夕ごはんを食べ終わり、後片付けを手伝う刀剣の面々。山姥切も見よう見まねで片付けに加わるようになり、たどたどしい手つきで皿運びを手伝っている。
戦場から帰ってきてからずっと、主が何かを我慢しているようだ。そわそわしている。顔も赤い。あれは、何か言いたそう。それに、きっと良い事だ。黙々と食器を洗う安定がそう考えていると、食器を拭いて、棚に戻していた鯰尾が口を開いた。
「ナマエ様、何か発表したそうな感じですね」
「それに、…凄い良いことの予感」
「あぁそうだな、…なんとなく分かるよなー。…いや、分かりやすいのかな、あの人は」
「…そうなのか?」
「山姥切さんもじきに分かるようになりますよ~」
みんなのように、なんとなく何を考えているか分かる程度には審神者のことを知れているんだ、と安定は最初の頃を振り返る。今の山姥切のようになんで笑うの、泣くの、よく分からない、と思っていた。でも、今は理解できるようになった。それは良い事なのだと思う。だが、不義をはたらいているような後ろめたさも感じる。
「みんな、片付けありがとう。ちょっとお話があります」
居間に呼び出された。正座する審神者は顔を赤らませ、既に満面の笑み。安定は周りを見渡した。審神者の表情を見てそっと微笑む加州。鯰尾はあからさまに期待でニヤニヤしている。小夜は俯いて、頬を赤くさせている。山姥切は無表情で審神者を見つめる。
「ねんがんのお給料をみんなに配れます!」
ナマエの言葉に、歓喜する一同。(あきらかに、山姥切が戸惑っている)安定の視線は宙を浮いて、ふと、審神者の所で止まった。嬉しそうに何かしゃべっている。それを見て、胸がじんわり暖かくなる。でも、ぎりぎりと締め付けられるように痛くもある。
「えっと、安定君?…大丈夫?」
相槌もせず、ぼうっと自分を見つめていた安定を心配するナマエ。何を言えばいいのか分からず、安定は俯いてしまった。苦しい、と胸の内で呟く。
「……」
「あー、大丈夫でしょ。俺が後で教えとくし、話進めちゃってよ、主」
「…そ、そう?分かった」
加州が安定のフォローをして、この場を取りなした。安定は何をやっているんだろう、と自分に怒りを覚えながらも、どうすればいいのか分からなかった。
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「明日買い物行くって、聞いてたのかよ」
部屋に戻るやいなや、苛ついた声色の加州が安定を咎める。
「……ごめん」
「……素直過ぎて、怒るに怒れないじゃん」
加州ははあと息を吐くと、いつもの調子に戻る。「何かあった?」と優しく聞いてくれるから、安定はそれに甘えることにした。
主と触れ合うのが怖い。沖田君に悪い。それだけそっと呟くと、加州は難しい顔をして返答を考え始めた。
「……沖田君は沖田君、今の主は主って割り切ればいーじゃん」
「…でも」
その後の言葉が続かないことを確認して、加州は諭すように喋り始める。
「俺たちは主を好きになるものなの。特に主は不器用なりにも頑張ってくれて、守ってあげたいっていうかさ。…とにかくそうなるわけ!でも沖田君はさ、俺たちを刀としか見れなかった。審神者じゃないからね。だから…」
「亡くなる前の沖田君と話したこと、あるんだよ」
「は…」
誰もいない床の間。長い間ずっと布団に横たわっていた沖田君を見守っていた。安定は語る。
沖田総司が亡くなる1日前。彼は傍に置いていた大和守安定の付喪神としての姿が見えた。安定はずっと沖田総司の側で泣いていた。刀も握れない細い腕があがり、安定のだんだらをつかむ。
彼は「懐かしいな」と目を細めた。
「使ってあげられなくてごめんね」
「……僕は、沖田君が僕の主で幸せだよ」
幸せだったよ、とは言わなかった。
加州は言葉を失う。自分は戦場で折れた、だが安定は彼を看取るまで側にいた。沖田君を忘れられない、という言葉に重みを感じる。
「だから、どうしたらいいのか分からないんだ」