容赦ない斬撃をタルタリヤに浴びせるナマエ。タルタリヤが「ぐッ…」と呻きながら距離を取る。
いつもとは違う、本気の戦いを遠巻きで見守るパイモンは「鍾離ぃ…助けてくれえ…」と泣き言をもらしていた。
瞬時に距離を詰め、ナマエは恍惚とした表情でタルタリヤへ向かって剣を斬り上げようとする。今度はそうはいかない、と双剣で攻撃をいなしながらも、タルタリヤは歓喜に身を震わせた。相棒は俺を殺す気だ。
これも全て、呪い(まじない)のおかげ。
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「相棒、ちょっと耳貸して」
クレーが本部へ先に駆けて行ったのを見計らい、タルタリヤがナマエに顔を近づける。それに慌てふためくナマエ。
「うわっ!?な、なに!?」
「騎士団長へ、アビスの魔術師退治にファデュイの公子も貢献したって報告してくんない?」
え、と目を瞬かせるナマエ。露骨に嫌な顔をしなかったのを見て、押せばいけるか、とタルタリヤは目を細めていた。パイモンは「公子、ナマエに何を吹き込んでるんだ!!」と激怒する。
「たしかに手伝ってもらった、でもファデュイだし…」
ファデュイとしては、ここでモンドに恩を売って、スネージナヤの立場をを少しでも良くしておきたいところ。
いつもだったら即答で「ごめんね。今はファデュイ、じゃなくて旅の仲間だよね?」とさらっと断られるであろう「お願い」に悩んでいるのを見て、タルタリヤはほくそ笑む。ナマエの恋心をとことん利用しておかないと!
「…ううっ、今は旅の仲間だって思ってるから…。協力、できない。ごめんね」
「……そっか。あーあ、俺、結構頑張って退治に協力したのにな~、それこそ、命を懸けるくらい?」
ナマエがみるみる内に困った顔になるので、パイモンがナマエの前に飛び出し、言い聞かせる。
「公子の言う事を聞かない方がいいぞ!こいつ、絶対ナマエのこと利用してる!」
「心外だなあ」
心底悲しそうな表情をみせるタルタリヤ。ナマエは首を横に振る。
「パイモン…。タルタリヤはそんなことしないよ」
「なッ!?ナマエ…!?」
驚きの返答にパイモンが固まり、タルタリヤが面白そうに顔をほころばせた。
「確かに、戦闘狂だし、人をだますし、やることなすこと胡散臭いけど、…兄弟想いだし、私の事を利用するなんて…ってあれ?」
「大体けなしてるぞ…」
「相棒~、地味に傷ついたよ」
泣き真似をしたタルタリヤに、今度は狼狽えるナマエ。「ごめんね…?」と弱弱しくタルタリヤの様子を窺うのを見て、パイモンはため息をつきたくなった。普段のナマエだったらタルタリヤの思い通りにならないだけに、ナマエを魔の手からガッチリガードできるのか…。
だが、タルタリヤのお願いを全部受け入れることはないのだ。パイモンは鍾離の言いつけを思い出す。
「ナマエが公子の命令を素直に実行する可能性もある。…命令する者の魔力が高ければ高い程、無茶な要求にも応えやすいから気を付けてくれ」
だからこそ、アビスの魔術師がナマエにうまく魔法が使えていた場合、危なかった。そして、タルタリヤが法器使いではなくて良かった…。「お姉ちゃんたち早く早く!」とクレーが先で手を振っている。「今行くよ」と対子ども用の外面を見せるタルタリヤ。それに見惚れるナマエ…。パイモンは力なく空中を漂いながら、ナマエたちの背を追うのだった。
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そんなこんなで西風騎士団、団長のジンへの報告を済ませた一行。
一緒にいたクレーはヒルチャールを退治したことでジンにねぎらいの言葉と、ご褒美の休みを与えられ、浮かれ気味で出ていった。「クレー、ちょっと遊んでくるね!」と言い、たったたーと駆けていった彼女。ジンが「嫌な予感がする」と後を追いかけ、ジンの傍らに控えていたリサは憂いのため息をもらす。
「かわい子ちゃん、この後の展開、想像できるわよね」
「えぇ…まあ、クレーちゃんの遊びは…はい」
「うふふ、また反省室の準備をしなくっちゃ…」
悪い笑みを浮かべるリサに乾いた笑みをかえしながら、ナマエたちは騎士団本部を後にした。
「リサ、なんで笑ってたんだ…?」
「色々…お仕事大変で疲れてるんだと思うよ…。ほら襲撃もあったし」
「ふうん…?なるほどな!」
パイモンはちょっとよく分からないながらも、分かったように返事をしておく。
「さてこれからどうしよっかなあ…。そーだ、相棒。これから俺と戦ってくれない?」
ブーっと吹き出すパイモン。これからカフェでもいかない?というノリで死闘を求めるのはいつものことであった。ナマエの方を恐る恐る振り返ると、これまたカフェの誘いに頷くごとく「いいよ」と笑顔で返事するではないか。いつものナマエはそもそも戦うのに乗り気ではない。タルタリヤがしつこく追い縋るので週一回までなら…としぶしぶ了承しているくらいなのに。
「や、やめるんだナマエ〜ッ!またボロボロになるぞ!?」
「ううん、大丈夫」
ナマエを案ずるパイモン。それに、にこりと静かに微笑むナマエは、見たことのない表情だった。心がここにないような、夢見心地のように微睡んだ目。
呪いが効いてる!?全身の血の気が引くパイモン。上機嫌で歩き出すタルタリヤに並んでいってしまうナマエをおろおろと追うのだった。
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そして、モンドから離れた開けた場所で、彼らの戦闘は始まった。
「魔王武装は今週使ったからなしね」
笑みを浮かべるタルタリヤに、ナマエが剣を構える。二人とも地面を蹴った瞬間、お互いの剣がぶつかり合い火花が飛び散った。
「あはっ、速い!いいねえ!」
「速いだけじゃないでしょ?」
男と女、力の差があるにも関わらず、鍔迫り合いが続いている。それに気付いた頃にはタルタリヤは剣を弾かれ胴がガラ空きになった。
そこにナマエが回し蹴りを入れる。吹っ飛んだタルタリヤは地に打ち付けられる前に槍を地面に刺し、勢いを止める。
ナマエは追撃をしようと、体制を整えるタルタリヤへ向かい走っていた。
「なんだか調子がいいんだよね。貴方に喜んでもらえそう」
ナマエの鋭い剣撃。時々受け切れず傷を作るタルタリヤ。
頬を赤らめ、笑顔を見せる余裕すらあるナマエ。力の増幅も呪いの効果か、と分析しながらも、タルタリヤは己の心が燃えたぎるのを感じた。
離れた所で戦いを見守るパイモンは、いつもより戦いが激しいこと、タルタリヤが不得手な弓を使う余裕がないのか、双剣や槍での攻撃が多く、劣勢を強いられていることしか分からない。
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尚も続く戦いに泣きそうになっていた所、地面から水が弾け、思い切りのけぞった。水からとある見知った少女が現れる。
「やっと見つけたっ…」
「モナ?どうしてここに…」
「占星術であなたたちを探したんですよ…。っていうかどういう状況ですか、これ!?」
「オイラもどうしたらいいのか分かんないんだよお〜!!頼む!止めてくれ!」
「…話を聞いてもらわないとですし、あーもー!やってやりますよ!」