寒中お見舞い~上~

 今度は寒い所に来た。なんでもこのファンダリアなる地でソーディアンマスター慰安会をするようだ。…と、私が勝手に名づけてみたものの、そんなお軽いものではない。
 まだ会った事のない王様ソーディアンマスターに謁見、カイム討伐の作戦会議をするのだ。
 ファンダリアはセインガルドと共闘する事を宣言してくれた。協力してくれる国へこちらから訪ねに行くのは当然といえば当然だ。カイム討伐の中心戦士たるソーディアンマスター同士で会合。みんなの士気も上げる目的もあるんだろう。
 しかし、マジで寒い。つらい。途中で出てくるモンスターなんて目じゃないくらい、寒さのがつらい…。ルーティさんの「温泉が有名なのよ」という言葉にほいほい釣られてやってきたが、実際に寒さを体感すると、もう、お布団に帰りたい。そういう言葉しか浮かばない。
 しかも何故かリオン君に付き合って(軽い気持ちで返事をしてしまった私も悪いっていうのかちくしょう)セインガルドから徒歩で私達は雪道を歩いている。やっぱり船にした方が良かったでしょうが!これ!!と詰め寄ってみた。結果は、睨みつけられただけだった。シャルが何か喋ろうとしたが、リオン君は無言でコアクリスタルを殴りつける事によって鎮静化させたのだった。暴力、だめ、絶対。
 マントを羽織った体をきつく抱きしめた。そして、眠気に襲われながらも私達はファンダリアに到着した。日は暮れていても人が行きかっている。活気溢れる町に入ると、それだけで力が湧いてくるようだ。凍りついた顔も、緩められるようになった。

「やっとついたぁ…。…リオン君、絶対なにかお礼してくださいよ…!」
「どうして僕が。へらへら笑って、着いていくと言ったのはお前だろう」
「こんな酷い吹雪が吹くなんて思ってなかったんです…!下手すりゃ遭難してましたからね!?」
「僕がついていて遭難すると思うか」
「えっ…やだ、リオン君がかっこいい事いった」
「…もういい、宿へ行くぞ」
『呆れられちゃったね、ナマエ』
「だがしかし、そこには照れ隠しも入っているのだった」
『勝手にナレーションをいれるんじゃない』

 謁見、そして作戦会議は明日に行われる。宿屋に到着し、扉を開けるとそこは天国だった。暖かい光。ストーブ、焚いてある。ぽか、ぽか…。ゆっくりと目を閉じ、至福を感じる。

「もうここから出たくないや」
「引き摺ってでも明日の会合には出させるがな。その後は勝手にしろ」
「つ、冷たい…」

 リオン君コノヤロウと思いながらも、二人で部屋を目指す。女子は一つの大部屋に三人で泊まる。ルーティさんが「どうせだし、相部屋にしましょうよ。フィリアとも話してみたいし」と言って決めてくれた。…何故かそわそわと嬉しそうに話していたのが印象的だった。その理由が国から支給された旅行費を浮かせて、こっそりと懐に入れる為なんてことはないよな。親交を深める為だ。…きっと。
 ……私ったらなんて想像をしてしまったのかしら。人を疑うのはよくないわっ。いけない子ね、ナマエ!という茶番を脳内で繰り広げてみた。
 一方男子は一人一部屋ずつで泊まるようだ。リオン君がそういうのうるさそうだからだろうね。スタン君こそ親交を深めようぜ!ってキャラだけど、リオン君が意見を押し通したんだろうね…。これに関しては確信せざるを得ない。

「荷物を置いたら、夕食食べなきゃ。リオン君もみんなと一緒に食べましょうよ」
「…………仕方ない」
『坊ちゃん!』

 本当に長い間考えた結果、一緒に食べてくれるようだ。ソーディアン同士だし、一人だけ仲良くしないのは連帯に不都合が生じるとかそんな感じで納得したのだろう。いいことだ。シャルも声を弾ませるぐらいの前進か。

「じゃあ私女性陣を誘ってきますね」
「…僕はあいつを誘えと?」

 あー、そうか。あんまり喋った事無いものな。ここは私がスタン君も誘ったほうがいいのだろうか。いやでもリオン君にとってはスタン君と話すいい機会になる…。そう考えていた所、リオン君の表情が険しくなっているのに気付いた。えっ、そんなに嫌なのか。

『ぼっちゃあん…』
『ククク、人一人誘うのも苦痛か、リオンよ』
「ベストオブお前が言うな。……あの、リオン君、どうしました?」
『この切り替えの早さ、…ッやめろーーッ!』
「…別に、なんでもない。いいさ、僕があいつに言う」
「そう?じゃあよろしくお願いしますね」

 ミクトランの暗黒を刺激し、彼の絶叫がこだまする中、リオン君は決心したように目を鋭くさせていた。…まぁ、良かったのかな。ひたすらにスルーよ、ミク。

 部屋に入ると、やはり既にルーティさんとフィリアちゃんが談笑していた。彼女達は普通に船で来たのだろう。二人とも私に気付くと顔をぎょっとされた。「顔、真っ青じゃない!」とルーティさんが悲鳴をあげる。

「あはは…お二人ともこんばんは。二日間よろしくお願いします…」
「…あいつのせいね。まさか本当に…」

 ルーティさんはリオン君を思い浮かべているのだろうか。苦労人チックなため息をつかれてしまった。

「まぁ、ナマエさん…!ご苦労様です…!ストーブにあたってください」
「あぁ、うん。そ、そんな冷えてる顔してるのか私…」

 彼女達はストーブの傍で会話しており、私を入れるように、ストーブの前を空けてくれた。ううっご極楽う。ここから離れられない…、と宿のロビーにいた時と同じ事を言い出しそう。

「荷物はここに置いとくわね。…で、どういった経緯であいつと一緒に吹雪の中徒歩で来たのよ…」
「徒歩で来たんですか…!?」

 フィリアちゃんに愕然とされた。普通考えられないよね…。あたしってほんと馬鹿。

「え、えーとリオン君が一人で徒歩で行くって言ってたので、話し相手でもいた方がいいだろうと私も参加した次第であります…。あんな吹雪の中歩くなんて思ってなかったんです!!」

 発言にデジャヴを感じながら、顔を手で覆う。こんな事になるなんて…誰も分かってなかったのよ!ふるふると体を震わせた。ルーティさんとアトワイトの呆れにも似たため息が聞こえる。「ナマエさん…」とフィリアちゃんだけは気遣ってくれているようだ。

『ふん、そんなどうでもいい事を話している場合か』
「…あ、そうだったそうだった。皆さん夕飯食べられましたか?もし良かったらみんなで食事を取ろうと男性陣にも言っておいたんですが」
「あぁ、こっちもあんた達が来るまでギリギリまで待ってたのよ。一緒に食べるわよ」

 フィリアちゃんも笑顔で頷く。待っていてくれたのか。

「こっちはお腹すいてんのよ…ってあんたはもっとすいてるか」
「今何か食べても全部美味しいと言えそうです」
「うふふ、なんでもファンダリアの名物はビーフシチューのようですよ」
「おおっ…!名前だけで涎出てきた…!」
「後はスイーツも有名なのよ。ファンダリア産の材料ってだけで箔がつくの。アイスとか、チーズタルトとか…プリンとかね」
「それは…!!食後に頼みたいですね!!…早く!食べたい!です!」
「あぁ、座ってる場合じゃなかったわね。リオンにも言っておいたんだっけ。…スタンにも?」
「リオン君が誘ってきてくれるようですよー早く!早く!」
「えぇ、レストランへ向かいましょうか」

 この中で一番年上であろう私が二人を急かす図である。なんでも、宿の一階にレストランがあるようだ。フィリアちゃんが大きなケースを抱えて部屋を出ようとするのが目に留まった。

「その中って…」
『やっとわしの出番じゃな』
「!」
「ソーディアン・クレメンテが入っております」

 そういえば共闘した時もそんな声が聞こえたような気がするし、初めてちゃんと喋ったときもそんなケースがあったような…!決して忘れていたわけではない。ほんとに。

『絶対忘れてたじゃろ』
「ケースの中で心を読んだ…だと!?」
『そりゃあ黙り込んでたもの』
「そっか…。にしてもおじいちゃんソーディアンなんですね」
『これでもまだまだ現役じゃよ』

 よろしくの、あの時のお嬢さん。とケースの中から言われ、はぁこちらこそ、と返している間に貴重品だけ持って部屋を出る。鍵をかけたルーティさんが、「…そうだ」と声をあげた。

「フィリア、ナマエも。あんた達のソーディアン、男なんだから、着替えの時にケースから出さないでよ。ミクトランは布かぶせるからね」
『誰が!お前達なんかの貧相な体を覗くとでも?』
「ルーティさん、これ、部屋の窓から吊り下げとくので安心してください」
「それはいいわね。誰かから紐でも借りなきゃね」
『やめろ!』
『ミクトラン、苦労してるのう…』
『いつもこんな調子なのよ』

**

 一階のレストランには既にリオン君とスタン君が席に座っていた。しかし、そこの空気たるや、ピリピリ。主にリオン君が。スタン君はそんな事も気に介せずにこやかな笑顔でこちらに手を振った。

「みんな、こっちこっち!」

 女性陣は皆何があったんだろうか…と二人の様子を伺いながら同席についた。リオン君眉間に皺を寄せながらは腕を組んでいる。

「ナマエさんもお久しぶりです。これ、メニューです」
「うん、ありがとう…おおっ!」

 スタン君が何かしたのだろうか…と考えながらメニューを受け取る。早速目に入ったのは、煮込みビーフシチュー(焼きたてパン付き)という文字。他にも普通のシチューやら、おでんもある。そしてピザ!暖かいメニュー尽くしである。この時点でリオン君がギスギスしてるのがどうでもよくなった。
 ページをめくれば、デザートまで書いてある。自慢のバニラアイスクリームメロンソーダ、ソフトクリームにプリンパフェイチゴパフェチョコパフェデラックスパフェ…!?にやつきが止まらない。…と、とりあえずビーフシチュー食べてからお腹の具合をみてデザートを頼もうか…!デラックスパフェとはどういうものかも聞いておかなきゃ…。

「フィリアちゃんは何頼む?」

 隣のフィリアちゃんにメニューを渡すも、ぎこちない笑顔で「え、えぇ…」と返された。その反応に我に返ってみると、何故かルーティさんとリオン君が静かなる口論を繰り広げていた。スタン君は「二人ともどうしたんだよ~。何怒ってんだ?」と空気読めてない。

「姉さんはこいつに近づくべきじゃない!」
「私がいつこいつの事を好きだっつったのよ…!あぁっもう!勝手に考え込むクセやめたら!?」

 どういう状況なの…。リオン君はおもいきりスタン君を指さしてる。「こいつ」とは彼の事なのだろう。ルーティさんの言葉に、私はえっ、と言葉を洩らす。

「どういうことなの…?え、どういうことなの…?」

 思わず事態を把握しているであろうフィリアちゃんに詰め寄る。

「…えっと、なんでも…リオンさんが、兵士になったスタンさんと、お城によく出入りするルーティが、その、仲良くしすぎている、と…」
「ッ!?」
「ナマエさん!?」

 私は思わず口を手でおおって、憤慨した。

「なんだその面白い話は…ッ!?」

 沈黙の後、鬼のような形相のお二人から、「面白くない!!」とツッコミを頂く。さすが兄弟だ。見事に揃った。

「どうしてそんな話を黙っていたんですかリオン君私に相談してくれればよかったのに」
「お前がそういう反応をすると分かっていたからだ…!」
「確かに…っていうか詳しく聞かせてくださいよ。どういった経緯でリオン君はそう確信しちゃったんですか。ええ?」

 お前に説明するの面倒くさい、という顔の当の二人。困惑してるフィリアちゃん。メニューをガン見しているスタン君。…分かった、ここは――。

「スタン君!スタン君は、ルーティさんの事が好きなんですか?」
「ナマエ!!あんたッ!!」
「…え?勿論好きですよ」

 固まるソーディアンメンバー。

「仲間としてですよね?さっきもリオンに聞かれました」
「お、お約束ぅ!!リオン君!!勘違いしてるんじゃね!?」
「だがっ!貴様は兵士になって、僕と同じ隊で、まぁまぁ剣の腕があるにも関わらずよく怪我をするじゃないか!姉さんの治療目当てなんだろ!言ってみろ!」
「シスコン!言いがかりつけるくらいのシスコンだった!」

 思わずスタン君に飛び掛りそうなリオン君の襟を掴む。ルーティさんは「もうやめてよおエミリオ…」と顔を覆い始めた。エミリオ?そう疑問に思う暇も無くスタン君は斜め上の返答。

「姉さんって誰だよ?…それに、俺ってよくケガしてる方か?…リオン、今まで言えなかったけど、今言うよ」
「何だ」

 えっ。まさか――。

「お前、同じ隊のみんなの事、ちゃんと見てないだろ」
「なっ――!」

 スタン君が放った言葉は私の予想と違っていた。…ふぅ。

「良かった」
『何を考えた。何を』
「言わないし言えない」

「今まで話しかけようとする度にお前、用があってどこか行ってたけど」
「人はそれを無視というんだぜ」
「隊のみんなが、どれくらいケガしてるか、知ってるのか?」
『リオン、私からも言わせて貰おうか』
「…ディムロス」
『ひえっディムロス中将…あっ』

 マスターをなじられ怒り心頭のソーディアンが参戦した。

『お前は無茶な指揮をとる。無論、毎回のごとく兵士はケガをしている。兵士達が愚痴をこぼしていた』

 そういえばカルバレイス遠征の時もリオン君は結構な無茶をしていた。ケガした兵士さんは普通にいた。

『スタンはその兵達を庇いながら進軍している事に気付いていないのか?』
「なッ…!」
『リオン、お前は周り者を気遣うべきだ。その年で大任されたという事に驕っている。己の事しか考えていない!…シャルティエ少佐も近くにいながらそんな事も進言できていなかったのか、たわけが!』
『ひい!』

 なんだこの上下関係…。あ、天地戦争の時の立場かな?
 そんなことより、仲間の兵士を気遣えないっていうのは、隊長として致命的だ。…スタン君は、みんなを気にしていたのだ。
 愕然としているリオン君に、スタン君はこう声をかける。

「…謝れとはいわないよ。だけど、皆の事をちゃんと考えてくれ。みんなお前くらいに、強くないんだ」
「…リオン君」

 私は彼に聞く事にした。

「…とりあえず注文してもいいかな?」

 空気、読まない。こくり、と頷いたリオン君の心中を察しようにもお腹がすきすぎて気持ち悪い。食べよう!食べてからだ!!食べてからまたシリアスになろっ!