※お相手:結城理
※義理の兄弟設定
引っ越しの準備などでバタバタしてしまったのもあるけれど、人身事故の為にかなり電車が遅れ、只今終電の中。といってもこの電車で引っ越し先につく。深夜の電車に揺られる中、肩には弟が寄りかかっている。彼の胸元のプレーヤーからイヤホンを伝い流れる音楽は、私の片耳に。軽快な音楽が好きな理のサウンドリストを順に聞きながら揺られ続け、後5分程で巌戸台につく。
「理、もうそろそろ着くよ」
目を閉じて眠っているのか起きているのか分からない理の肩をとんとんと叩くと、気だるげに目を開けてくれた。「うん…」と指で目をこすって寄りかかっていた肩を起こす。解放された私はそんな弟の様子を眺める。彼は腕に嵌めている時計を見ると、ため息をついた。
「あはは、遅くなっちゃったよね。はいイヤホン、ありがと」
「ん…」
片方のイヤホンを外して渡すと、理は自分のイヤホンも抜いて、くるくると巻き取った後、カバンに収納した。別に聞いていてもいいのに。きっと寮に行く間もお互いぼ~っとしててあんまり喋らないだろうし。こういう所は律儀なのだから。
向かいの窓からは黒色とネオンのような光達でうっすら街が浮かび上がる。私たちのいた家よりかなり都会みたいで、ワクワクもあり、不安もあるが、理もいるし大丈夫だろう。だが、急に転入することになったから、受け入れの準備が出来ていないのか今日泊まる寮は一緒なんだけど、しばらくしたら女子寮、男子寮にそれぞれ移動するらしい。ちょっと寂しい。
車内アナウンスが「まもなく巌戸台、巌戸台」と告げた所で私たちは立ち上った。
電車が止まり、駅に降り立つ。春先の心地よい、新鮮な冷たい空気に息を深く吸う。息を吐いたところで理が手をつないできて「早く行こう」と私を急かす。
「そうだね」
はやる気持ちもわかる。早く寮に着きたいし、夜道は危険だし、早く寝たいし…、色々ごちゃ混ぜな気持ちをかかえ、彼が手を引くまま早歩きに。
ホームから階段を降り、改札口を出て、巌戸台に到着!というところで、どこかの時計が深夜0時を告げたのか、鐘を鳴らす音が耳に響いた。
青い蝶が目の前を通り過ぎていく。それを目で追うと、景色が変わっているのに気付く。
「あれ…?」
「……なんで」
辺りの景色がおかしい。緑色がかった街並みに、棺桶?所々血のような赤い液体が流れている。空をみあげると、異様なほどきれいな月が輝いていた。これは、夢だろうか?放心していると、「ナマエ」と理の穏やかな声に我に返る。
「な、なんだろうねこれ」
振り返って私をじっと見つめる彼に、苦笑いしてみせると、「ナマエもこの景色が見える…、棺桶じゃない…」と呟かれた。
「棺桶?あれのこと…?まばらにあるけれど…」
「…いこう」
「わ、理っ!」
理が歩みだした。当然手をつないだ私も後を歩くことに。この景色に動揺しないのか?ゆっくり、いつものペースで進む理に問いかける。
「理、これなんかのイベントなの…?ホラーのお祭り…」
「知らない。…0時以降はこういう事がある」
「え、そうなの…?私が知らないだけ…」
「俺とナマエしか知らないと思う」
「…そう」
理は何回か見たことがあるのか。じゃあ巌戸台に限った事ではないのか。…異様な光景はまだ続く。棺桶、血、降り注ぐ月光。この月光のせいで街中緑っぽいのか。空をよく見上げれば、遠くに巨大なタワーのようなものも見える。それなのに、不思議と怖くないのは何故か。すぐに浮かんだのは、「理も一緒だから」という答え。
「理は怖くない?」
「…慣れた」
「そっか」
とてとて歩いているが、巌戸台分寮への道を分かっているのか。それもすかさず聞くと、こっちで合ってる、と返ってきたので多分合ってる。頼りない姉である…。
そういえば、着いたら両親にメールすべきか。揉めた末に家を飛び出してきたようなものだし…どうするべきか悩んでいる。…とりあえず短文でも送っておいていいかも。ついでにこの景色の事も言った方がいいのだろうか?…でも私と理だけしか知らないのなら、言っても仕方がないか。ああ、明日から転入初日だった…。うんうんと考え込んでいると、「着いた」と理の声でやっぱり我に返る。
目の前にそびえ立つのは歴史のありそうなモダンな寮…。ひゃあ、こんな所に一時期とはいえ住めるとは。ほお~と感嘆の声をあげて寮を見上げていると、理がそれに付き合って待っていてくれている。
「ああ、ごめん!…道案内ありがとうね。はいろっか」
扉を開いたら、新生活が待っている気がした。……室内には男の子が待っていた。上下ともボーダーの服を着ている。…なんだか囚人服みたい。
「遅かったね。長い間きみを待っていたよ。」
「えっと…君は?ここの寮の子?」
「ここから先に進むには、契約を。サインをここに」
「む、無視…!」
男の子は理だけしか見ていない。理は無言で彼の差し出す「契約書」を受け取ると、普通にサインしだしている。
「ちょっ…そういうのはちゃんと確認して…」
慌てて書面を見るに、何故か英語。上の文章を見るに、「時は待たない」?謎の文字列に、目を瞬かせていると、少年がくすくすと笑いだす。
「君も、やっと会えたね」
やっと私の方を向いてくれた少年。懐かしい感じがする。なんだろう、この感じ。
「…あの、この契約書ってなんの契約なの?寮の契約書なら…」
「大したことじゃないよ。自分の決めたことにに責任を持ってもらうってだけ、当たり前のことでしょ?」
「そうだけど…」
具体的な内容じゃない返事に戸惑っていると、理が少年に契約書を渡していた。恐ろしそうなものなのに、そんな簡単に…。
「理…、文面は確認した?」
「一応」
「ならいいけど…」
不安ながらもその言葉に少しだけ安堵していると、少年の声がかかる。
「また、満月に会おうね」
振り返ると、少年はいなくなっていた。
**
その後、スパイみたいに太ももに銃を携えた女の子、岳羽さんと、かっこいい女性、桐条先輩二人が出迎えにきてくれた。つっこみ所満載だったが、理がフリーダムに自室に行ってしまった為に(先輩に部屋の場所を教えてもらった)案内してくれる岳羽さんと二人、女子の3階の部屋へ…。本当になんだろうこの銃は…。触れてはいけないようなピリピリした空気。
そんなことより、遅くなったのに出迎えにきてもらって申し訳ない、と謝ると、「そんなのいいって、別に」と先程の緊迫した表情とは一転、ちょっと疲れたような笑顔をみせてくれた。
「あの子と学年一緒なんだね」
「うん、そうそう」
なんとなく気まずい雰囲気になった。とりあえずさっきの男の子について聞くか。
「そういえば男のお子さんってここに住んでるんですか?」
「子供?…子供なんてうちで預かってないけど…」
「あっ……そうなんだ…ごめんなさい、なんでもない」
「……何でもないって」
これも謎の現象のひとつなのかも、とついていけない頭で納得しだすと、岳羽さんの顔が青くなっているのに気付いた。
「岳羽さん?」
「……部屋はここだから、…また明日、おやすみなさい」
「だ、大丈夫?…おやすみなさい」
心配で帰っていく岳羽さんの背中を見送る。岳羽さんは頭をぶんぶんと振った後、部屋に帰っていった。