好きってどういうこと?

※恋愛に関して無知の有里くん

 告白した。少し間があいてから断られた。想定内だった。だって彼には不思議な魅力があるから。そっかあ〜ごめんね時間取らせて、なんてへらへら笑いながらその場から去ろうとしたけど、その次の言葉に私はぽかんと口を開けてしまった。

「好きってどういうこと?」

 有里湊くんは、誰かを好きになったことがないのか、首を傾げながら私に問うた。
 先程想定内とは言ったが、振られたショックを引きずった私は困惑した声をあげてしまった。

「分からないんだ。ミョウジは僕のことが好きだっていうけれど、どうして僕のことが好きなの?なんで好きになったの?」

 有里くんは好奇心に満ちた顔で私に詰め寄った。
 好きとは…?どうして有里くんが好きなのか…?今、何故か宇宙を背景にした猫が浮かんだ。

 夏休み中の補習に有里くんが参加していた。今がチャンスだ、と思った。「放課後、体育館裏で待っていてほしい」と彼に告げ、告白した。振られた。そしての好きって何?というコンボに私はいっぱいいっぱいになってしまった。

 セミが鳴いている中、首筋に汗を滲ませた有里くんは私を真摯に見つめている。
 暑い、熱い。「好き」とは?について考えて頭が爆発しそうだし、有里くんの視線が私だけにずっと向いている状況に顔も爆発しそうだ。
 走馬灯のように、これまでの有里くんを振り返る。

 高等部から編入した私は同じように編入してきたゆかりと仲が良かった。1年、2年生も同じクラスになって喜んでいたところ、ゆかりは有里くんを私に紹介したのだ。第一印象は、なんだかぼんやりした男の子だなあというもの。ゆかりは彼を気にかけており、仲良くしてあげてね、とまるで親のようなことを言っていた。そもそもなんで一緒にいるの?とニヤニヤしながら聞いたところ、巌戸台の分寮に転入してきたから、編入生の先輩として学校生活についてレクチャーしてる、とムキになって答えてくれた。まあ、その役目は順平くんがかっさらっていったのだが。

 ぼんやり少年の頃は無彩色だった。突然の例えだが、無気力という言葉が当てはまる。何事にもやる気がなく、「どうでもいい」が口癖。なんだか心配でゆかりの思惑通り、彼を気にかけるようになった。
 お昼時間にもそもそ大量の焼きそばパンを食べていた有里くんに「野菜も食べなよ」と苦言を呈した。彼は、その細い体のどこに入るのか、大量のご飯を食べる。だが、購買で売っているものを大量に食べるのみの食生活にさすがに、声をかけざるをえなかった。「野菜は入ってる」と焼きそばの中の少量の野菜を指さした時は頭が痛くなった。「それだけじゃあ体に悪いよ」と言えば、「じゃあミョウジが野菜?持ってきてよ」と反撃された。なんで!?と思ったけど、翌日、やっぱり心配になってきた私はタッパーに詰めたサラダを持って登校した。ドヤ、持ってきたぞ、とサラダを渡した私に有里くんは、「ミョウジって、素直すぎない?」とぽかーんとしていた。どうして。
 その内、彼のバイト先のシャガールのコーヒーチケットと引き換えに、最初はサラダ、次にサラダにおかず、そしていつの間にか有里くんの弁当ごと作ることになった。「卵焼きも食べたい」「おにぎりも欲しい」等、有里くんのリクエストを聞き続けた結果だ。「流されやすい!」と項垂れる私に「それはそうだけど、美味しいよ?」と慰めの言葉。違う、そうじゃない。
 だけど、弁当を受け取る際の「いつもありがとう」の言葉を聞いて、じわじわ胸の中に広がる嬉しさから、私は弁当を作るのが楽しみになってしまった。流れで、一緒にお昼を食べる仲にもなっていた。
 ゆかりは「たしかに彼と仲良くしてやってとは言ったけどさ、世話好きにも程があるってば」と引いていた。

 有里くんは段々と色付いていく。それは、いろんな色が水彩絵の具のようにじわじわ広がっていくように。楽しいことでも出来たみたい。表情の変化もうっすらだが、分かるようになった。微笑まれた時は胸が高鳴った。
「ミョウジってば、弁当によく僕の好物入れてくれるよね」
「なんとなくだよ、なんとなく」
 彼の好物も分かってしまうくらいには、私はいつの間にか、有里くんに夢中になっていた。

 そして、好きとは…?どうして有里くんが好きなのか…?という問いに戻るのだが、この間に何十分か経っているんじゃないかというくらいの時間の流れを感じている。有里くんはうっすら汗がにじんでるだけにとどまっているが、私は汗びっしょりになっていた。
 有里くんは心なしか答えを待ちわびているように見える。心なしか。
 有里くんといる時を思い返してみよう。私と有里くんでお昼ご飯を一緒に食べている、この時間が続けばいいのになあ。出来る限り一緒に居たいなあ。わがままながら、そう思っていた。

「好きってことは好きな人と一緒にいたい…ってことかな…?」

 疑問形で返答してしまった――。有里くんはそんなことを気にしてないみたいに、私をじっと見つめている。

「楽しいことを一緒に共有したいし、悲しいことがあってもお互い寄り添っていたら元気になれると思う。あとは、笑っていて…ほしい…というか…」

 正解なんてないのに、恋愛に関しての自信の無さと羞恥で私の声はだんだん小さくなる。

「じゃあ、ミョウジは僕と一緒に居たいんだ」

 顔がまともに見れなくなった私は視線を下げて、彼の足の部分を見ていた。

「そうなりますね……」
「なんで敬語になったの?」
「恥ずかしいからだよ!!こんな質問されたらね、戸惑っちゃうよ……」

 そっかあ、と有里くんは機嫌がよさそうな声を出した。それを聞いたら、少しだけ、視線を上にあげた。

「あと、なんで有里くんを好きになったかって質問は、いつの間にか……としか言えない」

 誰かを好きになろうとして好きになるって「この人を落とす!私のことを好きにさせてやる!」みたいなことを考えてないとできないんじゃないかな。
 私はお昼の時間を共有して、段々心惹かれていっただけだ。

「強いていえば、有里くんの傍は居心地がいいから……かな?」

 彼の側にいるとのんびり過ごせる、自分のペースで喋れるし、なんだか安心できる。有里くんは不思議な魅力に満ちているのだ。

「だから一緒にいたいってこと」
「そうだね!!」

 恋愛初心者が恋愛初心者に恋愛をご教授したところで、「返事も聞いたし、帰るね……」とやけに重たく感じる鞄を持って、逃げるように体育館裏から出ようとした。
 振られちゃったから、新学期からはお弁当生活もおしまいになっちゃうのかな。続けてても辛いだけなのかな。夏休み明けが憂鬱だ……。

「待って」

 慌てた声の有里くんが、私の腕を握った。熱い手だった。

「だったら僕もミョウジのこと好きだ」
「えぇ!?」

 大どんでん返し!?どういうことなの!?口が開いてふさがらない私に、有里くんは、「ミョウジと同じ気持ちだったから、僕もミョウジのことが好きってことでいいのかな?」と聞いてきた。さっきは好きだって言ってくれたのに、確認するかな!?でもそういうやつだって知ってる!!
 でも……、有里くんが私と同じ気持ちだって知って、嬉しくてたまらなくなってしまった。今なら全部許せる。

「じゃあ私のこと、好きってことでいいんじゃないのかな?」

 ちょっと強気の姿勢で胸を張ってやる。
 しかし、次の瞬間にさらに質問を追加された。

「好き同士の二人は何をするの?」
「つ……付き合う?」
「何処に?」
「……」

 まだまだ有里くんに教えることが多そうで頭を抱えたくなった。でもまあ、ゆっくりで、いいか。