ベッドで何回も寝返りを打った。眠気はないのに、なんとなく寝ていたい。朝からずっと目をつぶりながら後ろ暗い気持ちに追われている。どれくらい時間が経ったのだろう。枕元のケータイを開くと、十一時を示していた。深いため息が抑えられない。朝食を食べてから三時間ほど時間を無駄にしている。「あーもう!」と声をあげ起き上がり、締め切っていたカーテンを開けた。
昨日のモノレールでの戦いは色々ありすぎた。順平君とは仲が良くなってきたなと思っていたのに、彼の理への嫉妬の気持ちに気付けなかった。自分一人でなんとかできると車内を突っ走しった順平君。理やゆかりちゃんの背中を追いみんなの力で大型シャドウをなんとか撃破し、理の機転でモノレールの衝突は免れた。
私たちが追いつくまでに、大型シャドウ相手に一人で戦い、ピンチに陥ってた順平君。「まるで、命を懸けて戦ってるみたいじゃんか」という彼の言葉がまだ頭に残っている。順平君は今までタルタロスでの戦いばかりで、命の危機に瀕することがなかった。…今どう気持ちを整理しているのだろうか。
それに、影時間に適応できない人たちは私たちの戦いを知らない。モノレールを停止できたとはいえ、突然前方車両ギリギリの所へ現れた車両に対して、原因究明するよりも事象の落とし所をつけるように世の中は動くようだ。結果、無実の運転手が捕まった。誰かの人生に悪い方向に関与してしまった。思い返してしまう度に体の奥が強張る。もっと早く止められていたらと、どんどん理想の「こうだったらよかったのに」が浮かぶけれど、過去は変えようがない。「誰も犠牲にならなかったから良かった」と強引に納得した。私たちがいなかったらたくさんのひとが事故で犠牲になっていた。だから、良いことをしたんだ。そう思わないと立ち止まってしまう。振り返って動けなくなる。タルタロスにはまだ上の階がある。シャドウはどんどん強くなる。
シャドウが関与した事故。理の時と同じだな、と思った。あの事故がシャドウの仕業だって理に伝えてどうなるんだろう。どうしたらいいのか。
部屋に閉じこもっていると延々と悩み続けそうな気がした。何かしよう。強迫観念のようだが、「神様」に縋ることにした。寮から歩いて、教えてもらった長鳴神社へいこう。
勇気を出して部屋を出て、そのままラウンジへ足を進める。誰もいないといいな、と思った。どんな顔をして彼らと会えばいいのか。
✳︎✳︎
そう、昨日の帰り道は連戦に疲れ果てたのもあり、みんな話す気力もなかった。朝起きて、いつも以上に軋む体を無理やり動かし、料理を作って理を迎えた。「昨日はお疲れ様」と言い合いながらテレビのニュースをなんとなしに見ていた。深刻な顔のキャスターが映る。モノレールの事故の重大さを示していくごとに画面を直視できなくなっていた。単純な私は、一気に崩れ落ちる。ニュースを見たのが朝ご飯を食べ終えた所で良かった。もう食欲がない。私の正面に座る理は眠そうにご飯とウインナーを交互に食べていた。ニュースを見ながらも、ご飯を完食していて、安心したような、でも逆に心配にもなってしまった。何も感じてないはずないよな。「でも、衝突しなかったから良かったよね。みんな助かったね」と自分にも言い聞かせるように呟いていた。理がこくりと頷いたのに、ほっとした。
✳︎✳︎
階段を降りて、ラウンジへ着いた時、ソファに人影があったのに体が一瞬、硬直してしまった。
「ナマエ」
「…理か」
私の方へ顔を向けたのは理だった。情けないながらほっと息をつく。
理がラウンジにいたのが意外だ。誰かに会いたかったのだろうか。……順平君と鉢合わせしていたら、どんな会話になったんだろう。順平君が言いそうなこと。…「ありがとうな」?それとも「ごめん」?
最後、理は順平君を頼って(と私は思っている)大型シャドウへのとどめを任せていた。学校生活や戦いを通じて、理は、順平君と絆を深めていたのだ。最初は色々あったけど、丸く収まった…ような気がする。それでも順平君が悩んでいたら、彼の気持ちに向き合ってちゃんと話し合うべきだと思う。理は、言葉が非常に足らない。
「どこか行くの」
「あぁ…前に言ってたでしょ、神頼み。やっておこうかなって思って」
「ふうん」
なんとも興味のなさそうな声だ。人に会って、急に一人で行くのが心細くなってきた。急遽、理を誘うことにする。……答えはきっと「YES」だろう。そう思うと心が落ちついていく。
「一緒にいく?」
「いいけど」
「よし、…あ、財布持ってる?」
お賽銭は必須だと思ってる。それにいいお守りがあったら買いたい。理が頷いたので、「じゃあ出発しよう」とロビーの扉を開き、外に出た。いい天気。世界は何もなかったように平穏である。私たちはこの平穏を守ったのだ。そうそう、その調子。二人並んで、神社への道を目指す。
「この道で合ってるの」
「う…大丈夫。ちゃんとパソコンで調べてます。徒歩15分だって」
「ふうん」
「やっぱ頼りないかぁ…」
「……そうは言ってない」
「あはは、ありがと。まあ任せなさい!」
この道を歩いていけば着く…はず。理が知らない分、私が案内するのだ。今こそ転入初日の借りを返す時。己の胸を叩けば、隣からため息をつかれた。
「無理するなよ」
「……うん」
昨日のことがあってか、無駄に元気にふるまっているのは自覚していた。やっぱり心配されてるんだな。「ごめん」と心の中で誤り、肩を落として、何もしゃべらずに歩を進める。途中に公園で遊んでいる子供たちの姿が見えた。元気だなあ。しげしげ眺める。理も彼らを見つめている。友達同士、仲良さそう。…友達。
「あのさ、昨日の順平君のこと、気にしてる?」
「……別に」
「即答じゃない、よかったぁ」
喜ぶ所がおかしい気がするが、即答じゃないってことは、思う所があったんじゃないか。私の言葉に見るからにむっとしてみせる理。笑顔の私。
「まあ確かに理はペルソナ複数使えるし、特別って感じだよね。やる気ないままリーダーにされちゃうし」
「……」
「でも、順平君も、それに嫉妬して、自分一人でもやれるって突っぱねるのはよくなかった。…吹っ切れてるといいんだけど」
「……分からない」
「だよね。一回ちゃんと話した方がいいと思う」
「話す……」
「私が順平君と話してみるから、理にも一緒にいてほしいなあ」
しばらくして、静かに頷いた理に、ありがとう、と伝えた。