審神者、危うし

※色々と混ぜ込んだ、ホラーらしきもの

我が本丸初の大太刀・石切丸を仲間にした。鍛刀した彼を早速具現化させる。初めて見る大太刀はどんな人なのだろう、と桜吹雪の中に現れた人影を心躍らせながらじいっと見つめた。
現れた石切丸は私を見て顔を険しくさせていた。
何故だ。戸惑い、心で悲鳴をあげながら彼の表情を窺うと、その視線が肩の辺りに向けられているのに気付く。…何かついているのだろうか、と肩に目を向けるも、ゴミや髪の毛などはついていない。困った、じゃあ私は呼び出して早々何かやらかしてしまったのだろうか。再度、石切丸に視線を向けてみた。険しさは抜け、逆に申し訳なさそうな顔をされていた。
「…すまない。会って間もないのに、怯えさせてしまって…」
そ、そんなことないですよ~私もジロジロ見ちゃってすみません…と返しながらも、じゃあ何があったんだ、と思った。おろおろとどちらともなく謝り出す私と石切丸さん。
「…気のせいだったみたいだ」
気のせいとは。私の表情がさらに固まるのを見て、石切丸さんはさらに「本当になんでもないから、うん!おそらくね」となんとも微妙な言葉をかけてくれた。苦笑いしておくしかなかった。なんと、『何かありそうな雰囲気』をかもし出していることか。
(そういえば)刀の神様で、みるからに神職みたいな出で立ちの彼。追求したらきっと「よくない霊が…」とか言われるはず。そんなもの、聞いてたまるか、要は知らないまま、分からないままにすればいいのである
審神者であるにも関わらずそういった話は苦手だった。いつぞやか、青江が怪談話をはじめた時なんか、そっと近侍をチェンジした時のことが浮かんできた。あれ以来「主って怖いの嫌いらしいよ、そういうかわいいところがあるなんて、夢にも思って無かったよ」と刀剣達に言いふらしているようだ。あいつめ…。思い返したら怒りが湧いてくる。
「主?」
石切丸さんが恐る恐る私を見つめている。そうだ、石切丸さんいたんだ。露骨に青江への怒りが顔に出ていたようだ。
私のほうがはるかに背が低いので、必然的に彼が私を見下げる形なのだが、なんだか大きな動物、熊なんかが自分の様子を伺っているように見えたので、おもわず吹き出してしまった。
もう一回「主?」と慌てられたので「ごめんなさい…、大丈夫です」と笑っておいた。
私は良くない事を忘れるのが得意だ。先程の、にっかり騒動しかり思い返すことはあるだろうが、きっとこの事も寝たら忘れる、忙しさで頭から消えていくはずだと思うことにした。

しかし、暫くしてまた同じ顔を見る羽目になる。

夜に夢見が悪かったのか、汗びっしょりで起きてしまった時のことだ。私はたまに悪夢かなにかで夜中に飛び起きることがある。夢の内容はあまり覚えていない。
今日もまた飛び起きてしまった。そういう時は水をとりに台所へ向かう事が多い。夢を見た直後だと言うのに、眠気よりも口の中が乾いている事が気になって寝付けないのだ。
自室の障子を静かに開き、本丸の廊下へ渡る。ひんやりしていて夜は気持ちいい。
しかし、暗い本丸を歩いていると、石切丸さんのいっていた事がやはり頭に浮かんでしまう。あれ以来、彼にこれ以上あの時の事は聞きださずにいるが、仲良くはやっている。穏やかな彼と何気ないことを話すのは、こちらまで心が浄化されるような気持ちになる。
しかし、時折彼がこちらを気にしているのが気にかかった。視線を感じるのだ。そういう時、私はあえて振り返らない。
…幽霊、か。その言葉が頭に浮かんだ際、ぎい、と廊下の音が鳴る。ぎくり、と体が固まるも、負けるかと足を進めた。
仮に私に幽霊がついているとしよう。だとしたら、なにかしら悪い運気でももたらすのだろうか。夜に起きた際は必ずこう考えるようにしていた。突然幽霊が姿を現しても、きっと大丈夫、だって、実体がないのだから危害は加えられないはず、そうに違いない。ただ驚かされるだけなのでは?悪いことをしたという覚えもない。祟られるなんて無いだろう。
私が怖いと思うのは、どこぞのホラーゲームの『実体のある』クリーチャーだ。アレは怖い。今度、そのゲームでも取り寄せて青江にやらせてやろうか。そう企てている中で、ぼんやり人影が見えた。驚かせるのは、やめろ。
寝間着姿の石切丸さんが廊下に立っていた。ほら、ちゃんとした人間、とほっとしたのも束の間だった。どうされたんですか、と言いかけたが、彼の表情におもわず口を噤んでいた。最初に会った時より険しい顔だ。いつもは穏やかな顔をしている石切丸さんが怒っている。
「私の部屋に来なさい」
戸惑う私の意思など無視して、彼は強引に私の腕を握り、自室へ引きずっていくではないか。ほら、怖いのはリアル!現実!っていうか、私、何かしたか!?
抵抗するも、刀剣の力には叶わない。引き摺られている途中で冷や汗がじっとり浮かんでくる。最悪の想像が浮かんだからだ。まさか、石切丸さんに限って。
「い、い石切丸さん!!ちょ、ちょっと離してください!」
小声で抗議しようものなら、やっぱり先程からと同じ険しい顔を向けられる。それに萎縮して泣きそうになりながらも抵抗した。
「何かしてしまったなら謝りますから!だからお願いですっ、手を…!…ん?」
「いや、離す訳にはいかない。…大体、どうしてこんな状態になるまで放って……えっ」
私達の言葉が重なった。こんな状態とは、どんな状態だ。私は固まった。もしや、例の、霊的な事、だろうか。私と同じように固まっている石切丸さん。彼は、私の首を見つめている。
「君は、気付いていないのか…!?」
「な、なんのことですか…!」
うろたえる私。彼は深刻な表情で、首元を相変わらず睨みつけている。
「……首に痣がくっきり表れているんだ」
まるで赤い蝶が広がっているような、ね。と石切丸さんは視線を落とした。背筋が凍りつく、震える手で自分の首を触る。首は驚く程熱かった。意識してみると直前まで誰かに締め付けられたような息苦しさを感じた。それに気付くと、急に気持ち悪くなった。体が揺れ、石切丸さんに倒れ掛かるも、彼は難なくそれを受け止めた。
「…すまない…急に気付かせてしまったようだね」
やっぱり、私は何かにとりつかれているのか。あの寝苦しさは、そのせいなのか。
「私は、どうなってるんですか…」
石切丸さんは答えるのに戸惑ってみせたが、意を決したように口を開いた。
「…おそらく、強い霊が君を黄泉へ引きずり込もうとしているのだと」

**

きれいな人が私に覆いかぶさって、「こっちにおいで」と蕩けるような声を発する。優しい手つきで私の首に手をかけてくるのだ。苦しくない。寧ろ心地よいと感じてしまう。こうなることをずっと前から待っていたような。「ずっと一緒にいよう」きれいな人は耳元で囁く。
「その声に従っては駄目だ」
凛とした声が空間に響いた。私に覆いかぶさっていた彼は灰のように掻き消える。表情を変えずに、私だけを見つめていた。気付かされて以来、最後のこの瞬間が頭に刻まれたみたいに、離れない。

**

次に意識を浮上させたのは、暗い寝室。首が熱い。…彼が呼び戻してくれたのだ。ここの所、やはり誘われる頻度が多くなっている。…どうしよう。そう不安がっていると、必ず手のひらに伝わる温もりに救われる。
布団の傍らには石切丸が心配そうに私を見つめていた。暖かな手で私の手を握っている。
「…石切丸、ごめん、ありがとうね」
彼の手に助けられるようにして起き上がる。差し出されたコップを手に取る。水を飲むと深呼吸をした。

**

とりつかれていると発覚してから、私は彼の加持祈祷を受けることになった。自覚してから寝苦しさの頻度は多くなっていた。このままでは命をとられる、と言う石切丸の言葉に従った。護摩を焚き、石切丸が祝詞を唱え始めたら、一心に願うのだ。
私がお願いして、彼を近侍にし、床を隣に並べてもらった。魘された際に起こしてもらいたかった。「いいのかい?」と戸惑われたが、「石切丸なら安心だよ!」と彼に言い聞かせる意味も込めて、そう言っておいた。神刀だもの。邪な思いなんて、抱かないだろう。
もしや夜伽か、と誤解されるのを防ぐ為に他の刀剣達にも説明しておく。

「霊にとりつかれている。放っておくと死ぬようなので、石切丸さんにボディーガードになってもらう」

短刀に泣きつかれた。よしよし、と順に頭をなでてやっていると、鯰尾が「何もないといいですね」とニヤニヤし出したではないか。
「何もないったら。残念ながら」
「えー!主ってば、残念なんですか?」
「君の想像通りいかないという意味で残念ってこと!!」
それを私の隣で見守っていた石切丸は困ったように笑っていた。
それから折角大太刀を仲間にしたのに、戦に出さず私の傍におくようになった。彼は、荒事は得意ではないしね、と言ってくれた。書類を一緒に片付ける日々。
「私には君の傍にいる事が大切だよ」
「本当に、…いつも有難う。石切丸」
祈祷を続けるにつれ、寝苦しさは減る。魘される時間も少なくなった。
「もう少しで、完全に祓えるかな」
護摩の近くでお祈りしている為、毎回汗をかく。この頃気候も暑くなってきた為、巫女装束に汗がはりついてくる程になってきた。
祈祷を終え、汗をハンカチで拭いながら、手ごたえを伝える。もうそろそろで、きっと。
「…そうだね」
私の様子とは反対に、彼は背中を向けながら穏やかに答えていた。

**

進展がなくなった。この頃焦りを感じ始めていた。週ごとに数えていた寝苦しさの頻度が変わらなくなった。
もしかして、と追い詰められるような想像が頭を占めていく。
でも、弱音を吐きたくなかった。彼は相変わらず真剣に祈祷をしてくれる。いつものように傍に居てくれるから。きっと、彼は諦めていない。
飲み干したコップを盆にのせると、石切丸に寄りかかった。こうしていると落ち着くようになった。石切丸は私を抱き寄せると、無骨な手で頭を撫でてくれる。再びまどろみ始めた私は安心して彼に体を預けていた。こうしていても、寝入った時床に寝かせてくれるのだ。彼は優しいのだ。
「ねえ、主」
「ん…?」
「一晩で完全に霊を祓える方法があるんだ」
一晩で霊を、祓える…?思いきり目をこすった。「あぁ、赤くなってしまうよ」と上から声を発する石切丸を見上げた。
何かを悔やんでいるようだった。目はいつものように、案じるように細められているというのに。
「君がいいというのなら、今からしよう」
「それって、どういう」
「君の体の中にね、私の霊力を直接注がねばならないんだ」
視線は真摯に私のほうへ向けられている。心なしか期待するように見つめれている気がする。
それって私達に危険はないの?と聞けば、「あぁ」と目尻を緩ませた。
「そんな方法があるなら早く言ってくれればよかったのに、じゃあ、それで貴方に負担を強いることがなくなるんだね」
ちょっと名残惜しいけど、と言葉を紡げば、「そうだね」と彼もそう思ってくれたみたいで、噛みしめるような声がかかる。
「…ありがとう。じゃあ、はじめますか…。で、どうすればいいんでしょうか」
「…寝間着を脱ごうか」
「え?…え、どこまで?」
指で髪を優しく梳かれながら、戸惑いで彼を見上げた。彼は愛しげに私を見つめていた。私の言葉に「ん?」と首を傾げる。なんだ、この展開は。
「あの、石切丸、その方法ってどうやるの…」
まさかな、いやまさか。
「人の男女が交わる儀式だよ」
まさかなーーーーー!!