寒中お見舞い~下~

会合はそんな感じでお開きとなり、謁見の間から出た私達。
待つこと、少しして、終始にこやかだったウッドロウ王子がイクティノスを提げて扉から出てきた。

「すまない、待たせてしまったね。これからよろしく頼む」
「はっ、お任せ下さい」

リオン君がうやうやしく頭を下げる。それを見た王子は、困ったように首を振る。

「気を遣って接しないでほしい。君たちとはもう『仲間』なのだから」
「…ですが」
「じゃあ遠慮なく。俺スタンっていいます。よろしく!ウッドロウさん」
「ああ、よろしく頼む、スタン君」
「おおスタン君やるな。じゃあ私も私も、ナマエです。よろしくお願いしまーす」
「よろしく、ナマエ君」

困惑でウッドロウさんを直視できないリオン君。ずずいとスタン君が前に出て、手を差し出した。シェイクハンズである。これにはウッドロウさんもにっこり。かたく手を握り合った二人に、私も手をさしだし、ガシッと握手。

「さっきはありがとうございます」
「私が何かしたかな?」
「王様にミクをうまく扱ってるって、安全だよーみたいに言ってくれたじゃないですか。何気なく言った事かもですが、嬉しかったので」
「そうか、それならば良かった。あのミクトランを慌てふためかせたくらいだ、いいパートナーだと見て取れたよ」
『本当、あのミクトランをな…』
『ふんっ!』

手を離した後は、礼を伝えておく。ピリピリしてた雰囲気をおさめてくれたと勝手に思っている。爽やかな笑みを浮かべるウッドロウさんを、思わずまじまじ眺めてしまった。
その間も、私たちに続いてウッドロウさんに自己紹介をしていくソーディアンマスターたち。
そして、城からでて、近隣に港のあるジェノスへ向かうことに。リオン君がなにやらどう見てもイライラしていそうな顔をしているが、ルーティさんに引っ張られたため、話しかけることは叶わなかった。

「ルーティさん?」
「ナマエってば、すっごいウッドロウ見てたわよね」
「ええ、あの顔面で王子…。スペック高いなあと思って」
「ふーん?気になってる訳」
「違いますよ、凄いなーって思っただけです。何を期待してたんです?」

私があっさりしてるのに、「なぁんだ」とルーティさんはオーバーな動作で私の腕から手を離した。

「一目惚れでもしてたら面白かったのに」
「ひとの恋愛を面白がるんじゃ……。まあでも他人のは面白いですよね、たしかに」
『昨日の夕食の時を思い出したのね』
「そうです、そうです」

アトワイトの解説に頷く事しかできない。ルーティさんは「でもさあ…」とニヤニヤ顔で話を続けようとする。あの時の逆襲に転じているというのか。受けて立つ!

「さっきからリオン、イライラしてるじゃない?もしかしてウッドロウに嫉妬しちゃったんじゃないかしらって」
「ええ…?リオン君が?まっさかー、お姉ちゃんラブだったじゃないっすか」
「それはそれよ!」
『船酔いするのが嫌だからでしょ。あなたも知っているでしょう、ルーティ。カマをかけるのは良くないわ』
「アトワイト!さらっと種明かししないでよお!」

ルーティさん、アトワイトとすごい仲がいいな…。まるで姉妹のようだ、と思ったところで「船酔い?」と首を傾げてしまった。あれ、まさか…。

「ここまで来るとき、リオン君が頑なに歩きたがったのはそれですか!?」

はるか前を歩くリオン君は私の発言をガン無視している。ああ、聞こえないのね。
それにしたってリオン君船酔いするんだ…。きっと大変なんだろうけども、可愛い弱点だな、と思ってしまった。ミクはミクで、彼を馬鹿にする笑いがおさえきれないようだ。

「あぁーん!そんなの今はどうでもいいのよぉ!」
「そんな、船酔いを舐めてかかったら大変ですよ」
「単刀直入に言うわ、リオンをどう思ってるのか教えなさいよ。……あの偏屈なリオンに飽きもせず付き合ってられるなんてよっぽどの物好きじゃない。どうなのよ?」

華麗にスルー。欲望駄々洩れじゃないですか、ルーティさん。さりげなく弟をディスっている。いいのか。

「リオン君のことはもちろん好きですよ。リオン君見守り隊になりたいくらい。でも、ルーティさんの思うような好きではないと思いますが」
「マジ!?」『マジか!』

衝撃を受けるルーティさん、そして、なぜかミク。

「だって、彼16でしょう?まだ子どもじゃないですか。それに引き換え私は疲れ切った20代…」
「……意外にまともなのね」
「ひどい!」
『お前が世間体を気にするとは思わなんだ』
「うーん、気にするというか、意識してなかったというか」
「なんだ、そうだったの…」

ため息ひとつ。肩を落とされてしまった。勝手に期待されて、勝手に失望された…。いやいや、私こそ傷つくべき存在では?

「色恋に期待するなら、ルーティさんが一番有望じゃないんですか?ほら、スタンく……」
「はあ!?違うったら!なんで私があんなスカタンと…!」

真っ赤になっちゃって。ほらね、有望株。

**

「リオン君飴ちゃんあげますね。なめてると気が楽になりますよ」
「……あぁ、もらってやる」

ジェノスの港に着いた際、雑貨屋で買ってきた飴をさしだす。
インザ船。顔が青いリオン君。ぱっと見、薄幸の美少年だ。

「そういう時はちゃあんと、ありがとうって言わないと」
「……ありがとう」

しぶられたり、反抗されるかと思いきや。弱っている分、かなり素直だ。感動すら覚える。リオン君が船に乗っている間に何かできることがあるんじゃないか!?スタンくんやフィリアちゃんを伴って、弱った彼に恩を売って仲間はいいぞ!と思わせるとか。我ながらあくどいアイデアを考えている間に、リオン君はさっさと自分の船室に去っていった。ですよね~。

「リオン君は…部屋にいってしまったのか」
「あぁ、ウッドロウさん。そうみたいです」

後ろから声がかかる。振り返ると、ウッドロウさんも彼の様子を見に来たようだ。

「港へ移動していた頃から調子が悪そうだったから、気になっていたのだが…」

リオン君を心配してくれていることに、自分の事のように嬉しくなる。さすがの見守りたい隊長、私。迷うことなく、事実を伝える。

「船酔いしてるみたいです。だから船に乗る前も鬱々としてたんだと思いますよ」
「そうなのかい?…申し訳ない事をしたな」
「いいんじゃないですか?ファンダリアまで行きは徒歩で来てましたもん。さすがに疲れ…」
「本当なのか!?」

ウッドロウさんにも驚かれてしまった。リオン君が引かれてしまう!私も一緒に歩いたことを伝えて、ヤバさのインパクトを薄めることにしよう。

「えぇ、えぇ。私も一緒に歩いてきたんです。こっちの吹雪ヤバイですよね~。途中で何回か寝かけましたもん。あはは」

ウッドロウさんの顔が強張っている。冗談めかして付け足した言葉のチョイスがまずかったようだ。おふざけは、時に凶器となる。

「ま、まあ帰りは船室で寝てる間にセインガルドに着くでしょうから安心ですよね」
「ファンダリアで会合を、などと軽々しく決めてしまったせいで、そんな苦労をさせてしまったとは、…すまない。後でリオン君にも謝っておかねば」
「謝らないでください!?私達が勝手にやっちゃったことなので!?そんな、全然…」

申し訳ない気持ちにさせてしまった!おたおたしている間に、茶々が入る。

『お前と違ってずいぶん真面目だな』
「うるせーやい!」

そして、しばらく沈黙タイム。居心地が悪~いので、ここは何か明るい話題で持ち直さなければ…。でも、王子と話す日常会話ってなんだ!?話題を……話題を!

「そういや!ジェノスでピンク髪の子と話してましたよね!?お知り合いですか!?」
「ああ、その子は……私の弓の師の、孫娘なんだ。とても慕っていてくれてね。セインガルドへ行くことをどこから聞きつけたのか、見送りにきてくれたようだ」
「へえ~。ていうか、弓を習ってるんですね。嗜みに狩りをするイメージが浮かびました」

お殿様が娯楽として狩りをするようなやつ。

「王族としての嗜みもそうだが、私は実際に武器としても弓を使っているよ」
「弓を!凄いですね」
「決戦では弓を用いながら、イクティノスを振るうつもりだ」
「凄い!」

弓と剣、どっちも使って戦えるって凄い!自分の語彙力の低さに絶望しながらも、どうにか沈んだ雰囲気から持ち直すことができた。ガッツポーズ。
ウッドロウさんからも会話の提供があり、なんやかんやでキャッチボールは続いていく。
気さくだが、ロイヤルな雰囲気を纏うウッドロウさん。ルーティさんから「一目ぼれでもしたのかと思った」と言われたことがよぎる。もし色々あって結婚!となったら凄い玉の輿だなあ。絶対無理ゲーだけど。早々に妄想を投げ捨て、会話に専念する。

「最近、ブラックホールを打つためにミクと波長を合わせる訓練をしてるんです。戦闘をした後、お互いに行動を振り返って、あの時はこうした方が良かった、あーしたらダメージをそこまで食らわなかったと反省会をするんです。ほとんどミクにアドバイスもらうんですけどね。考えを二人でまとめるので、結構シンクロ率が高まってきますよ」
「それは素晴らしい。ソーディアンと息を合わせる訓練…、私も試してみたいな」
「じゃあ一緒にお城の訓練所でやってみましょうよ!是非お手合わせ願います」
「あぁ、こちらこそ頼むよ」

ふと、目を細めたウッドロウさん。嬉しそうにも、寂しそうにも見える。

「……誰かと対等に話せるのは、いいことだね」
「ウッドロウさん」

王城ではみんな「王子」として接していたのだろう。こうやって気兼ねなく話せるのが新鮮なのかもしれない。

「そうですね、いいことです。…きっとスタン君やルーティさん、みんなも気軽に接してくれると思いますよ!」
「そうだね。……ナマエ君、ありがとう。君たちが仲間になってくれて嬉しい限りだ」
「いやいや、そんな!…そうだ」

どうせだし、他の子たちがどうしてるか探検にいきません?と提案すると、快く了承してくれた。船の中ってワクワクするよね。よし、みんなを探しに行こう!

『なんだこれは…いい話で締めおって』
『駄目なのか?』
『なんというか、いつもらしくない!』