「お前が倒したんだな」
「何のことですか?」
「とぼけるな……『女には不釣合いな黒い大剣を持っていた』と報告を受けたが?」
「きっと私をリスペクトした人がやったんじゃないんですか?ってか私には本当何のことだか」
私は視線をそらすと、おにぎりを頬張った。
ここの世界は日本の料理もあるし、材料も売っているので、普通に作れる。
この西洋風な世界観を見る限り、白米とはおさらばか、と思っていたが、美味しく頂ける現状。
中身の具も梅干というジャパニーズフード具合。舌がホームシックにならないね。
「だからっ…お前がホルム村に突如襲撃してきたモンスターを全滅させたのだろう、と聞いている!」
「さぁ」
「だったらこのケガは何だ!…そこまでして、ごまかしに来るな」
「ごまかし、は訂正して下さい。リオン君とお話したくて来てるんです」
「…っ!」
そう言い終わると、リオン君は頬をほのかに赤くさせ、きっと睨みつけてきた。何だか可愛い小動物に睨まれている感。
「貴様っ…そうやってからかうのは…」
『…隠す必要は無いのではないか?もっと誇ればいい、その貧相な胸を張れ』
「あ、いい具合の砂地があったな、確かここの近くに…」
『やめろ』
…さらっとミクが爆弾発言をしてしまった。後で生き埋めコース確定だ。
おかげでリオン君が過剰に反応しちゃったじゃないか。
「正直に話せ…」
「えーだって、リオン君怒りそうなんですもん…」
「いい年した大人が「もん」とか言うか」
『でもナマエならありだと思います』
「そうですよね、シャルよ有難う」
リオン君にこの事を話したら、なんで逃げなかった?とか兵士を呼べばいいものを、とかグジグジ言われそうだったから。ちょっとごまかしてみた。
「別に、…怒らない、ただ本当、お前は馬鹿かとは思ったが」
「ほらぁ!それぇ!」
『フハハバーカバーカ』
「ミク、…トイレに流してもいいのよ?」
でも思ったよりリオン君は怒らなかった。っていうか「はぁマジこいつ馬鹿だな…」という呆れ顔をしている。
「だが、無事で…良かったな」
『っ!?』
「まあ、…満身創痍ですけどね」
『坊ちゃんが…気遣い…人に…ッ』
『…お前はあいつをそこまで酷い人間だと思っていたんだな』
『えッ違ッ!!ただ純粋に…あれ?そうかも…?』
ソーディアン達は驚いた様子だが、私は普通に嬉しいなーと思いました。
「……僕がお前にここまでして認めさせたかったのは、村を襲ったモンスターの特徴を聞きたかったのもある」
『後はコイツの体が無事か心配でたまらなかったのだろ…ぐはっ!』
「あぁ、そうですね…そりゃ城の剣士だったら対策考えないといけないものね」
「…後は、王に謁見してもらう為だ」
「えっけ…え?」
リオン君はシャルティエを睨みつけると、私に向き直った。
私に村を助けた事実を認めさせたかったのは、色々理由があったそうで。ミクのコアを地面に叩き付けておいて何だが、…まぁツンデレ気遣いもあるんじゃないかなぁ!とは思うけど。
…でも王様に謁見するなんて、考えてもみなかったです。
「…それって自由参加…?」
「強制だ」
「ですよねー」
**
相変わらず討伐とかはチキン判断で避けてきたものの、その剣は何なんだよ、という周囲の目が厳しくなってきたのもあるが、討伐の依頼が増えてきたのもあって。
私は初めて、そういう依頼を受けてみてしまったのが始まりだった。
「オタオタが畑の野菜を荒らして困っている、何とかしてもらいたい」
ホルム村。という所からの依頼だ。村の特産品は野菜だそうで、畑が潰されちゃ、やってけないよ、とのこと。
丁度その村の人がクエスト登録しに、セインガルドの登録所まで来てた所に、私がやってきて、その依頼を受けたので、喜んで村まで案内してくれた。
「最近じゃ山の方の村なんかはサイノッサス、えーと猪がモンスター化したやつだね、それが畑を襲ってきてる~なんて噂、聞いた事もあるんだ、こっちはまだいい方かもしれないね」
「そうなんですか…でもオタオタ、結構退治したら暫くは畑も無事になりそうですね」
「うーんそうだね、そうなるといいけどねえ…期待してるよ、剣士さん!」
「はは」
『ふん、可哀相な奴らだ』
今までグチグチ、私以外聞こえない愚痴を言っていたミク。村人さんがいる手前、完全に無視をしていたが、
私達の会話の最後にズバっと言った言葉には、完全に同意をせざるを得なかった。
…私のクエスト達成率は100%だと受付のお姉さんが紹介してしまったせいで(この受付こわい)凄腕の剣士だと思われているからに、へっぽこな腕を見せたら「うわぁ」って幻滅されるんじゃないかな。
そんな暗い気持ちを抱えながら着いたのは、のどかな村だった。畑がいっぱいある。
木や花もそこらじゅう生えていて、心なしかマイナスイオンが満ちているような気もする。
「ここまで来て疲れたろう?あれだったら宿屋を使うといいよ、急がなくていいからね、剣士さん、…よろしく頼むよ」
「はい、お気遣い有難うございます」
その気遣いが胸を突き刺す。…苦笑いになりそうだったから綺麗な笑顔を作ると、村の人もそれに笑顔で返してくれた。またずきりと良心が痛む。でも気にしてられない、自分でやるって言ったもの。彼は細やかにそれからの指示を教えてくれると、「じゃあ、俺は畑仕事があるから」と向こうに見える畑に行ってしまった。
彼が去ってから、改めて周りを見渡してみると、やはり物珍しいのか、村の人全員が私に目線を向けているよ。
う~ん、居心地悪い!さっさとオタオタ狩りにいこうかな。
気恥ずかしさから、この場を去りたい私にミクが一言。
『貴様は馬鹿だな、手がかりもないまま彷徨うのか?』
「ミク…初めて良いこと言いましたね」
『私の言葉はどれも素晴らしいのだ!』
「はいはい」
そうだ、棲み処があるかもしれないし、ここは誰か詳しい人に聞いた方がいい。
畑を襲っているオタオタをピンポイントで狩りたいし、いつもどこから来てるかぐらい分かるんじゃないか?
そうと決まれば聞き込みだ―!と決めた時、「依頼を受けてくれた方じゃな?」と私におじいさんが声をかけた。…ちょうどガッツポーズをしていた所です。
「わしゃこのホルム村の村長じゃ」
「おお…村長さん、私に何か用でしょうか」
「オタオタについて話したくての」
村長さんだった。いかにも村長です。って感じだものね。
わざわざ出向いて、情報を教えてくれるみたい。良い人だ。
「どうやら最近になってここの畑を襲う理由は、村はずれの森からはぐれてしまったんじゃないか…と考えているんじゃ」
「…そうなんですか」
こちらも元の世界のように、食べ物が無い動物が山から降りてきて人里の畑をあさっているのかもしれない。
「オタオタは普通、モンスターにならねば人は襲わん、じゃからの、ちーとばかり東に居ついている彼らを元の外れの森に帰してやってほしい」
…そっか。畑を荒らしてるオタオタはモンスターじゃない、野生のオタオタなのか。
この世界では、生き物にレンズが入り込むとモンスターになって人を襲うようになるらしい。ヒューゴさんに教えてもらっていた。
だけど、畑を荒らすオタオタたちは人を襲わないから、殺す必要ないじゃないか、という提案に、はぁ…と感心で口をあけていると、村長さんは後ろのほうから何か袋を取り出した。
「外れの森に向かってこれを撒いて、の」
村長さんがにこやかな顔をして出した麻袋は、くず野菜がいっぱいに入っていた。
初めは退治の依頼かと思っていたが、何だ、モンスターじゃないのか。
がっかりしたような。でもそこまで危険じゃない依頼で良かったと安心してしまった。
私はるんるんと東へ足を進めていた。
「野生のオタオタでよかったあ〜」
『すっかり気が抜けているな、間抜け面』
「野菜撒いて、森に帰せばいいんですもん、ま、初退治依頼はまた今度って事で」
でもこういう依頼は初めてだから、ちょっとワクワクしている私。
野生のオタオタ…可愛いのかなあ!触っても攻撃しないよね?ちょっと舐めてもいいんだよね!?
「あ、青緑の…おお、群だってるー!きゃわいいー!」
『のんきなものだな』
早速青緑の丸いのの群が見えた。ダッシュで行きたいのはやまやまだが、おびえそうなので、早足で。
草食動物なんだろうね。すぐ私の気配を察知して警戒してるように、こっちを見始めたけど。それも可愛い。あの村の手先か!?みたいな会話が彼らの中でありそう。
オタオタの群にかなり近づいてきたら、普通の歩くペースに戻した。
そして、背負っていた野菜の袋を前に抱えた。オタオタは「えっ何コイツ餌もってるぞ」と戸惑っているように見えた。
「ほぅ~ら餌だよ~こっちにおいで~」
『用途を間違えるな!外れに戻す為の餌だろうがこの低脳』
「あ、そだったね~ミク良い仕事するね」
『くっ』
「なんで?」
ミクがさっきからまともな事を言っている。(一言多いが)
私は群の反対側に遠回りして、野菜をちょびちょびと手に持って、外れの森の方へ向かって落とし始めた。
オタオタは野菜に飛びつく。もぐもぐ食べてる可愛い。
「も~っ順番だぞお!ほれほれ!」
『気持ち悪い…』
「これがミクの最後の言葉だったなんて、私は思っていなかった…。あ~可愛い可愛い」
『おい』
野菜を撒くたび、ぽよんぽよんと跳ねては、野菜を食べていくオタオタ達。少しずつ少しずつだが、森へ近づいていく。
「この作業、病みつきになりそう」
私としては、ぽよんと跳ねて野菜に必死にくらいついてくるのがナイスなポイントかな。必死にっていうところが特にね。
しっぽふりふりしながらエサ食べるところも可愛いけど。
「ミクも可愛いって思わない~?私のオタオタちゃん達」
『お前のではないし、下等生物に興味はない』
「ひどいなぁミク…」
私達がオタオタのプリティポイントについて語り合っている時だった。
オタオタがわっと逃げ出したのだ。突然の事に「は?」と私はまさに目が点になっていると。後ろの方、森の方からすさまじい雄たけび。巨体が駆けるような地響きも、段々とこちらへ向かってきている。
嫌な予感しかしない。だからって現実逃避できないので、嫌々振り返ると、でっかいイノシシ、が森からこちらへ向かってきているのが見えた。
「うわーい、イノシシーー!!」
『おい!泣いてる場合か!この虫けら!!』
「分かってますよ!」
背負っていたミクを構えて、迎え撃つ為、腰を下げる。鼻に牙がついてるイノシシがもうこんなにも近づいてきている。
命の危険に晒されたら人は結構冷静になれるんだね。こんな状況も説明できちゃう。
『あいつは突進するしか能がない!あれを避ける際に一撃加えろ』
「高度な要求!」
ミクのアドバイスは鬼畜だった。しかしそれを実行するしか、他に考えらんない。戦術なんて私の頭にはない。
ぶもぅーーと叫びながら頭振って攻撃範囲を広げてくるイノシシ。確実に私を殺る気だ。
私もミクを構えて、走り出した。
そして無我夢中に、ミクを横に振った。血しぶきは無いが、…肉を裂く感触が手に伝わってきた。
『く…』
「あ…」
ほどなくして巨体が地に沈んだ。そして、煙をたて消え、残ったのは大きなレンズだけだった。
「はっ…やった…」
『やればできるものだな』
「うわあ棒読みですねーもっと褒めてくれてもいいじゃ…ふう」
どすんと地べたに座ると、安堵の息しか出なかった。
とりあえず私生きてる。どっこい生きてる。
辺りに散乱したくず野菜を眺めながら、あ、そういや…、とオタオタ達を思い出し、舌打ちした。
「薄情な子達だなあ」
『それはそうだ、誘導された所にモンスターがいて命の危険にさらされればな』
「まぁそうですけど!」
一匹でも残ってさ、私を庇ってくれても…まぁそこまで絆してないから無理なんですけどね。所詮草食動物よ。
『あいつらはあのイノシシに森を追われたんだろうな』
「えっ、ちゃっかり推理してる!!」
『馬鹿め、それぐらいすぐ分かるだろう』
「あなたとは違うんです」
…しかし。こんな事言ってる場合じゃない。依頼が!達成できてない!オタオタ!どっか行った!という事実に、はっと気付く。
「うへええ依頼どうしよーーーははっ」
『人は困難な状況に陥ると笑うしかない、とはまさにこの事だな』
「解説有難う、腹立つわ~」
仕方ない。謝るか。隣にぽつんとある手のひらサイズのレンズを持つ。
…このレンズに免じて許してくださいと言おう。
だって仕方ないじゃん。こんな森にでかいの居て…あ、でもオタオタの森の棲み処を解放してやったから、依頼達成なんじゃね?(間接的に)
「あ、何かそう思ったら大丈夫な気がしてきた、さぁ報告しにいこう!」
『自己完結したな』
そうやって村の方を振り返った時。私は目を疑ったのだった。
「え…何、あのイノシシ達」
村の方へ、イノシシらしきものが煙を上げて駆けていくのが見えた。まさか、この森から―?そう思って辺りを見回すと、森の上空から、殺気のするハチや鳥が出てきている。
さっきのイノシシは、あのイノシシ達と一緒に出てきた…?
『おい、村へ向かっているぞ』
「本当だ…村へ入って…!!」
『貴様!どこへ向かう気だ!』
私は村へ走っていた。それをミクが咎めるが、聞いている暇はない。
さっきのイノシシだって殺気立っていた。これは、村の畑を荒らす為なんかじゃない。
『セインガルドまで戻れ!』
「そんな事してたら皆が!!」
『お前一人でこれだけのモンスター、無理だ!!』
「やってみないと分かりません!!」