夢の中で

 リオン君と晶術の特訓する日々。そのおかげで毎日が筋肉痛。年をとるって嫌ね。

「湿布貼ってくださいルーティさん…」
「はいはい」

 今日も日課のようにルーティさんに有料で回復してもらう。そして特性の湿布を貼ってもらうのだった。服を脱いで上半身下着になり、ルーティさんのベッドに横になる。(前までは私のベッドだった)

「あのさ…毎回思うんだけど」
「はい?」
「よくミクトランがいる所で脱げるわよね」
「え?なんで?駄目なんですか?」

 ひんやりとした湿布を肩から肩甲骨、そして腰に貼ってもらっていると、ルーティさんは声を落として私に話しかけてきた。ルーティさんの方に目を向けると、彼女は凄い顔でミクトランを見ていた。
 ちなみにミクトランは部屋の脇の棚の上に置いてある。床に置いたりすると、ぴーぴー喚きだすからだ。(やっぱり地上は嫌なんだって)

「駄目じゃないけど…。あれでも元は男が入ってたのよ?それにあれでも周りの景色は見れるようだし…」
『あれでもあれでも連呼するな!』
「はぁ…ご忠告有難いんですが、どうも何かペット的なものにしか見えなくって…」
『貴様ぁ!!』

 湿布を貼り終え、服に腕を通す。ルーティさんは私を心配そうな目で見ている。
 ミクを男として意識…?いや、ないない。私にとってミクは喋り友達みたいなものだ。いやずっと連れ添ってるから、ペット…?おもわずそう口に出すと、ミクが怒り狂ったような声を出す。やれやれ。

「最近ではペットも家族という風潮があってだな…」
『か、家族ッ…!?…ふざけるのもいい加減にしろ!』
「ミク」

 やけに反抗的だ。ふん、とミクは鼻を鳴らしたような声を出すと、それきり静かになった。機能を切ったのか。
 ミクは本気で怒るとソーディアンの機能を停止させる。といっても、翌日になれば何事も無かったように起動してるが。
 しかし、そんなに怒らせる要素があっただろうか。

「…何が気に障ったんですかね」
「あら、珍しくしおらしいじゃない」
「私だって意図せず人を怒らせたら、ちょっとは反省しますよ」

 ベッドから降り、部屋の隅に畳んであった布団に手をかける。家でも土足の家だけど、ベッドを置かせてもらう訳にもいかないので、こうして床に布団を敷いて寝ているのだ。

「元々人だったんだから、何か思うところでもあったんじゃないの」
「家族がいなかったとか?」
「天地戦争時代のヤツだし、家族がいた方が珍しいのかもね。…にしたって、あれで激怒するのもおかしいわよ」
「…そういえば私全然ミクの事知らないや」

 ソーディアン。元は人だった自分と別れて、剣になってしまった者。ミクの場合は死ぬ間際に敵のソーディアンに人格を転写なんちゃらとか言っていた。それぐらいしか彼が人であった時の事を私は知らない。そういえば天地戦争時代の技術を聞きだせと言われていたけど、ヤツの人格上、積極的に人だった時の事を聞こうとしていない。日常的な会話ぐらいしかしてない(今まであんまり普通の返答はなかったけど)
 ううん…困った。気にしだしたら、聞かずにはいられなくなってきた。

「マスターになったばかりなんだし、そんなものじゃない?っていうか父さんの仕事忘れてた訳じゃないわよね?」
「………今度色々聞いてみようかなー」
「ちょ、あんた、忘れてたでしょ!!」
「だ、だってクエストこなして日常生活を送るだけで必死だったんですもん!最近もドタバタしてたし…今度聞きますよ今度」
「…む、確かに…じゃあカイムとの戦いまでに聞いときなさいよ…」
「はいはい」
「返事は一回!」
「はーい」
 
**

 ミクのことを考えて布団に入った。それは覚えている。
 いつの間にか、私は見知らぬ男性と暗い空間で二人きりになっていた。どうにかしたい。
 男性はさっきから黙りきり。金色のまつげを思案するように伏せている。綺麗な男前だ。でもなんか服装がぴっちりしてるのを中に着ているので、筋肉が際立って見える。

「あ、あのう……。う~ん、ここ私の夢なのかな…」
「だとしたら私の意識がある筈なかろう」
「うん!?」

 しゃ、しゃべったーーー!!じゃない。驚きどころはそこではない。…声が、あのソーディアンとまったく同じものだった所に私は顔を強張らせる。

「もしかして、み、ミクトラン!?」
「そうだ、まぬけめ」
「なんで早々になじられなきゃいけないんですか…。夢なんでしょう?」
「夢を共有してるのかもしれないな」
「ほむ…」

 夢が勝手な事を言っているというのに、ミクにも自我がある気がして。そうなんだなー、と勝手に納得してしまった。

「じゃあ本当にミクってばこんなイケメンだったんですねー」
「…人の姿だった時は、な…。今ではもう剣だ」

 ふっと視線を落とすミクトラン。憂いにみちた表情さえ様になる。さすがのイケメンである。
 …いや、それより、彼は人で無くなり、剣になってしまった今が嫌なのだろうか。

「…ソーディアンになったこと、後悔してるんですか」
「まさか!あのまま死ぬよりはマシだ。永遠も手に入れたしな。どうにかして世界を乗っ取ってやる」
「…なんで、世界征服なんて考えるかなー」

 ミクはどうして、元々いた地上軍を裏切って、天上王を目指しちゃったのか。

「…お前には関係ない」
「あんたのマスターで、家族だって思ってるんですけどね!」
「ッそんなものいらん!」
「えー」

 剣のときと変わらず、めんどくさい奴。イケメンなのに。ふん、と拗ねやがった。

「王たる者、他者の理解なぞ求めん」
「う、うわあ…そうですか。ならいいや」

 常に孤独でありたいとか、寂しい奴でもある。ミクトランの表情は曇ったままだ。
 とりあえず歪んでてもいいから世界征服はやめて!とは思った。いつか、人の精神を乗っ取って思うままに操る方法とか編み出しそうだ。
それにしたって、なんだか…。

「誰にも理解されないって、つまらなそうですけどね」
「……元から理解されていない。つまらない、面白い、だなんてどうでもいい」

 …最初から、誰にも理解されてこなかったのか。
 座って話を聞いていた私は、立ち上がった。やっぱり地上が嫌なのか立ったままのミクトランに歩み寄る。なんだ、と顔をしかめる彼の手を握った。
 その瞬間、かっとしたミクトランは私の手を払った。

「なんだ、慰めているつもりか!!…同情なぞいらん!!」
「…いんや、ただ触りたかっただけ。剣のままだと出来ないだろうな~と思って。…ごめんなさい。気持ち悪かったですよね」
「…貴様には触られ慣れているわ」
「…そうですね」

 本当にただ触れたかった。それは同情かもしれない。かえってミクを傷つけたかもしれない、と反省する。
 …あまり触られ慣れてなさそうな顔して、人との接触が気味悪いかな、と思ったけど。そうか、私はいつもミクにべたべたと触っているか。最初は触るな触るな、言ってたっけ…。

「ミクは優しい子だ」
「そういうの、いらん」
「一緒に村を救ってくれたじゃないか。…今言うけど」

 ミクトランは、色々な場面で人間らしい所を見せる。…いや、昔から彼は人間なのだ。王様でもあり、裏切り者だけど。きっと、人間らしさを併せ持ちながら、理解されないと苦しみ、人を蹂躙してきたのだ。
 昔の人ではない、この世界の人ではない私には、それを許すも許さないもない。
 私は、村長にヒールを使えた事に驚いた。ソーディアンの意思と私の意思、それらが合致しないと晶術は打てないとミクトランは言っていた。リオン君からもそう聞かされていた。何故ミクがヒールを打とうと思ったのか、結局聞けなかった。

「有難う。ミクトラン」
「ふん」

 彼は人間らしさを認めたくようなので、私はやっぱり理由を聞かない事にした。笑いながらお礼を言った事により、それはとても軽く聞こえた。

**

「……」

 とても目覚めがいいと思う。あぁ見知った天井。ルーティさんがすうすう眠っているのを起こさないように、棚の上のミクトランに近づく。
 彼もまだ起きていなかった。まだ夢の中なのだろうか。今一人であそこにいて、何を思っているのだろうか。そう思案しながら、私はミクのコアを撫でた。