序章

とある老女は式神に頼んで5つの打刀を拵えた。新任の審神者がまたやってくる。彼らが選ぶ最初の刀剣は、熟練の審神者が政府から依頼され鍛刀している。だから顕現はさせない。

五つの内の一振り、加州清光は再び存在することになった。加州は沖田総司に振るわれ、池田屋の戦いの最中に折れた。自分だけ朽ち果て、沖田と最後まで共に在れなかった。その事実だけが残っている刀。まだ、事実を傍観するだけの刀。

「貴方達、主を支えてあげるのよ」

老女の慈しむような目、言葉、皴だらけの手が一本一本に添えられる。
刀達が老女の手により大切そうに風呂敷に包まれた。
そのタイミングでふらりとキツネが現れる。老女は彼に微笑むと、風呂敷を預けた。キツネは仰々しく礼を言うと、風呂敷を背負って闇に消えていった。

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キツネに抱えられた刀剣は、神職のような格好の男女が使い手になるようだ。一人ずつ加州以外の刀剣選び取っていく。大切そうに刀を抱える。加州は最後に 残っていた。キツネは「最後の一人はどうなっているのですか?着任時間をとうに過ぎています」と何かに向かって呟いていた。

「すみません、遅れました…!」

か細い声が聞こえる。女の声だった。キツネは「30分程遅れていますが、何かあったのですか?」と声色を変えずに問い詰めるように聞く。女はすくみあがりながら、「ごめんなさい…」と謝った。

「貴方は…、また躊躇なさっているのですか」
「……い、いえ」
「なら、審神者になるお覚悟はありますか」
「……あります!」

女は泣きそうになりながら、キツネを真摯に見つめた。

「…なら、この刀を手に取って下さい。この刀は今から、貴方の刀となります」

加州は震える女の手に収まった。女はそれを他の審神者と同じように、大切そうに抱えた。キツネはそれを見届けると、女に語りかける。

「この刀は加州清光。きっと貴方の支えとなるでしょう。彼を顕現させた後は、彼をすぐ戦場へ送り込んでもらいます。よろしくお願いします」

キツネは事務的な言葉を残すとどこかへ消えていった。
女は床に膝を折った。苦しげな表情だ。

「やらなきゃ」

加州には、それが彼女を縛る呪詛のように聞こえた。彼女の目は赤かった。目を手でこすると、重い息を吐いた。

…ごめん、そんなに強い審神者じゃないんだ。きっと貴方たちに迷惑をかけると思う。…もう弱音は、はかないようにする。…がんばらないと。
彼女の声が聞こえる。彼女の意思が聞こえる。
彼女は笑った。
これから、刀剣の皆の方が苦しくなる。だって私達なんかの為に戦うんだ。こんなのでも、仕えて、懸命に支えてくれるんだ。泣いてるひまなんてない。
…これから私は、強い審神者になる。笑顔の絶えない、みんなを支えられるような人に。…もう誰も、失望させないように。
加州にはその願いが聞こえた。それは自分を守ろうと、大切にしてくれるように感じた。でも自分は刀だ、誰かを守る為にある。このひとを――。
女は加州に手をかざす。ごくりと唾を飲み込み、祈るように目を閉じた。彼女の力が自分に注がれる。桜が吹き込んでくるのだ。花びら一枚一枚が、彼女の知識、彼女の意思。
とある風景が浮かんだ。ぼやけた誰かの背中が遠のいていく。男だろうか。彼女はきっと泣きながらこの背中を追いかけてきたのだろう。確信があった。自分の事のように思えたからだ。
弱い自分をないがしろにしてまで、ひたすらに審神者を目指したのだ、この娘は。

お願いです。私に力を貸してください。
――うん、いいよ。その言葉を皮切りに加州は自分の体が作られていくのを感じた。

俺は、貴方に好かれるように可愛いくて強い自分になりたい。貴方は、俺のことを好きになってくれるかな――?

「あー、俺は加州清光。川の下の子です。…あんたが俺の新しいご主人?」