※タイトルで嫌な予感がした方は戻ることを推奨します。
※妊娠したような表現があります
分寮のダイニングで食事をとる少年。同じように夕食に箸を伸ばしながら、彼の隣に少女が座って、咀嚼の合間に会話する。行儀が悪いと自覚しながらも、少女はにこにこ嬉しそうに彼と話がしたい!と今日学校であった出来事を共有する。少年は穏やかな笑みを浮かべながら、少女の話に相槌を打つ。お互い食事を食べ終わるまでの、おしゃべりの時間。
付き合っているというのに、学校ではなかなか会話できないからこそ、分寮ではよく、くっつきあってしまう。「早く食べ終われよチクショー!」と時折順平の悲しい叫びが飛んでくる。それにお互い顔を赤くして苦笑い。
ふと、少年の皿が先に空になっているのを見て慌ててご飯をかきこもうとする少女。それに「そんな急かさないでいいよ。君の話がききたいし、ゆっくりで」と少年がはにかむので、「あ、ありがとう…」と少女は食べるペースを元にもどした。赤い顔の中、少女は再度、話を始める……。
少女も食事を終えた後は、キッチンで洗い物を終えて、各々の部屋に戻る。今日はタルタロスの探索がないから、ラウンジで影時間を待たなくていい日だ。
「湊くん、また明日」
「うん…また明日」
**
きりの良い所で夢が終わった。眠気が残っていないことから、仕方なくナマエはむくりとベッドから起き上がった。夢から覚めたら、内容を忘れないように日記にしたためる。
愛する人にまた会いたいと思っていたら、彼との夢を見るようになった。
ナマエは夢見たさに一日に何回も横になることを繰り返している。場数をふんだおかげで夢の中で好きなように動く術を身に着けた。シャドウに襲われるような悪い夢だったときは、逃げ回っていた頃と違い、ペルソナでボコボコにできるし、湊が夢に出てきた時は、思い切り彼と触れ合える。
寝る前は「湊くんに会えますように!」と願って眠る。そのおかげか湊の夢を見る頻度が多くなってきたのは良い兆候だ。
しかし、このところ起きている時間の方が少ないのではないだろうか。ナマエはペンを握りながら、真顔でぽつりと呟いた。
「もしかしたら、私の現実は夢なのかもしれない」
その言葉を、今日の日記の最後に記した。
**
ナマエは妄信していた、ずっと忘れずに、愛した人を悼み続けることが彼への想いを表しているのだと。そうすることでかえって湊を悲しませている自覚はある。けれども、想い続けることをやめられなかった。
卒業後は美鶴が率いるシャドウワーカーの仕事を手伝っていた。
シャドウワーカーは警視庁に設立された特殊部隊であることから、シャドウに関連した危険な事件に出動することが多い。
ナマエは出動要請があれば必ず応じていた。美鶴やアイギスに心配されていたが、ナマエは湊とのつながりであるペルソナ能力にすがっていた。事件を解決し、人々を助けることが湊の望んだ平和な世界に近づく。このつながりが無かったら、もうこの世界にいる意味が無かったかもしれない。
ただ、出動要請は頻繁にあるわけではない。だから、何もない日は眠ることにした。
ナマエは今も湊と過ごした巌戸台を離れることができず、思い出に縛られたまま。閉鎖された巌戸台分寮に戻って、一人で生活している。ラウンジや皆が使っていた部屋は何の家具もなく、埃が溜まっている。
かつての自室に生活できるように家具家電を持ち込んだが、いつのまにか散らかった部屋になってしまった。でも寝る分に問題はないので、片付けずにそのままである。ナマエは仕事・眠ること以外関心がなくなっていた。
今日も仕事があれば朝イチでかかってくるスマホが鳴らなかったことから、ナマエは二度寝を決め込むことにした。
**
「湊くん」
夢の中でナマエは湊のベルトに提げられた銃の入ったホルダーをつかむ。呼び止める時はよくそうしていた。半袖だと掴むところが見つからなかったから。
タルタロスへ向かい、帰るまでのやりとり、夏までは楽しかった。そんな記憶が影響してか、登場する人物は夏制服の姿が多い。この頃はまだ「有里くん」呼びだったけれど、夢は都合よく構成される。
「なあに、ナマエ」
「明日部活行くのかなって。もし行かなかったら、湊くんと帰りたいな」
「ん、大丈夫。一緒に帰ろう」
月の光を背にほわりと微笑む湊。手を差し出してきたので、迷うことなくその手を握るナマエ。
「ありがとう。……あ~今日もシャドウ、いっぱい倒したね。寮に戻ったらぐっすりだ」
「ふふ、そうだね。ナマエはよく寝る子だから」
「あれ、子ども扱いされてる?」
いつもだったら、ここで「そうだよ」なんてからかわれるはずだが、湊はやけに心配そうに、眉をひそめた。
「心配なんだよ。このところ、ずっと眠ってばかり」
「…そうかもしれない」
「負担なんだろう。僕のこと、忘れていいんだよ」
絡めた指が離れていく。言葉の衝撃に立ち止まるナマエ、振り返ることなく湊は歩みを進める。このままではいけない、と駆け寄って、湊の肩を掴んだ。
「いいわけない!私には、湊くんだけなんだよ。ずっと…湊くんしかいないの…に…」
段々と言葉が詰まる。泣きそうになっているのは、湊の顔がにじんでいるからだ。年々湊の顔が思い出せなくなっている。写真は毎日眺めているのに、そらで湊の顔が浮かばない。
湊はナマエの思いを分かっているのか、それが当たり前だと言わんばかりに頷く。
「それでいいんだ。忘れるのが君の為なんだよ」
「いやだよ…!貴方にすがって情けない大人になったって分かってる。でも、会いたい…夢でもいいの」
「ナマエ」
ナマエは湊への想いが止められない。湊は、言葉を考えるように口にした。
「……僕だって夢で君に会えて嬉しい。でも、このままじゃずっと君の苦しみは終わらない」
「苦しみがなくなるとしたら、貴方に会えた時だよ」
ナマエが泣きながら言葉を放ったその時、湊ははじかれたようにナマエを見つめた。その目は歓喜にきらきらと揺れている。
「私なんてどうなってもいいの。ねえ湊くん、……会いたいんだよ」
「分かった。……そんなに想っていてくれたんだね」
湊はナマエの傍へ寄りそうと、こぼれる涙を指で拭う。そして、胸に抱き寄せた。
「僕がナマエに会いに行く」
「本当に?」
「待っていてくれる?」
「うん、…うん、待ってる」
湊に抱きしめられた感触が暖かい、まるで二人、一つになっているようだ。ナマエは心地いい感覚に身を委ねていた。
**
起きて早々、日記帳を放って、部屋の洗面台に頭を突っ込んだ。げほげほとせきこむ。えづいて苦しいというのに、ナマエは笑っていた。
「おかえりなさい湊くん」