「では、共に戦ってくれるという事だな」
「よろしく頼むよ」
学校の理事長室。私と理は課外活動部に参加することになった。結局説得できなかった…。だからこそのこの結果である。
病院から起きて、話しかけていたが、だんまりを通された。
「弟くんの働きに期待しているよ。勿論、君にもね」
返す言葉もなく、はあ、と言葉を漏らすしかない。桐条先輩、理事長に言葉だけで歓迎されるも、ゆかりちゃんは、複雑そうな顔をしていた。
先に理事長室から出て行った理を追いかけて、今度は襟首を掴むことにした。「離して」と言われるも、素直に離すやつがいるか。
「…理、本当にいいの」
「どうでもいい」
「良いわけないでしょうー。ちゃんと考えてから決めてよ…」
「考えた」
「ええ…?あんな短時間で…」
「ナマエがやるならやる、それでいいだろ」
「……私の為ってこと」
基本的に言葉が足らない。理は多分、と呟く。おいおい。肩を落としながらも、襟首を掴む手は緩まず。しかし、理は歩みを進める。犬を連れて散歩しているような感じに。
私の事が心配なのかな、とは思うものの、どんな思いで私が参加するからと、理も活動に参加することにしたのか。詳しい気持ちが知りたい。…考えさせたい。
「考えて。なんで私が参加するからって、理も参加することにしたのか」
「どうでもいい…」
「自分の気持ちを理解するのは大切だよ」
それらしいことを言えば、ため息をつかれてしまった。やっぱダメかな…と諦めかけた時に理の小さな声が廊下の中を響いた。
「そもそも、参加して欲しくなかった」
目を瞬かせた。理の表情はこちらから伺えない。
「ナマエが目の前からいなくなるのが嫌だ。それなのに勝手に参加するって言うし。…やるのは俺だけでいいのに、なんで、自分から危険な目に突っ込んでいくんだ」
「…ごめん」
思わず謝ってしまった。いなくなってしまうんじゃないかって恐怖は知っているけど、実際にいなくなった絶望を、理は知っていた。
じゃあ参加をやめろ、といわんばかりの目線を向けて、振り返る理。怒り、悲しみ、感情のこもった目。
『勝手だ』あの言葉、今聞いたなら違う風に聞こえただろう。理は、何も考えていないわけじゃない。自分の意見を持ってないわけじゃない。強い想いを感じた。もう、理に辛い思いをさせたくない、と思った。
言葉を待つ理に、「でも」と呟いた。
「私達みたいに襲われる人の事を考えたら、参加しなきゃって気持ちは変わらない」
「…そうだろうと思ってた」
理は私から目を背け、廊下を真っ直ぐ見つめた。
「…ナマエは俺に自分の気持ちを考えろって言うけど、俺が何を思っても、言葉にしても意味なんてないじゃないか」
「意味はあるよ!」
いつの間にか立ち止まっていた。再度振り返ってくれた理の目は、何かを期待しているように感じた。息を吸う。一気に思った言葉を畳み掛ける。
「私は!理の気持ちを聞いて心配してくれたのが分かって嬉しいって思った。それに、理を残して絶対死なない、寧ろ死んでたまるか!とも思った。だから意味はあった!」
「……そんなの、どうなるか分からない…」
「大丈夫!無理せずやってくし、危なかったら即逃げるし、…絶対、理を悲しませないよ」
大丈夫、大丈夫だから、と笑ってみせる。黙り込む理。期待に叶う返答になったかな、と心の中で問いかける。
「…理も、自分を大切にしてね。何回も言ってるけど。私だって、理にいなくなって欲しくないから。…参加するなら、絶対生きてよ」
「……頑張れたら」
「頑張ってよ!」
そっぽを向かれてしまった。多分、理はもう振り返らない。何を言っても適当に返されそう。でも、振り返る前の理。いつもは無表情で死んでるような目も、輝いていたように見えたのは気のせいじゃないといい。私の願望かもしれないけど。
「うおーい理!!ナマエ!!」
順平君の弾むような声が聞こえてきた。いつもの事ながら、いや、最近かなりテンションが高い。
「俺もお前らと同じ寮、住むことになった!」
…分寮って課外活動部の人しか入れないんじゃなかったっけ。それが示すこととは…?
ーーー
だから順平君がウキウキだったのね。
再び荷物を持って寮へ帰ってきた所、順平君も活動に参加するという事で、分寮に引っ越してきた。
まだ怪我で復帰は難しいという真田先輩が順平君をスカウトしたらしい。どうだ、と言わんばかりに胸を張る順平君にすごいじゃん!と言おうものなら、真田先輩がすぐに種明かし。影時間中に見回りしていた所、象徴化せずにビビって震えていた所を保護したらしい。
白ける場。影時間、怖いのは分かるよ!!と元気付けておく。
それだというのに、順平君、活動部にスカウトされてすぐにOKしたとか。
桐条先輩に鼻の下を伸ばしている順平君を眺める。参加を決めた理由はなんだったのと聞いてみれば、ヒーローみたいじゃん、と返された。確かにそうかもしれない。張り切っているなあ。
先輩方は、人数が揃った、ついに挑めるな、などと話していた。先に探索していた先輩方はさすがに、色々知っているらしい。シャドウが巣食うというタルタロスへ案内してくれることに。…ここから外へシャドウが出てるんですかね、と聞いてみる。桐条先輩はおそらくな、と答える。
順平君にからまれている理は私に目をやった。なんとなしに頷く。心配してるんだろうなあ。分かる。今なら分かる。
タルタロスは、学校の敷地から生えていた。影時間だけ出現する塔。
「一番上に到達したら、何があるんだろ」
頂上には親玉がいて、そいつを倒せば晴れて街は平和に…なんてことになればなあ。
「ラスボスがいてそいつ倒したらゲームクリアー!って感じじゃね?」
「ほんと、単純…」
「そんなもんじゃね?なあ理」
私も単純だよ、ゆかりちゃん…。軽口を叩きつつも、みんなの手にはそれぞれに用意された武器。ホルダーに装着した召喚器。月光に光る、銃に模したそれに乾いた笑みを浮かべた。
ペルソナを召喚させる際、生死に向き合うのがオススメなので銃に型どった、…とのこと。
…戦うと決めたが、そもそも召喚できるか。
既に召喚を成功させている上に複数のペルソナを宿せる可能性もある理。先輩方は理をリーダーに推した。さすがにもう何も言わない。無茶をしなければいい。それに、いい機会かもしれない。…順平君は凄い不服そうだが。
入り口をくぐってエントランス。ホテルのロビーみたいにピカピカ…。その傍に桐条先輩はバイクを駐車させた。影時間中に走れる上に、探索中の通信機器も兼ねているようだ。ここで待機して戦闘の指示をしてくれるらいし。…そう、実戦経験のある先輩方二人は初戦に参加しないのだ。
肩を落としていると、理はどうしてるだろと探してしまう。クセみたいになってきたなあ…。理は柱時計のある方向をじっと見ている。何かあった?と聞けば「さあ」と返された。
豪華な階段を登った先、ここからシャドウの出現する迷宮に挑める。
何回かここから塔へ登る事を試みた先輩から、助言。入る度に中の形状が変わる。脱出には中にあるオブジェクトから。シャドウはお金を落とす…。うん?
「準備はいいか」
「あ、はい!…ってリーダーが返事するべきか」
「……大丈夫です」
のそのそと扉へ向かっていく理。こないの、とばかりに振り返る理を見て、負けるかと顔を引き締めた順平君、ゆかりちゃんが歩みを進める。私も後に続いた。
いつの間にかエントランスの光が消え、おどろおどろしい部屋に立っていた。振り返っても出口はない。ひ、ひえ〜。…一回脱出できるなら、脱出して安全確認してみたいな…。身震いしながら、周囲を確認していると、通信音のようなノイズが鳴る。
『…聞こえるか?』
桐条先輩の声。…ちゃんと通信してくれるようだ。理が返事をする。
「はい」
『階段を目指して進んでいってくれ。…その前に、敵のお出ましのようだ』
黒いドロドロがこちらへ這いずって来ている。シャドウ、人類の敵…。
早速こめかみに召喚器をあてる理。躊躇いってもんがないな、と驚くも、そりゃあそうか、と納得してしまう。なんたって、殺されるかもしれないしなあ。私もそれに真似て引き金を引いた。
ガラスが割れるような音。現れたのはあの時見た神様。それと、私の前に立つのは、白黒のツタに絡みとられた女神。名前はーー
「ペルセポネ」
あの時みたいだ。この子の名前が分かっていた…。
「オルフェウス」
理の声で語られた琴を持った子は、オルフェウス、か。私達を守って、と念じれば彼女は強力な風を放つ。オルフェウスも炎を吐き出した。
弾け散るシャドウ。…それを見届けるように、彼らは消えていった。
『二人とも、見事だ。引き続き上を目指して探索を続けてくれ』
はあ、と息をはいた。少しだけ疲れたのは、気力を使ったからだろうか。汗を拭う。
「……平気?」
「理こそ、大丈夫?」
顔を合わせる。頷く。
「…すげー…こりゃ負けてらんねえな…」
「…私も、結城くん達に頼ってるわけにはいかない…」
二人に火をつけたみたいで。次の戦闘では二人ともペルソナの召喚に成功していた。
その後幸運にも道中に脱出用のオブジェクトを見つけ、一回帰ることに成功。そして、再度挑戦。
召喚に成功した勢いか、コツを掴んだみたいに、皆でシャドウを蹂躙していく。薙刀を握る力がこもる。普段の自分ではできないようなことに、やだ、と目を背けようとしたが、ひしひしと感じた。なんだこの高揚感は。
あんなに死の恐怖に駆られていたのに、いざ自分が戦う術を持ち、倒せるようになれば、力を持っている事に浸ってしまう。
自分の気持ちの豹変に怖くなった。自分の力を過信しない。力っていったって、たまたま私にもできただけ。努力で身につけたものでない。握った手に爪を立て、息を深く吸ったり吐いたり。
わたしの様子を見かねてか、理が剣を片手に歩み寄ってきた。大丈夫、と声をかけられ、すかさず笑顔を作って頷く。
「大丈夫。…それより、理、あの黒いペルソナはもう出せないの?」
「何それ」
「助けてもらった時召喚させてた子」
「分からない」
理は理で、戦闘中に別のペルソナを召喚させていたが(いつの間に)タナトスは召喚できなかったようだ。…本当にあれは、何だったんだろう。