笑いあう

「あ、勿論結城…あー…下の名前なんていうんだっけ?」
「…えーと、ナマエです」
「真面目に答えなくていいよ、結城さん…」
「ナマエちゃん!…とも一緒に帰って噂されちゃおっかなって!」
「はあ」

 伊織君はハイテンション。始業式だからだろうか?それともいつもこんな感じ?先を行く理を追いかけながら3人で話す。一階へと下りながら、「いきなり名前呼び…」と岳羽さんがつっこんでくれる。

「い~じゃん、俺は名前で呼ぶのが好きなの」
「ふ~ん…。じゃあ私も名前で呼ぼうかな…。ね、呼んでみていい?」
 ゆかりちゃんが私に微笑みかけてくれる。もちろんOKだ。
「いいよ~。私もゆかりちゃんって呼ぶね」
「ん!ナマエ!」
「仲睦まじいねえ」

 下駄箱まで到着し、上履きをローファーに履き替える。理はやっぱり一足先に靴を履いて校舎から出ていく。「お~い理~、待てって」と声をかける伊織君の声に、心なしか歩くスピードを落としたような。もしかしたら止まってくれるかも。

「理、待ってよ。一緒に帰ろう」

 私も声をあげると、理はちらりと後ろを振り返った後足を止めた。…心なしか表情がめんどくさそうだ。もしかして伊織君が面倒だから止まってくれたのだろうか?

「さっすがお姉ちゃんパワー」

 伊織君の褒め?言葉に笑っておく。

「あはは、そうかな…。でも伊織君が声かけた時もちょっとスピード落としてたし」
「…ん~~……名字じゃなくて、「順平」でいいぜ?」
「コイツの言うこと無視していいよ」

 ゆかりちゃんの伊織君へのあたりがきつい!話し慣れてる感じだし、前も同じクラスだったのだろう。ゆかりちゃんも呼んでたし、男子でも名前呼びくらいどうってことないか…。「まあまあ、…機会があれば名前で呼んでみるね」とだけ言っておく。

「今じゃないのね!ま、まあ楽しみにしとこ…」

 やっと理の止まったところまでたどり着く。桜並木が散らす花びらに目を奪われながらも、ものぐさな理に感謝を。

「…理、ありがとう。一緒にかえろっか」

 無言のまま、私たちに並んで歩きだす。順平君が素直じゃないやつ~と理の肩に腕を回す。理はいつもの無表情の中、少しだけむっとした表情で「近い」とこえをあげた。順平君は理にも臆せず、腕を回すとは…。かなりフレンドリーな人物だと分かる。

「そーだ、昼一緒にワックいかね?」

 順平君によるお昼の提案。お昼近くだし混んでいるかもしれないけど、ちょうどいいかもしれない。

「ここの近く?」
「いんや、巌戸台駅んとこ」
「いってみる?理」

 理が頷いてみせる。ならば、「じゃあ行く!」と発するのみ。ゆかりちゃんも「ナマエもいくなら別にいいけど」とうれしい言葉。じゃっ、決定!順平君は腕をあげた。

**

「てか、クラス違ってたね」

 ゆかりちゃんの言葉に、そうだったね…と肩を落とす。ポートライナー内で他愛のない話に。

「忘れものの貸し借りは便利そうだけどな」
「うわ、順平らしい発想」
「忘れものした時はうちのクラスに来いよ~。俺もヤバかったら…お互い様ってことで」
「そういう時は理かゆかりちゃんに借りるから大丈夫だよ」

 順平君に頼る選択肢が私の中でなかった…!だって助けを求めるなら兄弟か同性の友達でしょう。順平君に分かりやすく落ち込まれたのを流しつつ、理にも言い聞かせる。

「理も、困ったらうちのクラスきなよ」
「ん」

 ゆかりちゃんがそりゃそうでしょ、と言いたげな目で順平君を見ている。
 そうこうしている内にすぐ、隣の巌戸台駅についてしまった。

**

「順平の発言で流れたけど、クラス違って残念だよね…」
「うん、残念…。でも、隣の席の子とは仲良くなれそうだから心配しないで!」

 ただ、その子がいじめられてる感じなのは伏せておく。ゆかりちゃんが「良かったじゃん」とうれしそうに声をあげる。続けて、他にも近くの子に声かけてみようかな~と思ってるんだ、なんて笑顔でいいながら、明日からどうなるんだろう、と少しだけ憂鬱。山岸さんがいじられる場面をまた見そうだ。…いじめだと決まったら、彼女を連れ出して話を聞いてもいいかもしれない。勝手に自分の気持ちのまま行動したら迷惑だろうから。
 ワイルダックバーガー。やはり混んではいたが、4人席を確保することに成功。その後セットのメニューを頼み、4人囲んでの昼食に。たまに食べたくなるジャンキーな味に舌鼓をうちながら、女の子同士の会話に花を咲かせていた。

「その子と昼、一緒に食べれるといいな」
「う~ん、どうだろう」

 順平君の言葉に、微笑んではみた。はたして一緒にお弁当を食べられるのだろうか…。さらに気分が重くなったところで、理がずずず、とジュースをすすった。もう飲み終わったみたい。しかしお弁当…お弁当、作る食材。ああ、スーパーについて尋ねないと。

「…そういえば、寮の近くのスーパーってどこら辺にある?食材の買い物したいなって思ってて」
「食べ終わったら帰るついでに案内しよっか?」
「お願いしていいの?」
「うん、いいよー」
「有難う!」
「え、ナマエちゃん、ゆかりッチと同じ寮?」

 向かいの席の順平君が勢いよく食いついた。ゆかりちゃんが白い目で見ている。

「なんか文句あんの?」
「巌戸台分寮だろ!?すっげー憧れんだけど…!!だってあの桐条センパイと同じ屋根の下…ッ」
「…キモッ」
「キモくて結構!真田センパイ、桐条センパイ、それにゆかりッチといい、美男美女しか住めねえのかってトコじゃん……!」
「……はあ、そーいうんじゃないから…」
「ナマエちゃんもってことは、まさか、理も住んでるとか…」
「……」

 隣の理を凝視する順平君。へんじはない。ただ黙々とハンバーガーを食べている。私が代わりに返事すべきか。念の為、ゆかりちゃんの方を向く。首を横に振られた。

「おい、どうなんだ、理!」
「ちかい、うるさい」
 ハンバーガーを食べる合間にポテトをつまみながら、私達はそのやりとりを眺めるに留まった。

**

 分寮の生活状況を逐一伝えてくれ!と理にしがみつきながら念を押す順平君。最後には「お願いします」になっていた。めんどくさそうに「わかったから、ちかい」と言い放つ理。理に約束をとりつけた順平君は満足そうに、しかし名残惜しそうに手を振りながら、順平君は別の方向へ帰っていった。

「理ーーーー!!任せたぞ!!」
「何言ってんだか…。結城君、報告する必要ないからね、てか駄目だからね!」
「そうだよ、頼まれたからって、それはあんまり良くないね」
「…わかった」

 言われたから、と本当にやりかねない。理はあまり主体性がない子だ。自分の気持ちを大切にね、と中学生あたりから何度も言い聞かせてきたけれど。…ううん、大丈夫だろう。めんどくさそうだし。

「…さて、それじゃスーパーの案内ね」

 3人になった。駅から分寮への道を歩いていく。

「正直、食べた後も遊びに連れまわされそうだったから、ナマエがこういう事言ってくれて助かった。…二人もゆっくり休めるしね。疲れたでしょ?」
「あはは…ちょっとだけ。半日だったのにね」
「初日だから緊張するよー、それに昨日来たばっかだったし…」
「……」

 昨日、か。ゆかりちゃんとの初対面。ホルダーにしまってあった銃、緊迫した雰囲気を思い出す。…今日も0時になったらまた変な景色になってしまうのだろうか。…ゆかりちゃんもあの場にいたし、何か知っているかもしれないけれど。軽々しく聞いていいものなのだろうか?…なんとなくお互い無言になってしまった。
 その後も話しにくい雰囲気。到着したスーパー。着いた途端、早々に「私買い物してあるから、先帰ってるね」とゆかりちゃんに去られてしまった。…理と私はとりあえずスーパーで食材を買うことにした。

「理、夕食は何食べたい?」
「なんでもいい」
「それが一番困るんだよ~…そういや急だったから当番制にするのか~とかも全然決めてなかったね」

 カートに買い物かごをいれ、平日の午後、賑わうスーパー内をカートをおして歩き出す。「私だけずっと料理当番は絶対やだよ」と伝えておく。「じゃあ交代でいい」と言う理。「言ったね」と私。

「じゃあ一日ごとに交代にしよっか。明日から」
 頭の中で朝昼夕ごとに交代?と考えてはみたが、弁当の場合朝と一緒に作るべきだし~とごちゃっとしてきたので、各日が良いだろう。なんとなく青果コーナーにてリンゴをかごにいれる。
「わかった」
「明日どっちからにしよっか」

 ウインナーなどの加工品、お惣菜コーナーに。ウインナーは重宝しそうだし、今日は惣菜も使ってもいいだろう。ウインナーに彩豊かなサラダ、からあげを手に取る。親の買い物についていったり、手伝いをしたことがあったから、なんとなくこれがいるのかな、とわかる。それと共に親のありがたさも実感したのだった。出来上がった料理、食材に使うお金。…負けてはだめだ、と頭の中の誘惑を打ち消す。

「…どっちでもいい」
「じゃあ、じゃんけんしよう」
 ぴたりと歩みを止め、向き合った私たち。私が「最初はグー」といい、続けて「ジャンケンホイ」と手を出す。
「負けたッ!」
「明日はナマエで」
「うう…」

 お互いの手を見て私はうなだれた。ま、まあいい。初日だからとはりきらず、凡庸な弁当でいこう…。お手頃な冷凍食品に手を伸ばした。
 精肉コーナーでは安い鶏肉、豚肉。鮮魚コーナーでは、魚は捌けないし、焼くのめんどいよなあ…といいつつも、後日買おうかということに。そして野菜のコーナーに入り、私はつぶやく。

「…ねえ、理。今日も0時になると、街が変な感じになるの?」
「だと思う」

 興味なさげにつぶやく理に、私は自分の考えを話す。

「寮の人はな~んか知ってそうだよねぇ」
「どうでもいい」
「いや、どうでもよくないよ。この謎について解き明かそうよ、理」
「…別に、ど」
「よくないよ~。学校行ってしばらくしたら調査しようよ!」
「……ん」

 やった、とガッツポーズする。理も協力してくれそう。…理だって知りたいはずだ。だって、ずっと前から理はあの現象を体験してきたんだ。カップ麺をどっさりいれようとする理を制止しながら、私は一人、興奮した。興奮しながらも1キロ程の米をかごにいれる。みんなでお米をカンパしあって大量にごはんを炊くらしい。
 寮に帰り、興奮冷めやらず、理の部屋で街の調査について語りながらごろごろし、夕食を食べようと二人で下に降りる。まだ誰もいない。出来合いの食事をとり、自分の部屋に戻り、明日のために予習しておく。明日の教科を確認した後、勉強開始。静かな部屋の中、教科書をめくる音が響く。とりあえず練習問題を解いたり、現代文は教科書を読んだり…。
 勉強も煮詰まったところで、ふと、シャーペンをもつ手が止まる。ノートを閉じ、これからの不安や楽しみについて考えだす。クラスでうまくやっていけるか、とか、うまいこと食事、弁当は作れるか、続けることはできるか、…学食という手もあるな、とか。桐条先輩と話してみたい、理と二人で深夜外に出て、色んなところを回りたい!あの時見えた、大きい塔にも行きたい!色々考える。そして今日の思い出を振り返る。桜吹雪、行き交う学生達。山岸さんの控えめな笑顔。ゆかりちゃん、順平君と理。ライナーから見えた景。巌戸台とポートアイランドをつなぐ、ムーンライトブリッジ。…理はあそこでご両親を事故で亡くした。理はずっと外を眺めていた。…何か、考えているのだろうか。感じているのだろうか。
 私は何も言葉をかけられなかったが、電車通学は辛くはないのだろうか。…楽しいことをさせよう、折角理に世話を焼いてくれそうな友達もできた。探索も気合をいれて、…来週あたりでも、と考えていたころ、ふと時計をみた。0時、過ぎてる。カーテンからさす緑色の光。めくると、幻想的で不気味な世界がみえる。
 この謎の手がかりにすぐ近づけることを私たちはまだ知らない。