希望ある終わりへ

 共にスタン達を、国を裏切った僕ら。あいつから課せられた役目は果たした。マリアンは無事に天上へ向かうだろう。洞窟の崩れる音、海水が流れ込み、足を浸していく。地にシャルを立て、その場に座りこんだ後、ナマエも寄り添うように傍で足をのばした。

「馬鹿なやつ、ついてこなくて良かったのに」
「いいじゃないですか~。惚れた弱みですもん」

 からからと笑う、虚勢を張った女。戦いで負った傷が痛々しい。ヒールを打とうと思ったが、これからのことを考えると無駄だ。シャルに伸ばしかけた腕を降ろした。
 彼女は僕が客員剣士となってすぐ、新しく入ってきた兵士。一目惚れだったそうだ。ナマエ曰く、「王子様みたい、私が守ってあげたい!」と初めて会った時に頭に稲妻が走った、とのこと。この話をされた時点でこいつは馬鹿な女だと確定した。どう考えても僕の方が実力ははるかに上だし、守ってもらわなくて結構、いや、迷惑だとさえ思った。

「リオン様。私、あなたを守れた?」

 笑みを絶やさない彼女に、「そうだな」と返事をしていた。言って、驚くも、しっくりきた。シャルと僕だけだったら役目を果たせていなかったかもしれない。彼女は僕の決心を固めてくれた。

 土砂降りの雨が降る式典の日、僕を迎えに来たナマエは、全てを知ったうえで「リオン様に協力します」と迷うことなく決断していた。

「あなたの守りたい人を私も守りたい。…あなたも守りたい」

 飛行竜を奪う事を指示され、外で冷たい雨に打たれる中、ナマエは僕を抱きしめた。城から駆けつけてきたのだろう。外套を着ていたナマエの体温が暖かく、僕はそれに甘えることしか出来なかった。

 ねえ、となおも微笑んだまま、崩れゆく洞窟を見上げるナマエ

「騒動が何もなかったとして、…きっと、七将軍になった後、何がしたかったですか?」

 水かさが腰まで上がってきた。現実逃避がしたいのだろうか。

「強がっているのか?」
「まさか、怖くないですよ。あなたと一緒なら」

 満ち足りてるんです、私。ナマエは噛みしめるように、穏やかに目を瞑った。さっきから死への恐怖に怯えているのかと思い込んでいた。ナマエは後悔していないのだ。彼女の事を時間をかけて、知れたらよかった。そう、後悔。
 僕は、ナマエをここまで連れてきてしまったことを後悔していた。

「そんな顔しないで。」

 どんな顔をしていたんだろう。神の眼を奪った時も、飛行竜で体を休めている時もナマエは笑っていた。僕を励ましてくれた。それなのに、初めて悲しい顔をさせてしまったのが、今だなんて。
 これ以上悲しませまいと、笑おうとするも、上手く笑えているか自信がない。

「うわ、ぶきっちょな笑顔」
「人の努力を笑うな」

 笑顔は残念ながら出来そうにない。それでも、ナマエはじっと、目を細めて僕を見つめていた。
 少しして、「これで良かったんだな」と呟くと、「はい」とナマエは何度も固く頷いていた。

「さあ、未来のお話をしましょう。あったかもしれない未来のお話を…」