怖いか。じゃあ友達、悪友とかでいいか、と言葉を直すと、加州は真剣な顔で口を開いた。
「…あの言葉に俺がどれだけ救われたか、俺がどれだけ本気にしていたか、胸に手をあてて考えてみてください」
「…うん?」
「風呂入ってきまーす。あがったら返事、聞かせてね」
「え、ええ!?」
縁側を降り、颯爽と去っていった加州の後姿にうろたえても、彼はこちらを振り向かなかった。