恋の手解き

 生い茂る花、さえずる鳥。あれは何ですか、と聞けばすぐに答えが返ってくる。三条派の刀剣は物知りだ。ざっくばらんな岩融や幼い今剣までもが雅に通じていた。歌仙が好みそうな派閥であるとつくづく思う。特に三日月宗近は絶対雅の塊に決まっている!だとか彼が言っていたけど、生憎だがうちの本丸に希少なやつはいない。きっと、こない。
 話が脱線したが、うちにいる三条派の中でも石切丸は結構な雅だと思う。花、鳥の名などは勿論。習字や、語彙力の低い私が「は?」となった言葉に解説までしてくれる。
 その代わりといってはなんだが、私は現代の道具や食事などについて教えている。鍛刀する際に審神者の知識が刀剣に引き継がれるようだが、どこかしらに欠損があるようだ。
 例えば、箸の使い方。刀を振るうのが本分である彼ら。だが、それ以外の経験が一切無い状態で具現化される。経験を積まねば、出来ないこともあるんだと認識させてくれた。私の箸捌きを見よう見まねで箸を持とうとする姿、おろおろする姿。私よりうんと年上。かわいいね。

「教えてほしいことがあってね…」

 お昼頃、石切丸が申し訳なさそうに私の部室を訪ねてくれた。本丸にきてから、暫く経っている彼。近頃そうやって教えを乞うことも無くなってきたのだが……。
 とりあえず座布団をやって、腰掛けるように促す。何が聞きたいんです?と声をかけると、彼は辺りを見回しはじめた。……なんですか、よくない霊でもいるんですか、と身構えるも「違うんだ」と慌てて座りながら弁解する。

「あまり相談できる刀剣がいなくてね…、主だけに聞いてほしいんだ」

 なるほど。とある夜の刀剣百物語が浮かんでいた。刀剣男士達がもちよる怪談ネタを聞く会を開いたのだ。その中でも群を抜いて石切丸の怪談話が一番怖かった。そのことを色んな意味で根に持っている私はほっと息をついた。
 それならと内緒話の要領で顔を近づけたところ石切丸に何故か赤面された。石切丸、どうしたの。

「……いや、何でもない。大丈夫だよ」

 首を傾げながら、じゃあ……ともう一回近づこうとした。おおげさなくらい、身をそらされた。

「だ、駄目だ!近づくんじゃない!」

 小声で両手をブンブン振られた。なんだこれは、傷つくなあ。そう口について出したら本当に申し訳無さそうに「すまない…」と謝られる。私の方が彼より小さいのに、怒られた子供のするような様子を伺う視線を向けられる。その内俯いてしまった。
 これはどう言ったらいいのか。審神者の言葉は刀剣達にとって影響力がある。言葉次第では不信に繋がる。大事な局面なのだろうか。慎重に言葉を選ばなければ。

「私の中の穢れが、抑えきれなくなっているんだ……」

 突然ぽつりと洩らされた言葉に、えっ、という言葉しか出なかった。あらやだ何……?うちの石切丸は何かしら拗らせていたのか。
かなり深刻な面持ちの石切丸。何を言えば正解か、という考えを放り出し素直に心配しだした。

「近づかないでくれ、君にも悪い影響が……ッ」

 そんなの関係ない。どれ穢れというのを詳しく教えてくれないか。私ならどうにか出来るかもしれないよ?そう言葉をかけると、石切丸が縋るような目を向けた。暫く黙した後、意を決したように口を開く。

「…最近、君を見ていると動悸息切れがするんだ」

 なんか「加持祈祷」みたいに言ったな、というより注目すべき所があった。……私を見ていると?先程の不可解な反応と辻褄があうような。自惚れていいのだろうか。

「笑い事じゃないんだ…! 日に日に穢れは強くなっている、このままでは君に、……なにかしてしまいそうだ」

 えっ私何かされちゃう…?なにかとはなんだ、と問いただす。これでは相談どころではない。

「そ、そうだな。こんな状態なのに君に触れてたいし、抱擁、したい、というか……。……っ答えないと駄目かい?」

 赤面し出す石切丸を詰問する主。やめよう。これではただのプレイである。
 ごめん、と謝った。私は正直に本当の事を話すことにした。話すといっても、私は彼を仲間の一人としか見ていなかった。だから、気持ちに気付かせた上でどうするのか自分で決めさせるのだ。
 やっと息を整えたというのに、説明するにつれ、考えるように手をやっていた彼は、さらに顔を赤くして私を凝視していた。時折「え?」「本当かい?」と戸惑いの言葉を口にする。知らないよ、そんなの私が聞きたいよ!

「じゃあ、私は君の事が好き、なのかい」

 多分ね! とこっちも恥ずかしくなり投げやりに答える。好きって分かります? なんなら少女マンガで学びましょうか!? そうしますか!?

「す、すまない……。好き、か……。暫く考えさせてもらってもいいかい……?」

 どうぞ! ご自由に! 考え終わったら、どうしたいか聞かせてくださいね! 私も顔が熱くなっていた。彼からそっぽを向くと、はああ、としょぼくれたため息をついた。
 彼らが体験したことのない「好き」という感情。これからどう扱うのか……。私もどうしたらいいか考えなくては。
 そそくさと去っていった石切丸。彼が座っていた場所を見つめる。神様の考える事が私に予想できるか分からないが、パターンと対策を……。そう思った矢先に、あ、と深刻なケースが浮かんだ。神隠しを提案されたら大変だろうなあ。もはや現実逃避しだしていた。