悲しい未来を知っているから

この愛想のカケラもない男の子が年若くして死ぬ事を知ってしまった。

なんというか、わかってしまった。この子は親に殺される、捨て駒。それは誰かを人質にとられたために仕方なかった…。仲間を裏切って、洞窟みたいなところで、ひとり、濁流にながされ

「おい!大丈夫か?」

真剣に心配してる顔。そんな顔もできるんだな。鼻から流れてきたものを指で拭う。あ、血だ。
私は鼻血を出して倒れた。

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第一印象はあからさまな子。
婚約が嫌そうだなって気配は感じていた。けれど、二人きりになった途端に

「ヒューゴ様はああ言っていたが、僕は見ず知らずのやつに興味はない。この婚姻は形だけのものになると思え」

って、そりゃあないよ!
というか、ヒューゴ様?父親ではないのか?
…まあ、そんな事よりもそっち(ヒューゴさん)が是非ともと言って来たくせに、この仕打ちはなんだ?私の方から願い下げだと言うならまだしも。

「じゃあやめた方がいいんじゃない?そんな事言うならエミリオ君から断ってくれたら良かったのに」
「それは、駄目だ」
「どうして?ヒューゴ様に言われたから?」
「…ッ」

事実を指摘すれば、きつく睨まれる。図星か、と思いながら「ごめんごめん」と両手を上げておいた。
冷静さを保つことに努めながら、どうにか婚約破棄できないものか、と考えを巡らせる。
子供なりでも、考えることに越したことはない。

「…あなた方の面目を保つ為にも、こうした方がいいかも。…婚約はしておくけど、一年後くらいにこちらから破棄しましょうか」
「……」
「面倒だけど私に他にいい人が現れた体でね。…私からしたら知らない他人にそう言いきれる君にはちょっと興味あるけど、これで丸く収まるね、よかったね!」
「…ふん」
「感謝の言葉も無いんだなあ…」

私より年下の少年は、黙って俯き、拳に力を入れていた。

父には一年経っても彼に対して、私の気持ちが動かなかったら婚約破棄します、という話をしておいた。
お互いに上客のような立場だからこそ、困ったような顔をされてしまったが、なんだかんだいって娘に甘い父なので、分かったと頷いてくれた。ヒューゴさんにも話を通しておいた、とのこと。

帰りの馬車で、こんな事言われたよと正直に話す。なんて子だ!と言って欲しかったんだろうな。だけども、父は私の意に反して「寂しい子なんだろうな」と彼を案じるような言葉を呟いた。

「お母様を先立たれたのは知ってるけど…。あ、でも、そういえば彼、父親を様付けで呼んでた」
「そうか、…ヒューゴさんは、厳しい方だからね」
「だからって、部下みたいな呼び方って、ないんじゃないの」

いつの間にか彼を庇っているのは私になっていた。父にまんまと乗せられたのかもしれない。そう思って口を噤んでいると、父は笑ってみせた。

「一年後はどうなっているんだろうね、楽しみだ」
「笑い事じゃないよ…」

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父親は投資家だった。それも凄腕の。伸びると判断したビジネスに投資すれば、それの当たること当たること。見返りに倍近くにお金が戻ってくる。
ギャンブルみたいなものではあるが、人を見る目があるのだろう。目を見るとピンとくるんだって。…運ですね。

家の跡を継がせそうと父は一人娘の私を交渉の場に連れて歩いていた。
数々の取引現場を見て、人を見るって大変だなーと思いながらも必死で食らいつこうとしていた。
最近はオベロン社によく出資をしている。ヒューゴ邸に赴くのがしばしばだ。

なんでも、オベロン社がここまで栄えるようになったのは父のおかげらしい。
私が生まれるより前のとある日、自分に出資してほしいと頼んできた男がいた。切れ者の雰囲気。面構えはいいんじゃないの?と一目見て思っていたようだ。

だが口に出した事業内容は突飛なものだった。
レンズという魔物が排出する気味の悪い欠片を利用したビジネスを始めるという。
レンズは魔物を生み出す原因なのは分かっているが、どう扱えば良いのか分からず、放置しておくわけにもいかないので、たくさん集まればその都度、それらを燃やしていた。

それを利用できたら面白いけれど、世間は気味悪がっているしろもの。父親は悩んでいたが、自分の勘を信じてガルドを出資することを決意。

のちに彼は民の生活の軸を支える程のレンズ技術を開発し、各地に支店をもつ、オベロン社を設立することになる。

想像した以上の見返りを与えられ、父はオベロン社お抱えの出資者となることになったのだ。