放浪者のゆめ⑥

※放浪者が好きなモブ女子が登場します
※前回イベントのネタバレあり

 教令院にいる放浪者にお昼ご飯を届けてあげて、とナヒーダから言われた。なんでも自分の研究室(なんだってー!?)に篭って、なにか食べているのか分からない模様。
 学生じゃなくても入っていいの?と問えば、「貴方の学生証よ」と学生証を渡された。え…と困惑しながらも、学生証を受け取ってしまった。確かに自分の名前が刻まれている。

「草神権限じゃないよね…?」
「詳しいことは笠っちから聞くといいわ」
「かさっち?」

 答えてくれない!そして謎の可愛い名前の人物!

「教令院に入る前にいる案内役が笠っちについて教えてくれるはずよ」
「う、うん分かった……」

 ……分かったといいつつ、よく分からないまま、放浪者の弁当をもって、聖処のすぐ下にある教令院を訪ねることにした。

――――

「すみません、かさっちっていう方を探しているんですけど、どこにいらっしゃるか分かりますか?」

 受け付けの女性の顔が一瞬引きつった。だが、すぐ元の笑みに戻る。見間違いだったろうか。

「笠っちさんなら教令院を進んで、知恵の殿堂に入ってすぐ、右手の研究室にいらっしゃるかと思います」
「ありがとうございます」

 教令院に入ると、みんなそこら辺で見るような制服を着ているのに気付いた。私服姿の人間が珍しいのかもしれない。すれ違う度にちらと視線を向けられている気がしてならない。アウェイな雰囲気を感じつつも、足を進め、知恵の殿堂、もとい図書館に入り、すぐ右手を目指す。扉があった。そこにかさっちさんはいるのだろうか。ノックをすると、よく聞き覚えのあるむすっとした声が「どうぞ」と向こう側から聞こえた。

「失礼しまーす」

 予想通りの人物が簡素な机に大量の本を詰んで、何やら論文を書いている。「なんだ、ナマエか」とちらとこちらを見ると、羽ペンを動かし始めた。
 扉を閉じて、そこらへんに置いてあった椅子に座る。

「かさっち……って放浪者のこと?学籍名っていうの?放浪者じゃないんだね」
「そうだけど、クラクサナリデビが勝手に付けたから、文句があるならそっちに言ってくれ」
「ナヒーダのすることに文句とかないよ。可愛い名前だなあって思っただけ」
「可愛い?普通の名前だろう?」
「……そうだね、普通の名前だね」

 これ以上「可愛い名前」だと言い続けると口論になる恐れがある。俺は早々に切り上げると、ご飯食べてる?とお弁当を取り出す。溜息をつかれた。

「……クラクサナリデビか」
「学生になったのは教えてもらったけど、そんな食べてないの?」
「……今、食べる」
「それがいい」

 放浪者が論文など書類を机から片づけると、弁当箱を机に置く。蓋を開いて「いただきます」と小声で呟く放浪者。早速おかずに箸を伸ばす。もぐもぐと咀嚼し、ごくりと飲み込む。
 視線に気づいた放浪者が、俺を睨んだ。

「じっと見るな」
「いや~、美味しいかなあ~放浪者の口に合うかなあ~と思って」
「はあ…」

 諦めたのか、再度箸を進める放浪者。

「っていうか俺も学生になったんだけど、なんで?」
「近々お前も因論派の学生になってもらおうと言っていたからな」
「知ってたのか!」
「うん」
「因論派の「い」の字も知らないのに…」
「料理研究に充てる時間を勉学にさいたらどうだ?」
「まあ、そうだね。ナヒーダがそういうならそうするしかないか…」
「相変わらず良い子ちゃんだこと」
「いっておくけど、お給料凄い額貰ってるからね?」
「……聞かないでおくよ」

――――

 放浪者が「ごちそうさま」とお弁当を食べ終えたところで、インクを取り出し、何やらメモに書きだした。

「早速だが、僕の補佐役として論文を手伝ってもらうぞ」
「ちなみに何の論文?」
「稲妻の文化についての論文だ」

 やっぱり稲妻に思い入れがあるんだなあ、と感心したところで、「気に入らない所を指摘するだけの論文だけどね」と言われて考え直すことにした。

「このメモにある本を持ってきてくれ」

 メモに書いてあるのはたった六冊。されど六冊。「めぼしい刀鍛冶についての本、三冊。鎖国についての本、三冊」

「あの図書館の中で…?マジ?」
「今日中で構わない。誰かに尋ねてもいい」
「うん」
「もし本を探している間に、誰かに僕宛に荷物があると言われたら、僕がそいつに確認しに行く。受け取るな」
「うん」
「もし僕に何か食べ物だの、贈り物をあげたいなどと言うやつがいれば、問答無用で断れ」
「うん……うん!?そんなこともあるの!?」
「男からも女からもすり寄られることが多い。大方、僕の研究室に入りたいんだろう。それに、得体のしれない他人の物なんか受け取りたくない」

 それもあるかもしれないけど、物怖じせずズバズバ言える所に憧れてる人もいるんじゃないかな。あと、顔が良いからじゃないのかな……。

「いいか、誰からも何も貰うなよ」
「ああ…うん、分かった」

 他人から何も貰いたくない、でも俺からはお弁当貰っちゃうんだなとか思ったり思わなかったり。
 じゃあ探してくるね、と彼の研究室から出て、一面に広がる本棚を見て、途方に暮れてしまった。

――――

 まず鍛冶についての本ってどこにありますか?と司書らしき人に聞けば、学生ですか?と問われ、カードを差し出した。確認の後、とある本棚に案内された。近くで見ると、本棚が滅茶苦茶にでかい。「ありがとうございます…」と司書さんに告げて、脚立を使用し、時折、近くの机で内容を確認してから、それらしい刀鍛冶の本を三冊ゲットした。(どれも分厚い)
 やっぱり時間がかかるなあ、と本を積んで放浪者の研究室に戻る際、誰かに話しかけられた。

「あの、笠っちさんのご学友ですか!?」

 失礼だが、早速嫌な予感がする展開が訪れた。女子学生が友達を引き連れ、可愛らしい包装をされた箱をもって顔を赤らめている。

「一応彼の補佐をしてる者だけど……」

 知りません、などと嘘をつくと色々面倒そうなので、正直に伝えておく。ご学友でも良かったかもしれない。

「あの、私、彼に、これ、贈りたくて……貴方が代わりに届けてくれますか!?」

 箱を差し出される。あー…と言葉を濁す。

「どうして笠っちに直接言わないの?」
「う…彼、いつも機嫌が悪そうだし、この前も贈り物を受け取ってくれなかったので…」
「だから、俺が届けてくれるかもって?…いやー難しいなあ。笠っちからも受け取らないでほしいって言われてるから」
「何か理由でもあるんですか!?」
「ええ…」

 粘る!この子、粘るぞ!
 「得体のしれない他人の物なんか受け取りたくない」ってそっくりそのまま言ったら泣いちゃうかも……。笠っちの悪評も広がりそう……。
 何か、この場を切り抜けられるうまい言葉はないか?考えている途中でハッとする。妙案が浮かんだ。

「実は笠っちには恋人がいるんだよ」
「えぇ!?」

 館内に悲鳴が轟く。
 恋人がいる。これなら当たり障りなく、何か受け取るのを避けられるのでは?

「恋人を嫉妬させたくないって彼が言っててさ」
「笠っちったらああ見えて恋人には凄い優しいんだ」

 口からすらすらと贈り物を受け付けない理由が出てくるわ出てくるわ。どっちにしろ、彼女が泣いている。もう俺し~らない…。半ば現実逃避してきた。
 もう聞いていたくない!と言わんばかりにその場を逃げ去った女の子、友達が「すみませんでした」と俺に頭を下げると、彼女を追いかける。
 きっと彼女から噂が広まるだろう。「あの笠っちに恋人がいる」と。それで贈り物が減るなら、許してくれるかも…?

――――

「はい、まず刀鍛冶についての本と……ご報告があります」

 本をめくっている放浪者に先ほどのことの次第を伝えると、「そう」と言われた。

「まあいいんじゃない。それでつっかかってくる奴らがいなくなるなら」

 読み通り…。ホッとしたのも束の間。

「だけど、もし恋人を連れてこいと言われたら、君を連れていくことにするよ」
「笠っちさん、今なんと」
「ナマエが発言の責任を取るんだよ。いいね?」

 う、うわあ、いい笑顔。自分の悪評に目もくれない放浪者。だからこそ、恋人役は責任をとってお前がやれ、ということも躊躇なく言える。
 もしもの時に、俺が呼ばれる場面を想像して、頭を抱えたくなってきた。自分が蒔いた種だから…仕方ない…ね…。