最後は神頼み

体調は良くなり、ぽつぽつとタルタロスや部活にも復帰し、体力もついてきた。理のおかげだ。

「ナマエ、ミシン、好きだったでしょ」
「うん?」
「ファッション同好会を見つけた。興味があったら見てきたら」
「えぇっ!」

理によると、学校帰りに校内をうろうろしていたら、家庭科室の張り紙が目に入ったようだ。そこから部長…いや、同好会だから会長か。そこで会長のべべ君(フランス人らしい)と知り合ったようだ。
ミシンで服を作っているらしい。

「そうなんだ!わあ、参加したい!」
「うん」
「折角のファッション同好会だしスカートとかバッグでも作ろうかなあ。あ、ブラウスもいいなあ」
「良かったね」
「うん!教えてくれてありがと、理ってば学校内の事よく知ってるんだね。偉いなあ」

今日はタルタロスへ向かう日だ。ラウンジで理とテレビを見ながら深夜0時を待っていた所で面白そうな話をされ、私は一人、ハイテンション。

「ナマエが入るなら、俺も同好会に入るから」
「えっ…理も?」

唐突の参加宣言。理が無心でミシンを動かす姿を想像した。う、うーん。前の高校の時は特に興味なさそうだったのに、何故…?

「また体調崩さないか見てる」
「うっ…わ、分かったよ。理もちゃんと参加してよね…」

献身的にご飯を作ってもらった事を楯にされちゃあ言葉も出ない。
私達のやり取りをみていたのか、ソファに座っていた順平君が身を乗り出してきた。

「結城姉弟って…めちゃくちゃ仲いいよな」
「え…!そうかな…?」

ギクリと体が固まる。久しく感じていなかった、体が冷えていく感覚に襲われる。

「俺の知ってる兄弟って仲が悪いとこばっかだからさ、なんつーかスゲーいいなと思って」

明るい意味の言葉に、思わず息をついた。茶化すような言葉ではなかった。
今までは、よく私達の仲をからかわれてきた。『二人してべったりだし、顔も似てないし、本当に兄弟?』なんて、心無い言葉たち。

「…そっかー。順平君て一人っ子だっけ?」
「そうなんだよ。お前ら、仲がいい家族が近くにいていいよな」
「有難う。…褒めてもらったね、理」
「ん」

嬉しい言葉をもらい、理の方を向けば、素直に頷いていた。

「そろそろ出発するぞ」

真田先輩、桐条先輩、続いてゆかりちゃんが階段を降りてきた。3人とも神妙な面持ちに思える。
時計を目にすると、秒針が0時へ近づいていた。時を刻む音が頭に残る。
針が0時へ止まり、時計は停止した。緑がかった光が差しこみ、私達は武器を手に立ち上がった。

✳︎✳︎

「最近、またシャドウが活発化しているな」
「また、ですか」
「お前たちが最初にシャドウと対峙したあたりも外に出るくらいに活発になっていたからな。周期があるのかもしれん」
「そうなんですね…」

真田先輩のつぶやきを拾い、そういえば、と思い返す。シャドウ…理や、理のご両親を襲った犯人。それにしたって、昔はムーンライトブリッジまでシャドウは出てきていたのだろうか…。その頃から誰かがシャドウを退治していたのか?それに、理だけは何で助かったんだろう…。もしかして、あんな小さい頃から、棺に象徴化せず、逃げる事が出来たのだろうか。

「はあ、着いた。…あ、早速時計と対話してる」

エントランスに着くと、理は時計に歩み寄る。そして、ぼうっと立ったまま動かなくなった。恒例の光景である。
理に「何で時計見てんの」と聞いても「さあ」とはぐらかされ続けている。私達はこの数十秒を「時計との対話」だと思うようにした。

しばらくして、気が済んだ理を先頭に、タルタロスの中へ侵入した。

最初の階層のシャドウは瞬殺できるレベルになっていた。順平君が「テレッテッテ〜」と自身の力のつき方をゲームのレベルアップに揶揄していたけど、分かる気がする。
自分の力の付き具合が、なんだか面白くもある。頑張って敵を倒した分だけまさにレベルアップしてるようだ。努力が確実に報われるし、万能感も満ちてくる。…これにハマったらいけないよなと時々確認しないと怖い。

ゲームといえば、シャドウには弱点もあるようで、桐条先輩の分析により、このシャドウにはこの属性で攻撃すると弱点をつけるといった決まりがあることが分かった。それにならい、前に遭遇したことのあるシャドウには弱点をつける攻撃を理は指示するようになった。なんと、効率的。

ただ、弱点は私達にもあった。

「な、…ああっ…!!」
「ナマエ!?」

今日は新たな階層に進み、順調にシャドウを倒していっていると思っていたら、全体属性攻撃を使うシャドウに遭遇した。攻撃を避けきれずまともに喰らい、頭がチカチカする感覚に膝をつく。今の、火炎属性の攻撃…?
立ち上がれなかった間に誰かシャドウを仕留めたのか、戦闘が終わったようだ。斬撃とともに、シャドウの呻き声が聞こえ、気配が消えた。

「ナマエ、大丈夫!?」

ゆかりちゃん達が駆け寄ってくれた。理が手を差し出したので、それに甘えて引き上げてもらった。

「まさか私にも弱点があるとは…」
「もしかしたら、俺たちにもあるかもしれねーよな…」
『おい、聞こえるか?…結城、大丈夫か?』

桐条先輩の通信が聞こえた。

「あっ、はい、…不甲斐ない感じになってしまってすみません」
『無事ならいい。伊織の言う通り、私達には特定の属性に弱点があるようだ。…リーダーもペルソナを切り替える度、弱点も変わっている』

先輩にメンバーの弱点属性を教えてもらったところで、変わらず真剣な声で言葉を続けた。

『弱点を突かれ、ダウンする事もあると思うが、お互いにカバーしながら先へ進んで欲しい。特にリーダー、やはり君の能力はタルタロス探索の鍵となるだろう。頼んだぞ』
「はい」
「有難うございます、先輩」

一言だけ簡単に返事をする理にかぶせ、お礼を伝えておいた。

「ちぇー、理ばっか特別扱いかよ」
「何、アンタ羨ましいわけ?」
「別に…」

順平君の呟きが後ろから聞こえた。ゆかりちゃんは呆れたように返したけれど、私はなんと言えばいいのか分からず、聞こえなかったふりをした。それに、いつものような軽い呟きだと思っていた。

「一回帰ろう」
「えー、早すぎない?先輩が言ってたようにフォローしながら進めば大丈夫でしょ、理も敵の弱点突くペルソナで…」
「怖いんだ」
「……大丈夫だよ。私は理を置いて死なないよ」

声をかけてきた理。手をひらひら振っていたら、思ったより深刻な言葉がかかり、やっと彼を見た。タルタロスも独特の色の明かりで照らされてなんとも言えないけれど、多分、顔色が悪い。

「大丈夫、大丈夫。みんなも強いし、リーダーを頼りにしてるからね」
「……」

黙り込む理。再度、リーダー!と呼びかけた。理は顔をしかめながら、こちらを見つめた。

「…絶対、無理しないで」
「うん、分かってるって」

…この後、理がガンガンペルソナを使いに使い、気力切れで帰ることになった。おかげで誰もダウンせずに、まあまあ階層を進めたけれど、これでは理がいつか倒れるのは目に見える。
それで、「無理してるのはあんたでしょ」と強く言っても無視される始末。

「ほらあ、ちょっとふらついてるし」
「……」
「私だって悲しいんだからさ」

理は順平君に肩を借りて、帰路についていた。バイクをひく桐条先輩、真田先輩、後ろをゆかりちゃんが歩いていく。残りの三人は彼らの後ろを横に並んでゆっくりとついていく。時折前の三人はこちらを振り向いて待っていてくれる。影時間では先輩の特製バイク以外は動かない。おかげで、歩いて帰るまでが探索になっている。

「お前、なんとか言ってやれよ。ナマエ姉ちゃん泣いてんぞ〜」
「…」
「あ、チラっとこっち見た」

だんまりを決め込む理だったが、順平君の言葉により、こちらを見て、その後彼に頭突きをした。

「いてぇっ、…大丈夫だって。装備やアイテムも整えてるし、それに正義の味方は絶対勝つってな」
「あ、それ分かる。良いことしてるんだから私達絶対大丈夫だと思うよね」
「だよな!」

ゲーム脳の私達は比較的なんとかなる!という思考だが、現実的なゆかりちゃん達(多数派)にはやっぱり信じられないのか、「えー、ナマエもそういうこと言う?」とか、真田先輩からは「二人とも、楽観的になりすぎるなよ」と苦言を呈されてしまった。
少しの間二人して目配せして黙った後に、順平君がぽつりと呟く。

「他に現実的な対策ってなんだろうな」
「う、うーん、身体能力の向上とか?部活もうちょっと頑張るとか…。順平君ってなんか部活入ってたっけ?」
「お?課外活動部だけど?」
「えっ?……えっ?」

部活とは何だったのか。私もここに所属してるなら、テニス部に入らなくてもなんとかなったのじゃなかろうか。
それは置いておいて、他の案も考えてみる。気力の節約?シャドウの根本的な弱点追求?二人で挙げてみるも、どうやってそれを行うのか見えてこない。

「…えーと、あとは神頼みくらい…?」

もはや投げやりである。多分この後ゆかりちゃんにつっこまれてしまう…!

「全然現実的じゃないじゃん…。あぁ、でも近くの長鳴神社って結構ご利益あるみたいだよ」

やっぱりつっこまれた後、ゆかりちゃんの言葉に飛びついた。

「いいね!何のご利益があるの?」
「たしか…学業成就と金運と病気治癒だったかな」
「うーん」
「なんか…俺ら的にはパッとしねーけど、行かないよりは行った方がいいかもな」

大願成就!とかそういうのを期待していた。
私も順平君と同じことを思ってしまった…!ごめんなさい神様。本当にごめんなさい…。
なんやかんやで信心深い心を持っているのか、心で拝んでいた。