審神者は別に世界を救う気などなかった。ただ、自分を認めてほしいが為に審神者になった。悲しいことに、人に語れるような素晴らしい人生を送っている訳 でもなく、何故生きているのかよく分からないまま、ただ生きていた。そんな中、謎の喋るキツネに審神者の才能を「貴女の力が必要なんです!あなたには悪と 戦う力があります。私と一緒に戦ってくれますか?」こんな風に見出されて、飛びつかない者はいないはずだと審神者は思い返す。
「審神者」は危険と隣り合わせだと、この時の彼女にはまだよく分かっていなかった。分かっていれば、飛びつく者などいないに決まっている。政府というものはかくも都合の悪い事を隠すものだ。
審神者はある日、謎の施設の前に立っていた。こんのすけの誘導に従っていたら、ここにいた。帰る方法はない。帰ろうとしても、同じ場所に戻ってきてしまう のだ。ホラーだ。親切に誘導してくれるキャラクターこそ「主人公にとっての悪かもしれない」という法則を実に体現していた。
謎の施設は、「審神者」になる為の訓練所だった。審神者は訓練所での日々を思い返す度に涙を流しそうになる。もちろん、自分を慕ってくれる今の刀剣達に悟られないように、人生で身に着けたスキルを生かしていた。
まず、審神者になるにあたって自分の好きな名前を名乗ることになった。どうやら本名だといろいろと困るらしい。例えば、呪い殺される可能性も。それは困った。そして自分でつけた仮名で呼ばれる日々。なんだかそわそわ。
訓練施設には他にも勧誘された者がいた。皆、審神者のように若かった。恐るべし夢の勧誘である。ここにいる者すべて、こんのすけにやられたと思えば、謎の連帯感も生まれた。
訓練施設では、体力づくりか何か分からないがランニングや護身術として武道を学ばされた。あまりよろしくない運動神経をみせると、ランニングを延々とさせ られる。講義では何故か歴史の勉強。特に刀について勉強させられた。どうやら審神者たちは刀に宿った付喪神を呼び出し、彼らを戦わせるようなのだ。こんの すけに勧誘された時のように希望に胸躍らせることはなかった。なにせ、死へ急速に向かっていく緊張感ある生活を送らされているのだから。
元いた 場所に戻る方法はただひとつ、歴史改変派閥を根絶やしにするのみ。彼らは時空を超えて歴史を改変しようと目論む人でなし。今まで培ってきた歴史、知識を崩 壊させかねない、処分すべき集団。タイムスリップ技術を駆使できる者がいる時点で「政府何やってんだ」という気持ちになる。歴史を改変する危険を唱えさせ られた。自分たちの祖先がなくなり、自分が知らぬ間に無かったものにされるとか。とにかく、マジで人類は危機に瀕している事を嫌という程叩き込まれる。実 際に刀剣を使った戦のDVDを見せられる。敵のことを知れと、化け物のような付喪神の映像を何べんも見せられた。審神者は胃が痛くなった。他にも誰か腹が 痛くなったり、頭が痛くなるも者、気分が悪くなる者、気絶する者もいた。
政府の名のもとの教育に反抗しようものなら、どこからともなくスーツを 着た男たちが駆けつけ、騒いだ者を連行。審神者が初めてこの光景を目の当たりにした時、ただただ呆然とするほかなかった。彼らは何日か経った後、決まって とても従順になって戻ってくる。なにがあったか聞こうものなら、無表情で「なにもなかったよ」と口をそろえるだけ。こわい。
この学校のような強制収容所で審神者たちはただ政府に従うのみだった。
とある日、彼女は地獄の訓練の中、初めて刀剣を呼び出すことに成功する。努力もクソもない「才能」のおかげである。今までの人生の努力とはなんだったのだ ろうか。審神者はそう感じる事はあっても、深く考えることはしなかった。絶望的な状況の真っただ中で考え事をする暇などない。寧ろ現実逃避をさせろ。