※「そんなやつだったのか」と同じ、男装夢主です。
校内を歩く学ラン姿のリーゼント、すなわち風紀委員。ブレザーが生徒の制服である中、黒づくめの彼らは異質な存在であった。彼らは校則違反に厳しく、もし背いてしまった場合は暴力による制裁が待っている…。
俺に声をかけてきたミョウジさんも学ランを着た風紀委員。しかし、数々の悪評を立ててきたリーゼント達とは、まったくの真逆の風紀委員だった。細身でショートヘアなのは、あの雲雀さんみたいだけど、もっとおっとりしてて笑顔も浮かべるような人。(凶悪な笑顔じゃないよ!)
学内をよく見まわっており、柔らかな雰囲気、気さくな対応から色んな生徒から慕われている。…ミョウジさんは、『ダメツナ』とからかわれている俺を、とりわけ気にかけてくれた。
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「沢田君、はい、焼きそばパン」
「え、あ…」
クラスメイトのパシリにされていたところ、目的の品をそのクラスメイトの前で差し出してくれたのが出会いだった。
「これからは沢田君に頼るんじゃなくって、自分で買いにいきなよ?あ、キミ、お金ちょうだいね」
一応(失礼ではあるが、本当にそんな風に見えないのだ)風紀委員に入っているミョウジさん。あの雲雀さんにチクられたらどうなるかわかったもんじゃない。クラスメイト達は早々に彼にお金を差し出し「すんませんっした!」と逃げていった。俺に差し出した焼きそばパンはまだ、彼の手の中にあった。
「逃げちゃった。…食べていいのかな、これ…」
「…あ、有難うございます」
「いや、何もしてないよ。それより、お腹空いてるよね。半分食べる?」
断る理由もないので、恐る恐る頷いてみた。彼は袋を破ると、焼きそばパンを半ば強引にちぎり、袋に入ったままの方を俺に差し出す。頭を下げて受け取る。いただきまーす、とパンを頬張り始めたミョウジさんを真似て、俺もいただきますとつぶやいた。
「優しいんですね」
「そういうわけでもないよ。また大変な目にあったら私たちに頼ってくれていいからね」
「…ええっ風紀委員の方にですか…!?…って、ああッ!!い、嫌じゃないですよ…?」
「まあ、頼み辛いか。あの風貌だもんね、大体」
俺の心からの心無い言葉にも嫌な顔一つせず、素直にうんうん、と同意されてしまった。
「でもね、風紀委員って風紀を守るために存在してるのだから。皆きっと、さっきの沢田君をみたら、なんとかしなきゃ、って思うよ」
なんとかしてくれそうなのは貴方だけだと思うよ…!他の人にはきっと、俺がダメだから、弱いからそうなるんだ、なんて言われそうだ。簡単に想像できる。
「…そう、なんですね…。ありがとうございます…」
やはり、それが引っかかるものの、頷く以外の選択肢は無いので笑顔を作っておく。…うまく笑えている自信はない。
そんな俺を見ても彼はにこやかに笑う。
「また話そう。私ならいつでも話しかけられそうでしょう。っていうか私から話しかけるし」
「ええ!?ミョウジさんが俺に!?いや、そんな、恐れ多いですよ…」
「あはは、怖くない怖くない」
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「沢田くーん、調子はどう?またちょっかいかけられてない?」
「ミョウジさん」
廊下を歩いていた所、向こうから笑顔で手を振られる。正直、彼はいい人そうなのだが、委員会が委員会なだけになんとなく苦手意識があった。しかし、彼をあえて無視するなんて事は出来ず、無難に頭を下げて立ち止まる。
「あれ以来そんなにはパシられてないです」
「そっかぁ、よかった!学校はどう?楽しい?」
「た、楽しいかどうかはちょっと…」
「そっかあ、楽しくなるといいけどな。沢田くんは友達はいる?」
「とも、だち…」
「ああ、私はまったくいないんだけど。でも、色んな人と関わるだけでも楽しいよね。
恭弥とか草壁さん、風紀委員の子、たまに話しかけてくれる物好きな子たち、後は見回りの時よく会う猫好きな女の子…みんな友達って訳じゃないけど、関わるのが楽しいんだよね」
思い返しているのか、ナマエさんは上の方を見ていた。目元を緩めて、本当に楽しそう。
そう思える人に俺は会えるのかな。
「沢田くんにもそう思えてもらえたらいいなあ」
ナマエさんの言葉を聞いて、胸がきつく締め付けられた。
「…ありがとうございます」
「えー?お礼言うところ?…ま、そんな人たちにも出会えてほしいよね」
沢田くんのまわり、ざったな感じだから。ナマエさんが続けて笑顔で発した言葉。よく聞き取れなかったのと、意味が分からなかったのとで、曖昧に笑っておくことしかできなかった。
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「へえー今日はそんな困難があったんだねえ」
「はい…もうちょっと自分でなんとか出来たらいいんですけどね…!」
それからというもの、ナマエさんとよく話をするようになった。
世間話といえば、今日はこんな失敗をしてしまって、なんて暗い話が主だ。
「…あの」
「うん?」
「こんな話ばかりで、嫌になりませんか…?」
「別に?…最近、沢田くんはその後になんとかしようとジタバタしてるじゃない?
「じたばた…」
「うん、だから聞いてて楽しいし、凄いと思うよ」
たしかに、話せる人がいると話しているうちになんとかしようと思うようになっている気がする。ナマエさんのおかげだ。
「よかった…」
「なんだか、自己評価低いんだね。自信持て、自信」
「うぐっ…」
晴れやかな笑い方とともに厳しいお言葉はふりかかる。口ごもりながら、こういうのっていいなと思った。
誰かと話して笑いあえる、こんな中学生活を送りたいと思っていたんだ。
「そしたらもっと中学生活が楽しくなるとおもう」
「自信、ですか。でも、降って湧いてくるもんじゃないですし…」
「できるようになった事が多くなれば自ずとついていくもんだよ。…そうだ、今度勉強でも見てあげようか?」
思わず声を上げて驚く。オーバーなのは自覚しているけど、ナマエさんは慣れたのか、それを指摘することはなくなった。
「休みの日に学校においでよ、マンツーマンでみてあげる」
「いいんですか…?」
「もちろん」
なに、この学生っぽい休みの過ごし方…!!
「じゃ、じゃあよろしくお願いします…!」
「うんうん、それじゃ、いつにしよっか?」