何故亡くなってしまったのか理解が追い付かないままだったらもっと有里くんのことで泣けたのかな。煙を見つめる私は、そこにいるんだよね、と空の上の有里君に呼びかける。彼はみんなを見守っている。傍にいるのなら生きていける。地に倒れて泣いたままだったら、安心してくれなさそうだと思った。ここにいるみんなもそう思っているんだろうなあ。
春が近づき、何も思い出さずのうのうと生きていた頃のお話。有里君はその時もずっと戦っていた。自分自身の残り滓をぽたぽた落としていきながら、懸命に。わたしはそれに寸前まで気づかなかった。
終業式が近づくにつれ、思い切って告白しなければならないような気持ちに襲われていた。今思えば記憶の奥の自分が内側からここから出せ、手遅れになる、と叫んでいたからかもしれない。焦燥感にかられて告白した返事は「ごめんね」だった。あ、あれ?と違和感に首を担げる。ここで私はやっと思い出す。
「僕は君とずっと一緒にいられないから」
申し訳なさそうな笑顔に重い言葉をかけられた時、脳がフラッシュバックのように、ほんのり赤くなった彼の笑顔、大きな月に一人向かう彼、彼に届かない手を映し出す。
…わたしたちは一度結ばれていた。世界を救うんだと淡い希望を持って進んでいた。一緒に戦ってきたからこそ、前向きな気持ちでわたしたちは恋人になれた。思い出したわたしは泣いた。その一言で、世界を救ってハッピーエンド、ではないのに気づいてしまったから。改めて彼を見れば、今にも消えてしまいそうに頬は白かった。重石でも抱えているかのように苦しそうだ。強く抱いたら砂のようにさらさらと解けてしまいそう。
「有里くん、……」
死んじゃうの、と声に出そうとするも、のどが震えて言葉にできない。
「ごめん」
本当に――…そうなんだ。彼の背に届かなかった手を握りしめる。一緒にいきたかった。…一緒にいたい。
「私もついていく」
「…それは駄目だ」
有里君は優しく私の言葉を拒絶した。でも、有里君がいないのに生きていけるのだろうか?想像ができない。
「ごめんね。でも、君は生きて」
勝手だよ、有里君。私の気持ちなんて無視するんだ。
「僕はね、もう十分、幸せなんだよナマエ。ありがとう、…大切なんだ、だから君はこっちに来たらいけない」
冷たい手が遠慮がちに私の頬を包み込んだ。私も彼の手が壊れないようにそっと上に自分の手を重ねた。彼の感触を確かめるように。焼き付けるように。
「ナマエが思い出してくれてよかった。アイギスはずっと覚えてるみたいだけど、あの調子だから…話せる人がいなくて、寂しかったんだ」
思い出話をしてもいい?と有里君が言うから、「いいよ」と頷くしかなかった。普段は口数少なく大体私がしゃべっていたのに、この時ばかりは彼は楽しそうにしゃべりだし、私は聞き役に徹することになる。
今までずっと自分も人生もどうでもいいと思っていた、と始まるお話。転入初日、気だるげに自己紹介していた彼を覚えている。順平君が気にかけていたけれど、あまり友達を作る感じでない彼を見て、大丈夫かなあとおもわず心配になった事を思い出す。もう、その頃から有里君は影時間で戦っていたのだ。そんな事を知らない私は、有里君とお弁当を一緒に食べるようになっていた。二人とも屋上で食べていたのがきっかけ。転入の印象もあり、遠くのベンチに座るイヤホンつけた彼の事が気になって勇気をふり絞り話しかけた。有里君は淡々と言葉を返してくれた。彼からは物好きで変な子だと思われていたみたいだが、ぽつぽつ話すようになり、仲良くなるにつれて、お昼を心待ちにしてくれていたみたい。
私も適正があって、S.E.E.Sに加わるようになった。みんなと戦えて楽しかったよね。荒垣先輩に怒られそうな事だね。お互いに笑いあった。…駆け抜けた日々が終わってしまった今では、彼は今の私たちにどんな言葉を返すだろうか。それでもやっぱり怒るんだろうな、と彼がつぶやく。…無骨な彼を慕ってもっとひっつきまわりたかった。手料理、彼と過ごした日々も忘れられない。
彼の死を皮切りに、寒くなるにつれ辛いことが増えていった。ニュクス、すべての生命の死の宣告。笑いあう余裕もなく、終わりの恐怖に皆がおびえていた。…いつからか私が彼に告白して付き合うようになっていたけれど、厳しい現実が近づくにつれ、お互いを愛し合うことより自分のことに必死になっていた。
それでも、傍にいてくれてありがとう。あまり笑いあう余裕もなかったけれど、とても救われたんだ。彼の穏やかな言葉。それらを繋ぎとめようと必死に頷いた。
「君がいてくれて、よかった」
なんて一点の曇りのない、悔いのない言葉なんだろう。怖くないの?死んじゃうんだよ!?いつしか、口について出したい言葉を押しとどめるのに必死だった。足掻いても変わらないであろう結末。だったら最後は穏やかに、彼が好きな私のままでいたい。
「僕は今、とても幸せなんだなあ」
噛み締めるように穏やかに頷いた有里君。涙はとまらなかった。