※「季節のお話」のIF/同人誌のWEB再録
海辺だから涼しいと思っていたけれど、そうでもなかった。強い日差しは平等に降り注ぐ。首筋に汗が伝う感触。ハンカチ、鞄の中を探そうとしたけど、すぐ諦めた。日陰のない岩場を立ったままだ。汗をぬぐっても無限ループになるだろう。うちわ代わりにノートを顔のあたりであおぐも、海から吹き込む湿った風を運ぶだけ。
「蟹がいそうだ」
「いるかもねえ」
屋久島でも蟹と戯れていたような気がする。ごろごろした岩を持ち上げて、磯に隠れた蟹を探し始めた。それを見守りながら、何の用だったんだろうな、と想像する。
**
終業式が終わって、風花ちゃん、夏紀と夏休みの予定について話していた。
「この日は家族で旅行するの」
「マジ?怠そうだけど大丈夫?」
「そうだね、ちょっと気まずいけど、折角計画してくれたから…」
風花ちゃんの家族は彼女に歩み寄ろうとしているのか。複雑だろうが、風花ちゃんとって、いい旅行になりますように。間違っても気を遣わせるようなことをするなよ、家族、と心の中で毒づいておく。
それにしても、家族旅行か。理が家族になって、しばらくはどこか連れて行ってもらっていたけれど、中学校くらいから、そういうのしなくなったな。
「断ってもいいのに。…ま、そこが風花らしさか。口直しにその後の日、遊びに行かない?」
「本当?ありがとう、夏紀ちゃん!」
「ナマエも一緒に遊ぼうよ」
「え!行く行く!」
「前日にメールするからね。集合場所とかも決めよ」
その日どこに行こうか、という話になり、楽しみで目を細めた。友達がいるっていいな。
この後寮に帰ったらゆかりちゃんをつかまえて、夏休みの予定について聞こう。ゆかりちゃんとも遊びたい。
他に休みの間にやりたいことはないか、と思い浮かべるも、夏らしいことは屋久島で済ましてきた。パッと思いつくのは、友達と遊ぶこと、タルタロス探索に、大型シャドウ退治。どうも後半が物騒だが、それもそれで楽しいから仕方ない。
タルタロスの探索が楽しい。学校生活も充実している。課外活動部に入った頃は、戦いを楽しむのは良くないと思っていたが、ゴールが明示され気が楽になっていた。楽しいものは楽しい、それでいいと思う。タルタロスの謎も登っていくにつれて明かされたらいい。
ただ、順調すぎて怖くなるときがある。ふとしたきっかけで、風船のように幸せが弾けてしまいそう。
なんてったって、あと6体、大型シャドウを倒せば影時間も消える。気を抜かないように。そうすれば、大団円が待っている。…理のご両親も、少しは浮かばれるはずだ。
だから、戦いが終わるのを寂しいだなんて思ってはいけない。そんなもの、終わってしかるべきなのに。
少しでもそんなことを考えた私を戒めるように、乾いた熱風が全開になった窓から吹き抜けた。
ホームルームが終わり、さっさと帰れと言わんばかりに冷房が切られた教室。それでも、クラスのみんなはグループごとに話すのに夢中。ガヤガヤと騒がしいけれど、みんな浮かれるのも仕方ない。もう夏休みだものね。
「ナマエ」
雑音だらけの中に、聞き覚えのある声が響いた。理の声だ。理が私の名を呼んだのか?目が覚めるような感覚に陥る。周囲を見渡すと、廊下からこちらに視線を向けている理を見つけた。二人に「ちょっとごめんね」と告げ、理に声をかけに行く。
「どうしたの?何かあった?」
呼び出してくるなんて珍しい。理はじっと私を見つめている。
ふと、中学・高1の頃を思い出した。廊下から呼ばれることはなかったが、見つけてくれるのを待っているように廊下の壁に背を預け、ヘッドホンをしながら音楽を聴いていた。一緒に帰りたそうにしていた、と思う。友達に揶揄われて、あまり叶えられていなかった。
でも、ここに来てからは、理も理で友達が出来たり数多の部活や同好会、生徒会にも参加して、お互いに一緒に帰ることがなくなっていた。良い変化だ。
だから今日だって、一緒に帰りたいという訳ではないだろう。
そう考えながら、理の言葉を待っていると「海が見たい」と言われた。何故、海?
「突然どうしたの」
「…海の近くに行きたいんだ」
言い直しただけではないか。そこにツッコむも、やはり目当ての回答はもらえなかった。
この間屋久島に行ったばかりなのに、海と言われてもなあと思いながらも、あてはある。あまり人が来ない、「秘密の場所」とでも言うべきだろうか。初めて人に案内することになる。
頑なに「海」「海に行きたい」と言う理に、紹介しないで終わらせる選択肢はなく…。
「…分かった。じゃあ、ついてきて」
名残惜しいが、風花ちゃんたちに別れを告げると、学園の玄関へ向かうことにした。
理はどこに行くのか問わず、黙って私の後ろを歩く。なんだか先頭に立つのが慣れない。ついてきているのか、たまに振り返ってしまう。
海へ向かう間、見知った顔と鉢合わては立ち止まることになる。
廊下を歩いていると、ゆかりちゃん、順平君に「ナマエ、一緒に帰ろうよ」「腹減ったしどっか寄ってこーぜ」と声を掛けられる。あいにくだが、寄るところがある。そう伝えると、「そっか…じゃあ私、先帰るね。バイバイ!また寮でね」とあっさり帰ってしまう、ゆかりちゃん。一緒に来てもらってもよかったのに。だが、引き止められる程、凄い場所に行くわけでもない。言葉を飲み込み、私も手を振る。
「ゆかりッチ、俺も俺も、一緒に帰ろーぜ」
「うわっ!ついてこないでよ!」
「ひどッ!冷たッ!」
順平君を振り切ろうと走り出すゆかりちゃん。それを追う順平君。ぱっと振り返って、「二人とも、またな~!夏休みエンジョイしろよ~!」と手を振ってくれたので、私もそれに応えて笑顔で手を振った。廊下を走っていく二人を見送る。微笑ましい限りだ。
「あら、岳羽さんと、伊織君…だったかしら。元気ね」
「沙織ちゃん!」
図書委員で一緒の沙織ちゃんも彼らが走っていった後を見送っていた。彼女に歩み寄ると、優しい笑みを浮かべられる。
「なんだか久しぶりな感じがする」
「そう、ね。私もナマエちゃんに会いたかった」
口走っていた言葉に同意され、思わず笑みをこぼす。一緒に委員の仕事をしていたけれど、彼女の柔らかな表情がまた見られて、何だか嬉しい。
「あなたがナマエちゃんの弟さん?」
頭を下げる理に、沙織ちゃんは言葉を続けた。
「よくナマエちゃんから話を聞いてるわ。最近、貴方が楽しそうで自分も嬉しいって…」
「沙織ちゃん!その話はやめようか…!?」
「あら、ごめんなさい」
ふふ、と小悪魔のように微笑まれては、怒るに怒れない。隣に並ぶ理の表情をなるべく見ないようにするも、肩を震わせている気配がする。堪えられている。沙織ちゃんはそんな理をにこにこ見つめていた。
「いいわね」
「…どこらへんが?」
「二人で肩を並べられて、とても幸せそうで。…あぁ、私行かなきゃ、バイバイ」
さっきまでの笑みのままなのに、どうしてか寂しげに見えた。何か言う前に、彼女は私たちの横を早足で通り過ぎていった。振り返るも、下校する生徒の中へ紛れていく背中を見送ることしか出来ない。
「何かあったのかな」
「急ぎの用でもあったんじゃないか」
「そうだといいけど」
心配は杞憂だといい。気を取り直しながら階段の踊り場へ出て、1階へと降りていく。降りた所で運動着姿の理緒と出会った。渡り廊下に向かっていることから、テニスの練習に行くんだろう。「理緒、自主練するの?」と聞けば、当り前のように「うん」と元気のいい返事。
「付き合って…って言いたいとこだけど、まあいいか」
「どうしたの?」
「夏休み中に合宿があるから、その時にとっておくね」
思い出した。そういえば何日か続けて練習して、その後田舎の高校との交流会があったような。凄い…きつそうだけども、理緒がずっと「合宿」にはりきっていたのを覚えている。部員のみんなも「しゃーない、理緒のために頑張るか…」みたいな雰囲気だったような…。試験が続いてしばらく部活に出ていなかったせいか、「…ような」が続いている。
合宿先では旅館も予約していたと聞く。これは絶対に行かないといけないやつだ。
「はい、行きます」
「そんな堅くならないでよ。アンタ、弱いけど、筋はあるからさ」
「うーん、あるのかな!?」
ここに来る前、ほぼ文化部で過ごしてきた私は、運動部に入らざるを得なくなり、テニス部の門をくぐった…のだが、練習終わりにはヘロヘロになっていた。部活をした日はタルタロスに行けないくらいぐらいの疲労。だが、練習を行う度、シャドウ退治をするごとにスタミナがついていき、テニス部の練習を乗り越えられるようになった。…が、試合でどうにも勝てない。経験の差だと思いたい。
「ちなみに、隣の子は…?」
私の後ろで手持無沙汰にしている理に目を向ける。即座に弟だと伝える。今のテニス部は何かと恋愛色が強い。勘違いされてはたまったものではない。
理は頭を下げるのみ、理緒も黙って頭を下げると、急に私の腕を引っ張った。なんだなんだ、と言う間に理と距離をとり、理をちらと眺めた後、声を潜めた。
「なんというか…結子の好みに近くない?」
「え?そう?」
「あ、違う、か。…な、何でもない!今のナシ!」
男子陸上部マネージャーの結子ちゃんは面倒見がよく、テニス部によく顔を出していた。彼女は好みのタイプを「線が細いけど運動神経もいい美少年」と断言していたのを思い出す。それを理に当てはめるとなると…。私も理をちらと見る。線はまあ細い、それに運動神経もいい。だが、美少年かはどうだろう。理緒に向き直り、思い切り首を傾げると、顔を真っ赤にさせてしまった。もう一度言う、テニス部は恋愛色に染まっている。だが、それをきっかけに理緒と他の部員が打ち解けた。恋愛は悪いものではない。だが、あまりに縁がない。
「とにかく、合宿に出てきてよ!」と釘を刺し、理緒は渡り廊下へ駆けて行った。理がこちらへ寄ってきて「何だったの」と聞いてくる。「いや、別に」と濁しておいた。
「ふうん?」
「何でもないってば、それより海でしょ、海。…てか何で海なの?」
「さあ」
「ほら、理も教えてくれないからおあいこだね」
我ながらうまく言葉を返すことが出来た。ちょっと得意げになりながら、玄関の方へ足を進める。
今度は桐条先輩と真田先輩に出会った。二人で話している。挨拶をすると、「あぁ君らか」と私たちに目を向ける先輩方。
「夏休みといっても、勉学を怠らないようにな。この前の試験結果を維持できるよう、日々励んでくれ」
「あとはそうだな、運動も適度にするように。…まあ、いらん心配か」
真田先輩はタルタロス探索のことを思い浮かべたのだろうか。二人から先輩らしい言葉を頂き、身が引き締まる。言葉の切れ間の度に「はい」と頷く私。理は相槌だけして、最後に「はい」と応える。理は気の知れた相手だと、話を聞いても頷くだけの場合が多いが、先輩たちの前ではちゃんと返事をする。
お礼とお疲れ様ですを口にして、玄関を後にする。
二人に対して「さようなら」が言いにくい。タルタロス探索後も部屋に戻る際、「お疲れ様です」と伝えることからきているかもしれない。学校では普通に「さようなら」を言った方がいいよなあと思いながらも、いざ先輩方と対峙すると、いつものように挨拶してしまう。他人行儀かな、と思いながらも、こんな些細な事、私だけしか気にしていないだろうな。
外に出ると、日差しが強いのに目が眩む。「こっちこっち」とグラウンドの方へ歩いていく、二つの影。
引っ越してきた当初、折角海辺が近いんだから、と貝殻でも拾いに海岸を探しに行ったことがある。夏はゆかりちゃんや、他にも友達が出来たら一緒に泳ぎにいけるんだと、それはそれは楽しみにしていた。
だけども、私の期待は虚しく散る。寮近くの海に隣接している場所や、ポートアイランドの周囲、どこへ行っても、地面自体が海より高かったり、柵も建ててあることから、海へ降りられる場所がほぼなかった。
唯一、学園のグラウンドの奥からなら海の近くにたどり着くことができた。ただ、コンクリートの地面で、いかにも釣り場として活躍しそうな場所。海辺に降りることが出来てもごつごつした岩だらけの小さな海岸だけ。黄金に輝く砂浜は、なかった。
それもそのはず、ここは人工島だ。海を埋め立て、その上に建物立ち並ぶ島を作ったんだから天然の海岸なんて最初から存在しない。転入する際にポートアイランドの資料にも目を通したはずなのに、何をやっているのか。
だが、不思議と無駄な時間には思えなかった。探検ってワクワクするものだ。期待に胸を躍らせながら海を目指して歩くのは、案外楽しかった。
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蟹探しに飽きたのか、持ち上げること何個目かの岩を置いて、理が立ち上がった。ここも人工だから海の生き物がいないのだろうか?でも島自体は十年前から出来てたんだよな。十年もあれば、生態系うんぬん…そこまで考えて、思考をストップさせる。考えても仕方ない疑問に思いを馳せても仕方ない。
「俺、ナマエが好きだ」
「……うん?」
理からの言葉にやっと、反応を返すことができた。
理は今、私が好きだと言ったのか?困惑しながら弟の顔を見ても、おかしそうに微笑むだけで、何も言わない。笑ってるってことは、さすがに冗談だろう!理から視線を外すと、自分で何度も「そうだ、そうだ」と納得させるように頷く。
先ほどの発言について追及せず、さらには聞かなかったことにした。
でも、改まって私を呼んだ用ってまさか…。じわ、じわ。自分の意志と反し、生じた戸惑いをなんとか抑えながら「理、もう帰る?」と笑顔を作りながら呼び掛けると「ん」と返ってきた。上機嫌な声だったと思う。
二人して、ポートアイランド駅へ向かう。理が蟹探しをしている間に、みんな帰ってしまったのか。学園の敷地内は閑散としており、かえって気まずさが増すばかり。
「そういやお昼、どこかで食べてく?」
「どこでもいい」
理から何もなかったように返事をされることでむくむくと、「なーんだ、ほら、何もなかった」という気持ちも押し返していく。
「ラーメンにしようかな…。でもみんな殺到してるよね…」
「行くだけ行ってみよう」
「うん、そだね。凄い並んでたら他の店にしよ」
定期を改札に通して、寮の最寄り駅でもある、お店が立ち並ぶ巌戸台駅行きのモノレールに乗る。電車の中もそこまで人がおらず、座ることが出来た。電車が走り出して、しばらくすると海が広がり、本州とポートアイランドを結ぶ大橋がいやでも目に入る。
毎日ムーンライトブリッジを眺めていたら、感傷に浸る頻度も少なくなっていた。だけど、十年前の事故を思い出す度にいつも同じくらい胸が痛む。今日から夏休み。季節の節目を意識すると、必ずこの事を思い出してしまう。
窓の景色を見ていられず視線を落とし、巌戸台に着くのを待っていた。
電車を降りると、商店街へ。お店から漂う美味しそうな匂いにお腹をさすりながら、「はがくれ」へ向かう。どの店も混んでいそうだ。案の定、「はがくれ」も満員だったが、丁度、友達同士の子たちが食べ終わり、すぐに隣同士二席が空いた。ラッキーだね、と理と顔を見合わせる。店員さんがすぐに机を拭いてくれ、カウンターに座ることができた。
この前、ゆかりちゃんの友達が食べたらしい、コラーゲンたっぷり「トロ肉しょうゆ」を早速頼む。なんでも、「トロ肉しょうゆ」食べた後、肌の調子が良くなって魅力アップにつながったとか。ほんと~?と笑いながら聞いていたが、試さずにはいられない。理は「坦々・タン麺」と店員さんに伝える。メニューに載っていないラーメンだ。店内のお客さんも理に注目する。
店員さんがカウンターに戻った後、すかさず「なにそれ」と聞く。「常連の隠しメニュー」と返ってきた。え、そんなに通っていたの…?夕飯いらないって日、そこまで無かったと思うけど…。まさか、食べて帰ってからまた寮で食べていないだろうな。理は、割と大食いであるが、まさか…。胃袋の大きさに戦慄していると、「トロ肉しょうゆ」がカウンター越しから、目の前にどんと置かれた。
ほどなくして、「坦々・タン麺」なる3回タンが続くラーメンも理の席の前に置かれる。野菜がたくさん乗った、赤めのスープのラーメンを見るに、担々麺とタンメンのミックスなのだろう。
物珍しさから一口食べてみたいなと思っていたら、「それ一口食べていい?」と声を掛けられた。返事のしないうちに、隣から箸を突っ込まれ、「トロ肉しょうゆ」の麺をすくわれてしまった。そのまま、ずず…とすすられたラーメンを呆気にとられて見つめる。許可を取らずして食べられた…。
「うまい」
「うまい、じゃなくて!…だったら私も貰うからね」
「どうぞ」
お店の人がいる手前、こんなことをやっていいのか分からないが、このままでは気が済まない。「坦々・タン麺」を箸とレンゲですくって、すすりながら食べる。ぴりっと辛いが、野菜のうまみが染みた塩味のスープと麺がうまくマッチしている。
「おいしい」
「だろ?」
言い終えてから、興味津々な私に気を遣って食べさせてくれたのか、と理を見つめる。理は素知らぬ顔で、「坦々・タン麺」に手を付けていた。お店を出てからお礼を言ってみようか、と思案しながら私も自分の「トロ肉しょうゆ」ラーメンを食べ始めることに。
1口食べて、唸りたくなった。スープもすくって飲む。こってりながらも醤油スープがマイルドでおいしい。その内、1枚だけ乗ったチャーシューを意を決して口に入れると、目を見開いた。まさにトロ肉、口の中で溶けていく…!夢中になって食べ、その内完食。理はすでに食べ終えており、私が完食するのを待っていたようだ。
会計をすると、「ごちそうさまです」と伝えて店内から出た。店内は冷房が効いていたから涼しかったけど、外は暑い。「暑っ」と思わず口に出てしまうほど。
「ありがとうね、理」
「何が?」
「坦々・タン麺、おいしかったからさ。…というか、常連て、そんなに通ってたの?」
「まあね」
「それで夕飯も食べてたの?」
そっぽを向かれる。そして、無言。「どっちも食べてたの!?よくそれで太らないね…。いいなあ…」とある意味羨ましくなってきた。
他に寄るところもないし、家路につくことにした。帰り慣れた道を歩いて、分寮へ。
この頃には、海辺の告白は私の中から消し去られていた。やっぱり、私が道を案内する、なんてことが無い限り、理は少し先を歩いて、私はそのあとをついていく形になる。
しかし、暑い。近くのコンビニに寄ってアイスでも買おうかな、なんて甘い誘惑が浮かぶも、先ほどラーメンを食べた身。理じゃないんだから、好きなものをじゃんじゃん食べてしまうと、必ず、太る。
悩んでいる間に、理は隣に並んで歩いていた。歩くペースを落としたのか、と目を見張っていると、理は私に喋りかける。
「で、返事は?」
「えっ?」
「告白の返事」
さあ、と血の気が引く。立ち止まってしまった。あの告白は本気だったのか。急に、目の前の理が恐ろしくなり、ぎこちなく目線をうろうろさせてしまう。「やっぱり、本気にしてなかった」と全て理解している理の言葉が降りかかった。
「わたしたち、家族…」
「義理の、だろう。ナマエが小さい頃から、俺は好きだった。好きな人としてしか見てなかった」
言葉で逃げ道をふさがれてしまう。混乱する中、理はずっと落ち着いていた。セミが鳴いていることに気づく。頭が熱い。ドラマのワンシーンのように感じる。今、ここにいる現実味がなくなっていく。
「そんな、でも…だって、私は、弟としか…」
「それでいいよ」
たどたどしく言葉を紡ぐ。それを肯定され、思わず顔をあげた。
「絶対に応えてほしいわけじゃない。気持ちだけ知っておいてほしかった」
理の影が、遠のいていく。私から離れ、先へと歩いていく。
それを視線で追いかけながら、今まで保っていた関係が崩れていくのを感じた。