燃える村

それ以降黙ったミクを担ぎ、村に着いた。走ってきたが、不思議とそこまでだるくない。
村には獣の叫び声と人の叫び声が入り混じっていた。
何故か家々が燃えている。畑も、木も。あれだけ清々しかった空気も、煙くさくなっていた。

『何故燃えているんだ…?』

ミクの呟きの意味に気付いたのは、終わってからだったと思う。
「うわああん!!たすけてえ!」と泣き叫ぶ声と共に、剣を持った子供が燃えている家の陰から出てきた。後ろからはイノシシが追いかけてきている。慌ててミクを構えて、イノシシ向かって斬りつけた。余所見していたイノシシは難なく仕留められた。イノシシはピクピイクと痙攣していたが、徐々に動かなくなり、姿をレンズに変えた。

「剣士のおねーちゃん…!村が…!村がっ!!」
「ケガしてるじゃない…!あっ、アップルグミ食べて!」

所々すりむいたり、切った少年の手を引くと、村の外に出た。そして気休めにもならないだろうがグミを手に握らせた。…その頭上を越えて第二陣、という風にハチと鳥が村へ入っていく。

「おねーちゃん、みんなを、みんなを助けてよ!!」
「分かった…とりあえずここから離れてて、この道具全部あげる、人が逃げてきたら声をかけて使ってあげて、この白いビンを回りに撒いたままにしててね」
「うん…うん…」

少年に腰につけていたポシェットを託して「大丈夫だよ、みんな助けるね」と言うと、また村に飛び入った。
落ち着かせて状況を見ると、イノシシは殺気だって威嚇はしているが、積極的に襲っては来ない。
さっきの子のように人を襲う、というより、ここから追い出したいように見えた。気のせいだろうか。
とりあえず警戒しながら、生存者を探す事にした。…結果的に村の中へ踏み入る事になる。それを見て襲い掛かってきたモンスターは、一対一になるように、その都度撃破して、レンズを拾う。

『…おい、あそこに誰かいるぞ』
「え、どこ?」
『その木の陰だ』
「あ…、本当だ」

隠れている人を発見した。近づこうとしたら、「ひ」とおびえる声が聞こえた。
敵だと勘違いしているのだろうか…?とりあえず名乗って落ち着かせる事にした。

「依頼で来た剣士です、落ち着いてください」
「ひい…ってけ…剣士様?」

私の言葉を聞いて顔を出す。隠れていたのは、なよっとした男の人だった。

「火が燃え移らない内に村の外に出てください、私がモンスターの気を引きますから、その隙に!」
「うああ…ありがとう…あの」
「?」
「村の力のある男や女達が戦ってるんです…助けてやって下さい!」
「分かってます、さぁ」

ホーリィボトルを持ってる男の子の存在を話して、手をとって立ち上がらせると、近い出口へ走り出す男の人。何度も後ろを振り向いては申し訳なさそうにしていた。
…モンスターの気を引くといっても、逃げ出す者には興味がないのかモンスターは襲ってこなかった。

『…臭うな』
「ミク…?隠れてる人、戦ってる人達も探さないと」
『だが、もうあまり人間の声や奮戦してる音なぞ聞こえぬぞ』
「…そうだけど、探すんです!」

危険だけど、そうは言ってられない、声を出しながら燃えている家々一軒一軒を回る。そうしたら女の人や子供達が見つかる。怖くて家を出れないよ。こんな状況じゃ。
涙を流して感謝され、夫は戦っているかもしれない、助けて下さい。と懇願された。
…私はそれに頷くと、早く村を出て、道具を持っている男の子を探すよう促した。
でも、本当に助けられるのだろうか。…獣の唸り声しかしない。
最後は村長宅を捜索した。あの気さくな村長さんが頭に浮かぶが、声を出しても、誰も反応してくれない。

「誰かいませんか!?依頼の剣士ですっ!!」

必死に声を出していると、何か聞こえた気がする。燃えている家の中に入った。

『おい!死ぬぞ!』
「ミク心配してくれてるんですか?」
『ち、違うわ!私も巻き添えになりたくないだけだ!』

煙や炎で目がかすみそうになる中、倒れている人影を見つけた。

「村長さん!?大丈夫ですか!?」

村長さんは酷い状態だった。…全身を斬りつけられている。息も絶え絶えだ。おもわず彼の傍に寄って、座り込む。

『これでは、もう…』
「そんな!回復晶術とか出来ないの!?」
『…今のお前に出来るか…』
「やるしか無いでしょうが!」
『!』

私は教えてもらった事を思い返した。

**

「今日は晶術の指南だ、…戦闘技術は一通り叩き込んだしな」
「マスターしてるかはさておき」
『さておいちゃうんですね』

今日も城の練習場で、私達は練習するようです。こうなったのもヒューゴさんの計らいである。スパルタだが、確かに腕が上がった気がする。

「っていうか何でお城で今まで練習できたんでしたっけ?」
「…僕が城勤めしているからだ」
「え、エリート公務員…くっ私でさえ就職してないというのに…!!」
「こーむいん…何だそれは」
「公僕は気にしないでくださいッ」

私がぷんすか理不尽に怒った。リオン君はそれを諦めたような顔で見ていた。
しかし、ガラガラな練習場だ。はっとこれまで二人っきりだったんだ!という事実に怒りも忘れて気付いた。

「…リオン君私の為に貸切に…」
「何の話だ」
『え、っと、お洒落なレストランじゃないんですよ?…っていうかこれには一応理由があって』
「理由て?」
『はい、兵士の皆さんは、勤務時間ギリギリに働いていて、七将軍もそれくらい忙しいくらい大変なんですよー今』
「え、そんな時にだいじょぶ?」
「大丈夫じゃない…貴重な休み時間をお前の為に割いているんだ」

公僕だ。これが、公僕…と失礼な事を考えていると、リオン君の怒りが最高潮になりそうだったので、この話をしてる暇はないし、追及もできない。本題に戻る事にした。

「リオン先生、晶術ってなんでしょう?」
「ソーディアンの「コアクリスタル」、人格が投射された高度なレンズと術を打つ者の意思とが合わさってエネルギーを消費してうてるもの」
「じゃあシャルの晶術って、回復系ばっかなんですか?気になってたけど」
「今日の実戦で分かる」
「エッ」
「かかってこい」

あれ?気のせいじゃなかったら、目がマジなんですけど…?リオン君?一週間くらいしか習ってない私に本気モードなんですけど…?

「リオン君を斬るなんて私には…はいやります」

なんとなく嫌な予感がするので遠まわしに拒否(お国芸)したら、青筋立てられたので、ここはナマエ、いっきまーす!

「うりゃー」
「ストーンブラスト」
「うべっ!?何で石!?いたぁ!!いたた!!」

襲い掛かったら私は結構な数の小石をぶつけられていた。

「い、いじめ反対…」
「今のが、シャルの晶術だ、地属性だからなシャルは」

しくしく地に伏せた私を上から見下ろすリオン君。上からリオン。

「地属性でも回復できるんですね…すげえわ」
『それは血筋も関係あるかもしれませんね』
「?」
『坊ちゃんのお姉さんも回復晶術をうてますから』
「おお、さぞ清楚なお姉様なんだろね…!わくどきだよ」
「…」

リオン君はしばらく黙って後、ミクトランを構えろと言って来た。

「この木偶の坊ですか?」
『貴様ァァァァ!!』
「これまでの練習中終始人を小馬鹿にしてた木偶の坊ですか?」
『晶術なぞ打ってやらんからな!小娘!』
「あ、すねちゃった…」
「お前、怒らせる気満々だっただろう…」

This Dekonobo は扱い辛いぜ。あーごめんごめんと謝って話しかける。

「ミクトランさんはどんな晶術が使えるんですか?」
「…さぁな」
「ここにミクトラン眠る」
『術なら何でも出きるわ!私を埋めるな!!』
「えっ何でも!?凄いですね」
『だが、私の意思と貴様の意思が合致しなければ、晶術はうてん、従って一生うてんな』
「強制的にうたせられない…だと!?まぁそんな感じですよね、リオン君のお話からして、ちっ」

**

意思が一致していれば晶術が放てる。私とミクの意思が合えば…。
ミクのコアクリスタルを見つめる。ちか、と一瞬光ったような気がした。彼が無言で頷いたような気がした。意を決して私はリオン君が言っていた言葉を口に出した。

「止まって…ヒール!」

ぱぁとコアクリスタルが強く輝いた。と同時に柔らかな光が村長さんの体を包む。
…傷が、治っている!ほうと安堵の息を吐く。顔の力が抜ける。

「…剣士、様」
「村長さん!!」
「村の皆が…」

目を開けた!喋った!という感動の感想。
さっきより呼吸は落ち着いたが、苦しげに息を漏らす村長さん。
手を震えながら上に伸ばす。その行き場の無い手を握る。

「村に来た…男が、全ての、原因じゃ…」
「男…?」
「若い衆を…攫って行き…村に火を放った…」
「!!」
「そして…モンスターも…う…」
「そ、村長さァん!!!」
『安心しろ、気絶しただけだ』
「よ、よかったー」

しかし、気絶する寸前に喋った言葉が気になる。村に来た男が全ての原因―…。

『おい、燃えるぞ』
「あ、あああそっか!この家ヤバイか」

とりあえず、考えるのは後に置いておいて、村長さんを外に出すことにした。

丁度外に出ると雨が降っていた。獣達はどこかへ行ってしまったようだ。あれだけ居たのに、もう居ない。
そして村の燃やしていた火は消えていったが、無残な跡をのこしていっただけだった。
…セインガルドの兵士達が今になってやってきて、状況を尋ねてきた。
あの男の子や女の人、子供達は無事かと聞くと、無事保護したらしい。
それに落ち着いて私は村長の言葉である、男が村に来て火を放って、人を連れ去ったらしい、その際モンスターが村を襲ったと言った。
兵士達と一緒に歩いて帰り、その日は装備を外してシャワーをして、すぐベッドに横になって、寝てしまった。

それからのこの尋問である。
どうして国王に謁見なんて事になったのだろう。腕を組む私にリオン君は忌々しそうな顔で喋る。

「そういう騒ぎがその後何件もあった」
「え、うそ…」

そんな話、聞いていない。リオン君の顔を凝視する。

「騒ぎは決まって、外れのあまり人の居ない村で起こった、始めは魔物が襲いかかり、次に村に火がつき村中が燃える…お前の時と同じだ、隠れていた女子供は無事だったが、それ以外の村人は消えていたそうだ」
「…どうして」
『……』
「ただ、お前の時と、これらの事件の相違点は…『男が村に火を放ち、人を攫った』という目撃証言がある所だ、ホルム村村長にはまだ聞き出せてないが…、他の村の残った女子供に聞いても、モンスターが襲ってきて、すぐ隠れた、そんな事は分からない、だそうだ」

どこかの推理ドラマのようにリオン君は喋り続ける。今私に分かる事は、ホルム村と同じ事が他の村で起こっているという事。村長さんが言っていた「男」がキーマンであること。

「お前が聞いたのは男、という単数での表現だったか?男達、じゃないのか」
「う、うん、男、とだけしか言ってなかった…」
「…お前が見た魔物の中でで火を使うものはいない、従って、どの事件もその男が起こしたに違いないが…おかしな点がある」
『…一人で村人達をさらうのは不可能という事です』

確かにおかしい。…村長さんは、確かに「男」とだけしか言ってない筈なのに、…十何人かほど居た村の人全員どこかに運ぶなんて、無理だ。

「しかも魔物が多数で村を襲う事も聞いた事がない、その後男が現れているとするなら、魔物を操って計画的な犯行に及んだ、と考えられる」
「そんな、操るなんて可能なんですか!?」
「お前なら分かるんじゃないか?ミクトラン」
「え…」

リオン君がミクを冷たく見下ろす。ま、まさか…。

「み、ミクが犯人だっていうんですか!?…考えを改めて下さいリオン君」
『ナマエ…』
「正直私まで巻き添えを食らうのは嫌です、撤回してください、多分やってないですから、コイツ」
『…少しでもお前を見直した私が馬鹿だった』
「今までの仕打ちを考えてみろ」
『…あぁ』
「お縄になるのはゴメンですよ!だから王に謁見とか言ったんですか!?そうなんですか!?」
「落ち着け」
「いたい」

最後の言い訳がましい夜神○ばりに私はポージングしながら弁明した。
しかしリオン君のチョップを食らい、私は頭を押さえた。わ、私が何したってゆーんだよ。

「科学者だったミクトランなら分かると思ったというだけの話だ」
「な、なぁんだ…深読みしすぎたか…」
『…アレはまだ無事なのだろう?だとすれば自分で多量のレンズと一体化した者ではないか?…実物を見ない限り、分からぬが』
「アレってなんすか?ミクさん」
「レンズと一体化…だと?」
『あぁ、そこまでの科学力があるか知らんが、そうすれば考えられんことも無い』
「皆無視っすね」

ナマエ、悲しい。しかし、これで謎が解けたぞ!?

「じゃ、帰りますね…早くつかまるといいですね…」
「待て」

襟首を掴まれる。

「あ、構ってもらえた」
「うるさい、王の所へ行くぞ」
「え!?やだやだやだ~無理~っていうか何で!?」

洗いざらい話したじゃない!なのに、何故!?お偉いさんに謁見とかなんで!?

「お前も一応これでもソーディアンマスターだ、王からその男を捕まえるのに正式に協力してほしい旨を伝えられる」
「えっ!?」
「これ以上被害が増えていいのか」

協力て、な、何かヤバそうな事頼まれるんじゃ…。私全然実戦経験ないのに!自分の身に危機を感じた。
しかしリオン君の言葉に、村長さんや、あの泣いていた男の子、火の中の村が浮かぶ。
…その男はこれ以上も何かやらかすつもりですよね…。そう思うと、私は首を振った。

「それは…よくないです…」
「だったら黙ってついてこい」

リオン君が先に城の方へ歩いていく、少し先まで歩いたら振り返り、私を待っている。
何か、少しでも私で出来ることがあれば、やるしか…ないですよね。
私は頷くと、彼を追い、走った。